後宮流転花――宋の孟皇后(第1部 完)

ひとしずくの鯨

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第6話 始まりの朝5――開封の皇城

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 孟嬢たちは、そのまま皇城の南壁添いに西へと向かい、次に北へ折れ、やはり東壁添いに進み、真ん中ほどにある東華門よりようやく皇城に入った。皇城は史料によっては禁中とも呼ばれ、この方が日本の読者には馴染み深いかもしれない。

 この皇城東壁の外側には市をなす商店が軒を連ねておった。皇城のお隣に?と不思議に想われるかもしれないが、もともと、開封という都が、べん河(黄河とつなげた運河)の水運による盛んな商いを礎に発展したことを想えば、それほど異とすべきことではないのかもしれない。

 ここで、皇城の内側も説明しておこう。この東華門と逆側にある西華門をつなぐ大道が、皇城を南北に隔てる。ただ、これは地理的だけでなく、政治的な意味も有する。

 この道の南側は、宰相・執政――今でいう大臣――たちを筆頭とした、臣下たちの仕事場となる。北側は皇帝の寝殿を中心とした区域となる。

 ただ、この北側区域を皇帝の私的な――プライベートな――空間といえるかというと、そうとは言いがたい。なぜなら、この時の国家は、現代とは異なり、皇帝家が支配するものでもあったからである。

 ゆえにここのところの区分はあくまで曖昧である。ただ、曖昧ゆえにこそ、時に争いの種となり、また、それゆえに歴史的・政治的に重要な役割を演じるところである。

 そして、皇帝家ということであれば、後宮の女性たちが重要な位置を占めることは言うまでもない。

 歴史的にみれば、唐の武則天や清の西太后が自らまつりごとをなした女性として有名である。ときに、彼女たちは稀代の悪女というように言われるが、元々、そうしたことを許容するものが、歴史時代の国家――そして同時代の人びとの意識の内――にはあったとみるべきである。

 そして、この時の宋の後宮の女性たちの上に君臨するのが、これから孟嬢が会いに行く太皇太后の高氏である。




 おまけ 「太」とは大とほぼ同意で、尊敬を表す。皇太后とは、皇后より一世代上を敬って、こう呼ぶのである。具体的には、前皇帝の皇后(正妻)であったり、現皇帝の生母であったりする。これは、同一人物であることもあれば、そうでないこともある。更に世代が一つ繰り上がると、つまり、孫が皇帝となると、もう一つ太が重なり、太皇太后と尊称される。長幼の序に基づいた尊称ともいえる。
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