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第5話 始まりの朝4

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 私は次のときには見とれておった。そして想わず感嘆の声を上げる。

「なんて、きれいなお顔」

 そう口に出してから、頬に血の気がのぼる。恥ずかしさのためだった。

 幞頭(帽子の一種)の下にあるは、薄い眉に切れ長の目、鼻筋は細く、唇は色白に際立つ真っ赤なおちょぼ口であった。ヒゲは無い。

 少女と言われても、うなずいたかもしれない。でも、きっと内侍(宦官)の方だわ。

 そして私より頭一つ高い彼は、そのすらりとした身を、薄い藍色の長衣に包む。

「随分、元気なおとうとさんですね」

「いえ。ただのバカです」
 
 ついつい本音が出る。私ったら、また余計なことを。私のうろたえ振りは更に増して行く。見て見ぬ振りをしようとしてくれる優しさからだろう、次の如くに話しを持って行ってくれた。

「孟家のお嬢様ですね」

「私を知っているの?」

 こんな美男子が私のことを。どうして? 想わず声もうわずる。

 ただ、それに直接のいらえはなく、

「他のお嬢様方は既におそろいですので。急ぎましょう」

 えっ。遅刻。その当事者として、私の名前が挙がっていたってこと。もしかして、最初から大ひんしゅく?

 その現実にうなだれる間もなく、ただでさえ足の速い彼に遅れまいと、付いて行く。慣れぬ衣と靴――いずれも今日のために親戚から借りたものである――のために、半ばまろびそうになりながら。
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