6 / 29
第6話 始まりの朝5――開封の皇城
しおりを挟む
孟嬢たちは、そのまま皇城の南壁添いに西へと向かい、次に北へ折れ、やはり東壁添いに進み、真ん中ほどにある東華門よりようやく皇城に入った。皇城は史料によっては禁中とも呼ばれ、この方が日本の読者には馴染み深いかもしれない。
この皇城東壁の外側には市をなす商店が軒を連ねておった。皇城のお隣に?と不思議に想われるかもしれないが、もともと、開封という都が、汴河(黄河とつなげた運河)の水運による盛んな商いを礎に発展したことを想えば、それほど異とすべきことではないのかもしれない。
ここで、皇城の内側も説明しておこう。この東華門と逆側にある西華門をつなぐ大道が、皇城を南北に隔てる。ただ、これは地理的だけでなく、政治的な意味も有する。
この道の南側は、宰相・執政――今でいう大臣――たちを筆頭とした、臣下たちの仕事場となる。北側は皇帝の寝殿を中心とした区域となる。
ただ、この北側区域を皇帝の私的な――プライベートな――空間といえるかというと、そうとは言いがたい。なぜなら、この時の国家は、現代とは異なり、皇帝家が支配するものでもあったからである。
ゆえにここのところの区分はあくまで曖昧である。ただ、曖昧ゆえにこそ、時に争いの種となり、また、それゆえに歴史的・政治的に重要な役割を演じるところである。
そして、皇帝家ということであれば、後宮の女性たちが重要な位置を占めることは言うまでもない。
歴史的にみれば、唐の武則天や清の西太后が自らまつりごとをなした女性として有名である。ときに、彼女たちは稀代の悪女というように言われるが、元々、そうしたことを許容するものが、歴史時代の国家――そして同時代の人びとの意識の内――にはあったとみるべきである。
そして、この時の宋の後宮の女性たちの上に君臨するのが、これから孟嬢が会いに行く太皇太后の高氏である。
おまけ 「太」とは大とほぼ同意で、尊敬を表す。皇太后とは、皇后より一世代上を敬って、こう呼ぶのである。具体的には、前皇帝の皇后(正妻)であったり、現皇帝の生母であったりする。これは、同一人物であることもあれば、そうでないこともある。更に世代が一つ繰り上がると、つまり、孫が皇帝となると、もう一つ太が重なり、太皇太后と尊称される。長幼の序に基づいた尊称ともいえる。
この皇城東壁の外側には市をなす商店が軒を連ねておった。皇城のお隣に?と不思議に想われるかもしれないが、もともと、開封という都が、汴河(黄河とつなげた運河)の水運による盛んな商いを礎に発展したことを想えば、それほど異とすべきことではないのかもしれない。
ここで、皇城の内側も説明しておこう。この東華門と逆側にある西華門をつなぐ大道が、皇城を南北に隔てる。ただ、これは地理的だけでなく、政治的な意味も有する。
この道の南側は、宰相・執政――今でいう大臣――たちを筆頭とした、臣下たちの仕事場となる。北側は皇帝の寝殿を中心とした区域となる。
ただ、この北側区域を皇帝の私的な――プライベートな――空間といえるかというと、そうとは言いがたい。なぜなら、この時の国家は、現代とは異なり、皇帝家が支配するものでもあったからである。
ゆえにここのところの区分はあくまで曖昧である。ただ、曖昧ゆえにこそ、時に争いの種となり、また、それゆえに歴史的・政治的に重要な役割を演じるところである。
そして、皇帝家ということであれば、後宮の女性たちが重要な位置を占めることは言うまでもない。
歴史的にみれば、唐の武則天や清の西太后が自らまつりごとをなした女性として有名である。ときに、彼女たちは稀代の悪女というように言われるが、元々、そうしたことを許容するものが、歴史時代の国家――そして同時代の人びとの意識の内――にはあったとみるべきである。
そして、この時の宋の後宮の女性たちの上に君臨するのが、これから孟嬢が会いに行く太皇太后の高氏である。
おまけ 「太」とは大とほぼ同意で、尊敬を表す。皇太后とは、皇后より一世代上を敬って、こう呼ぶのである。具体的には、前皇帝の皇后(正妻)であったり、現皇帝の生母であったりする。これは、同一人物であることもあれば、そうでないこともある。更に世代が一つ繰り上がると、つまり、孫が皇帝となると、もう一つ太が重なり、太皇太后と尊称される。長幼の序に基づいた尊称ともいえる。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
主従の契り
しおビスケット
歴史・時代
時は戦国。天下の覇権を求め、幾多の武将がしのぎを削った時代。
京で小料理屋を母や弟と切り盛りしながら平和に暮らしていた吉乃。
ところが、城で武将に仕える事に…!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
零式輸送機、満州の空を飛ぶ。
ゆみすけ
歴史・時代
ダクラスDC-3輸送機を米国からライセンスを買って製造した大日本帝国。 ソ連の侵攻を防ぐ防壁として建国した満州国。 しかし、南はシナの軍閥が・・・ソ連の脅威は深まるばかりだ。 開拓村も馬賊に襲われて・・・東北出身の開拓団は風前の灯だった・・・
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
土方歳三ら、西南戦争に参戦す
山家
歴史・時代
榎本艦隊北上せず。
それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。
生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。
また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。
そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。
土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。
そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。
(「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
殿軍<しんがり>~小説越南元寇録~
平井敦史
歴史・時代
1257年冬。モンゴル帝国の大軍が、当時のベトナム――陳朝大越に侵攻した。
大越皇帝太宗は、自ら軍を率いてこれを迎え撃つも、精強なモンゴル軍の前に、大越軍は崩壊寸前。
太宗はついに全軍撤退を決意。大越の命運は、殿軍を任された御史中将・黎秦(レ・タン)の双肩に委ねられた――。
拙作『ベルトラム王国物語』の男主人公・タリアン=レロイのモデルとなったベトナムの武将・黎輔陳(レ・フー・チャン)こと黎秦の活躍をお楽しみください。
※本作は「カクヨム」の短編賞創作フェスお題「危機一髪」向けに書き下ろしたものの転載です。「小説家になろう」にも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
ユキノホタル ~名もなき遊女と芸者のものがたり~
蒼あかり
歴史・時代
親に売られ遊女になったユキ。一家離散で芸者の道に踏み入った和歌。
二度と会えなくても忘れないと誓う和歌。
彼の幸せを最後に祈るユキ。
願う形は違えども、相手を想う気持ちに偽りはない。
嘘と欲と金が渦巻く花街で、彼女たちの思いだけが真実の形。
二人の少女がそれでも愛を手に入れ、花街で生きた証の物語。
※ ハッピーエンドではありません。
※ 詳しい下調べはおこなっておりません。作者のつたない記憶の中から絞り出しましたので、歴史の中の史実と違うこともあるかと思います。その辺をご理解のほど、よろしくお願いいたします。
旅路ー元特攻隊員の願いと希望ー
ぽんた
歴史・時代
舞台は1940年代の日本。
軍人になる為に、学校に入学した
主人公の田中昴。
厳しい訓練、激しい戦闘、苦しい戦時中の暮らしの中で、色んな人々と出会い、別れ、彼は成長します。
そんな彼の人生を、年表を辿るように物語りにしました。
※この作品は、残酷な描写があります。
※直接的な表現は避けていますが、性的な表現があります。
※「小説家になろう」「ノベルデイズ」でも連載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
本能のままに
揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった
もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください!
※更新は不定期になると思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる