上 下
15 / 19
第一章

仮面の忍者

しおりを挟む
 カイトは暗い森のなかを走っていた。時刻は午前四時頃。夜中に一人で訓練をしていたカイトは、微かに覚えのあるような気配を感じたのだった。この世界ではなく、もとの世界で感じたことのあるようなものだった。そしてそれは強力な気配を抑えているにもかかわらず、漏れ出てしまっているようなものだった。
 僅かな気配を頼りに走り続けていたカイトは自分がどこにいるのかはわかっていなかった。ただ、綾目によって少しずつエネルギーの通った跡が見えてきていた。次はそれを追っていた。
 その結果たどり着いた先に見えたのは……何かが燃えている光景。そして、その側にいる気配の正体。
 カイトは注意深く見ようとしたが、自分の気配が駄々もれだったことに気づく。そのときにはもう遅かった。
 燃えている側に立っている何者かは、カイトの方を見ることなく飛び道具を投げてきた。忍者が使うようなクナイや手裏剣だ。
 それを避けながら近付いて見ると、燃えているのは女と男だった。そしてその一人は見覚えがあった。あのヴィオラだった。
「お前は何者だ」
 木の枝の上から見下ろして、尋ねるカイト。
「チッ」
 舌打ちをしたかと思うとその人物は一瞬にして、カイトのいる高さまで飛んできて踵で蹴り落とした。白塗りの仮面で顔を隠している。
 着地直前で両手で地面を叩いて起き上がったカイトは、いつの間にか目の前にいた仮面の人物に腹を蹴られ、勢いよく木にぶつかった。
「強い……」
 カイトはもちろん、綾目によって人物のエネルギーの流れは見えたいた。が、見えるだけでその速度についていけないのだ。
「水龍牙砲」
 背中を打ち付けられた反動を受けていたカイトに追い討ちをかけるように、水の龍が襲いかかる。
「まだ……いな」
 聞き取れない声を聞きながら、カイトは気を失った。
「おーい、おーい」
 カイトが意識を取り戻したとき、辺りは明るみを帯びていた。あのまま木に体重を寄りかけて、眠っていたらしい。
「あれやったのって君?」
 リオンはカイトとの間に一枚の防壁を作っている。そして、焼け焦げた二つの死体を指差す。
「違う、俺じゃねぇ。仮面の野郎だ」
「仮面?そんなやついないけど」
 リオンはキョロキョロと周りを見る。その場にいるのは眠そう、というか立ったままて寝ているミカゲ、タオとルル姉弟だけ。
「いたんだよ。信じられねぇなら別にいいけど」
 カイトは慣れていた。信用などもう二度とされないとさえ、元の世界では思っていた。
「別に信じない訳じゃないよ」
 カイトはリオンの顔を見上げた。
「だって、真夜中にすごい殺気を感じたんだもん。そこにもう一人やって来てぶつかり合ってて、というかは一方的にやられてる感じだったし。出ていこうかな、とも思ったんだけど敵わないことはわかってたからさ。それにしてもこの防壁を突き破るなんてやばすぎるよ」
 リオンは両手をあげてお手上げだ、という風なポーズをしている。
「ああ、あいつはやばかった」
「いや、君も相当だからね。ヤバイやつのすぐあとにヤバいやつ来て、怖くて仕方なかったんだから。ただ、その仮面つけてたか知らないけどそいつが上回っていただけだよ」
 小鳥が空を舞い、小動物が地上を走る。タオとルルは真っ黒になっているヴィオラとシャージャを見下ろしている。
「あの二人を倒したのは?」
「それはボクとあのモジャモジャ頭。それはそれで君は何者? 見たことない道具持ってるけど」
「俺は忍者だ」
 カイトはそれは何かと、また問い詰められるものだろうと思っていた。が、リオンの反応は予想外のものだった。
「あぁ、君があれか。王が言ってたニンジャか。でもなんでこんなとこにいる? モカ様の行った村にいるはずでは? ここからは歩いて一時間ぐらいはかかるんじゃ?」
「夜中に一人で訓練していたら、気配を感じて走ってきたんだよ」
 ほんの数時間前の感覚をカイトは思い出していた。
「そんな気配だけてこんなところまでやって来たのか。その察知力もすごいが、わざわざどうしてやって来たんだよ」
「知っている人間に似ていたんだ」
 あまり多くを語ることはできなかった。元の世界の話などもできないわけだったから。
「ほう、あんなにも強い力を持つ人間と知り合いなのか?」
「いや、人違いかもしれない」
「君のいう知り合いについては語りたくないって感じか」
 カイトは懐かしい気配を感じていた。あり得ない、とは思っていたもののそうだと思わざるを得なかった。しかし実際にあの仮面の人物を見たとき、自分の予想が的中していると断言はできなかった。まるで知らない別の強い気配をあの人物からは感じたからた。が、いずれにしてもあの人物は忍者の使う飛び道具を持っていた。そして「水龍牙砲」という忍術を使っていた。それらから、同じ世界から忍者がなのかもしれないと考えていた。
「ついでだし、モカ様のいる村に寄るか」
 そう決断したリオンはまだ立ち眠りを続けているミカゲの肩を叩いて確認する。
「それでいいよね」
「面倒なことじゃないか?」
「大丈夫。それより、君たち姉弟はどうしようか。格闘家のお姉ちゃんと言霊使いの弟だよね。ちょっとは盗人として有名だよ。まぁあのヴィオラに使われてたんだろうけど。とりあえず離れずについてきてくれる?」
 姉弟は捕まってしまうかもしれないという恐怖を覚えているようだった。
「大丈夫だよ。王は優しい方だ。想像してるみたいな酷いようにはならない、と思うよ。というか、ボクからは逃げれないからね」
 こうして、リオンとミカゲ、カイト、そして半ば強制的にタオとルルも含めて五人はモカやユアナのいる村へ森のなかを進んでいくこととなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

解放の砦

さいはて旅行社
ファンタジー
その世界は人知れず、緩慢に滅びの道を進んでいた。 そこは剣と魔法のファンタジー世界。 転生して、リアムがものごころがついて喜んだのも、つかの間。 残念ながら、派手な攻撃魔法を使えるわけではなかった。 その上、待っていたのは貧しい男爵家の三男として生まれ、しかも魔物討伐に、事務作業、家事に、弟の世話と、忙しく地味に辛い日々。 けれど、この世界にはリアムに愛情を注いでくれる母親がいた。 それだけでリアムは幸せだった。 前世では家族にも仕事にも恵まれなかったから。 リアムは冒険者である最愛の母親を支えるために手伝いを頑張っていた。 だが、リアムが八歳のある日、母親が魔物に殺されてしまう。 母が亡くなってからも、クズ親父と二人のクソ兄貴たちとは冷えた家族関係のまま、リアムの冒険者生活は続いていく。 いつか和解をすることになるのか、はたまた。 B級冒険者の母親がやっていた砦の管理者を継いで、書類作成確認等の事務処理作業に精を出す。砦の守護獣である気分屋のクロとツンツンなシロ様にかまわれながら、A級、B級冒険者のスーパーアスリート超の身体能力を持っている脳筋たちに囲まれる。 平穏無事を祈りながらも、砦ではなぜか事件が起こり、騒がしい日々が続く。 前世で死んだ後に、 「キミは世界から排除されて可哀想だったから、次の人生ではオマケをあげよう」 そんな神様の言葉を、ほんの少しは楽しみにしていたのに。。。 オマケって何だったんだーーーっ、と神に問いたくなる境遇がリアムにはさらに待っていた。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

来訪神に転生させてもらえました。石長姫には不老長寿、宇迦之御魂神には豊穣を授かりました。

克全
ファンタジー
ほのぼのスローライフを目指します。賽銭泥棒を取り押さえようとした氏子の田中一郎は、事もあろうに神域である境内の、それも神殿前で殺されてしまった。情けなく申し訳なく思った氏神様は、田中一郎を異世界に転生させて第二の人生を生きられるようにした。

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

レディース異世界満喫禄

日の丸
ファンタジー
〇城県のレディース輝夜の総長篠原連は18才で死んでしまう。 その死に方があまりな死に方だったので運命神の1人に異世界におくられることに。 その世界で出会う仲間と様々な体験をたのしむ!!

処理中です...