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第一章
情報止屋 累
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「やっぱりこういうところは、どこでも人がいっぱいなんですね!」
グレイブリッジにたどり着いた、カスミと唄は商店街に来ていた。道の両側に様々な店が、ずらりと並んでいる。ここには上級から下級まで、すべての人間が物を求めてやって来ており、賑わいの絶えることがない。
「商店街とは、どんなところでも人が集まるものです」
「どこにいるんだろう、エルさん」
「エルさん? 薬屋さんのことですか?」
「あの人、本名教えてくれないんですよ」
目を凝らして必死に探そうとするカスミ。
「なにか、秘密の仕事でもしていらっしゃるのかもしれませんね。さて、どうしましょうか……」
そのとき、どこからかお腹の虫の鳴き声がした。
カスミは、お腹を押さえて恥ずかしそうにしている。
「お腹空きましたよね。もう、お昼の時間も過ぎてしまってますし。うどん、食べれますか?」
先程までの場所に比べて、少し落ち着いた雰囲気の場所に、唄はカスミをつれてきた。
「ここに、僕の行きつけの店がありまして。静かでいいのですが、時々騒ぎ事があるので僕からあまり離れないようにしてください」
「おう、ウタさんじゃないか」
ある屋台から、店主の呼ぶ声が聞こえてくる。そこにいたのは、その太い声に似合った体つきのをした、大男と呼ぶにふさわしい男性だった。頭には白いタオルを巻いている。
「どうも、お久しぶりです。ここに来たら、やはりここで食べたくなります」
唄は親しげに店主と話しながら、屋台へ入る。その横にカスミもついていく。
「あんたは、嬉しいこと言ってくれるね。おや、このお嬢ちゃんは誰だい?まさか、彼女さんか?」
店主は物珍しそうな目をカスミに向けた。
「私、カスミです。お兄さんには用心棒してもらってます」
「ほう、そうかい!見かけたことないけど、どこの人だい?」
「ロックストーンです」
「そうかそうか、よろしくな。俺は武だ。和の地からこっちに来て、うどん屋をやっているんだよ」
武《タケ》と名乗った店主は右手を差し出した。それに応えてカスミはその手を握った。
「よろしくお願いします」
「堂々としてるね! ウタさんりも、よほど強そうだけどな」
「私、優しい人だって思えたら、堂々とできるんです。でも、悪そうな人の前だと怖じけついてしまうんです。それに、お兄さんすごく強いんですよ!私を追いかけてきた賊三人を、一瞬で気絶させたんです」
「そうなのか、それはすごいな! まぁ、でもこいつともう一人、よく来てくれるやつがいるんだけどな、ここで柄の悪いやつらが暴れ始めたときに、どちらかがいれば、すぐに騒ぎが収まるんだよ」
会話に夢中で店主の手は止まっていた。
「店主、そろそろ、うどんをつくってもらっていいですか?」
「ああ、すまないね」
「ふざけんなよ、こら!」
突然、叫び声が聞こえた。そちらに目をやると、金髪のチンピラが地に倒れている女性を見下ろしていた。
「どこ見て歩いてるんだよ。ぶつかってきやがって。代償は払ってもらうぞ。千万だ! 無理なら一緒に来い!」
金髪男は女性の腕をつかみ、無理矢理に起き上がらせようとする。
唄はそれをじっと見ている。
「おい、ウタさん。助けてやらないと」
小さな声で店主が話しかけるが、決して動じない唄。
「すいません。すいません」
謝り続ける女性を立ち上がらせて腕を引っ張り、チンピラが歩き出そうとしたときだった。
「ちょっといいか?」
白シャツに黒いベストを羽織い、黒パンツを履いた白髪の高身長イケメンが現れた。
「なんだ?俺に話しかけるなんて、いい度胸して……」
チンピラは言い終わらないうちに、腹を一発殴られて崩れた。
「くそ……」
「早くどっか行った方がいいぜ。オレは殺さないけど、あっちの和服の人が殺してしまうかもしれない」
白髪の男は唄の方を指した。
「くっ、あれは……」
「よかった。知ってるみたいだ。それなら説明は要らないな。早く消えろ」
金髪男は醜態をつきながら、腹を抱えて逃げていった。
「怪我はないか」
「あの、ありがとうございます」
「いいから、早くこんなとこから抜けな。ここは人通り少なくて、柄悪いから」
女性は何度も男に頭を下げながら、走り去った。
「さてと、久しぶりだな、唄」
「累、お久しぶりです」
唄に累と呼ばれた男は、屋台へと近づいてきた。
「元気にしてたか、まだそんな格好してるのか。タケさん、こんにちは。俺もうどんひとつ。あれ?珍しく女性の客もいるじゃないか」
「おう、ルイ。何が珍しくだよ。でもな、珍しいことなんだよ。このウタさんがつれてきたんだよ。嬢ちゃん、これがさっき言ってたもう一人の強いやつだ」
「お兄さん、かっこよかったです。はじめまして、私はカスミです。ウタさんに用心棒をしてもらってます」
カスミは累に怯えている様子はない。優しい人だと判断したということだ。
「オレは累。お嬢さん、ちょっとごめんな」
累は唄を屋台の外に引っ張り出した。
「お前、どういうつもりなんだ?あの子は誰なんだ」
少し離れたところで、屋台に背を向けて唄の胸ぐらを掴む累。
「それは仕事として聞いてますか?」
詩は首をかしげる。白いきれいなうなじがみえる。
「こんなところでとぼけなくていい。彼女にはなんて言ってるんだ。吟遊詩人か?」
「ええ」
「それで用心棒ってどういうことだよ」
しつこく聞く累に、唄はこれまでの経緯《いきさつ》を話した。
「それでなんで、オッケーするんだよ。本当は暗殺者だってバレたらどうするんだ?」
できる限り小さな声で、カスミに聞こえないように唄の耳元で話す累。
「僕は彼女を殺すつもりはありません。今晩、仕事があるので、その間は彼女の面倒見てもらえますか?」
「少女の用心棒の合間に暗殺する吟遊詩人だなんて、忙しいやつだな」
「もう、仕方ないことでしょう?」
「まあ、そうだけど。オレだってきっと同じ立場でも放っておけないだろうからな。特にあんなに可愛い子は」
累は目線を後ろに移す。カスミは店主と楽しそうに話している。
「戻りましょうよ。彼女もうどんも待ってますよ」
二人は屋台の中に戻った。
「すまないな。久しぶりの再会だったから、聞きたいこととかがあって」
「いいですよ。累お兄さんは、どんな仕事をしているのですか?」
累の話を聞こうと、体の向きを変えるカスミ。邪魔になった髪を耳にかけ直す。
「オレは情報屋だよ」
「ほんとにいたんですね!?今日は会ってみたかった人にたくさん会えて、嬉しいです」
カスミは目を輝かせている。
「情報屋なんて、そんな会って嬉しいことないと思うけどな」
「お嬢ちゃん、うどん食べれるか?」
「はい、美味しいです。これがはじめてなんて、もったいなかったです」
「そうだろ、でもはじめてがうちのうどんなら、もう他は食べられないかもな」
「うすぐらい まちにかがやく いのちかな」
三人の会話が弾むなか、唄はうどんに集中していた。
「美味しかった」
食べ終えた三人は店主に別れを告げ、屋台を出る。
「日が沈みきる前に、エルさんを探しましょうか」
「オレの情報によると、ロックストーンからこっちに来た薬屋さんは、ホテル街と商店街の境目付近で商売しているはずだ」
「そんなことまで、知ってるんですね」
カスミは感心している。
「ホテル街に近いのは嬉しいですね。早速向かいましょう」
陽が沈み、段々と空は暗くなり始めていた。
グレイブリッジにたどり着いた、カスミと唄は商店街に来ていた。道の両側に様々な店が、ずらりと並んでいる。ここには上級から下級まで、すべての人間が物を求めてやって来ており、賑わいの絶えることがない。
「商店街とは、どんなところでも人が集まるものです」
「どこにいるんだろう、エルさん」
「エルさん? 薬屋さんのことですか?」
「あの人、本名教えてくれないんですよ」
目を凝らして必死に探そうとするカスミ。
「なにか、秘密の仕事でもしていらっしゃるのかもしれませんね。さて、どうしましょうか……」
そのとき、どこからかお腹の虫の鳴き声がした。
カスミは、お腹を押さえて恥ずかしそうにしている。
「お腹空きましたよね。もう、お昼の時間も過ぎてしまってますし。うどん、食べれますか?」
先程までの場所に比べて、少し落ち着いた雰囲気の場所に、唄はカスミをつれてきた。
「ここに、僕の行きつけの店がありまして。静かでいいのですが、時々騒ぎ事があるので僕からあまり離れないようにしてください」
「おう、ウタさんじゃないか」
ある屋台から、店主の呼ぶ声が聞こえてくる。そこにいたのは、その太い声に似合った体つきのをした、大男と呼ぶにふさわしい男性だった。頭には白いタオルを巻いている。
「どうも、お久しぶりです。ここに来たら、やはりここで食べたくなります」
唄は親しげに店主と話しながら、屋台へ入る。その横にカスミもついていく。
「あんたは、嬉しいこと言ってくれるね。おや、このお嬢ちゃんは誰だい?まさか、彼女さんか?」
店主は物珍しそうな目をカスミに向けた。
「私、カスミです。お兄さんには用心棒してもらってます」
「ほう、そうかい!見かけたことないけど、どこの人だい?」
「ロックストーンです」
「そうかそうか、よろしくな。俺は武だ。和の地からこっちに来て、うどん屋をやっているんだよ」
武《タケ》と名乗った店主は右手を差し出した。それに応えてカスミはその手を握った。
「よろしくお願いします」
「堂々としてるね! ウタさんりも、よほど強そうだけどな」
「私、優しい人だって思えたら、堂々とできるんです。でも、悪そうな人の前だと怖じけついてしまうんです。それに、お兄さんすごく強いんですよ!私を追いかけてきた賊三人を、一瞬で気絶させたんです」
「そうなのか、それはすごいな! まぁ、でもこいつともう一人、よく来てくれるやつがいるんだけどな、ここで柄の悪いやつらが暴れ始めたときに、どちらかがいれば、すぐに騒ぎが収まるんだよ」
会話に夢中で店主の手は止まっていた。
「店主、そろそろ、うどんをつくってもらっていいですか?」
「ああ、すまないね」
「ふざけんなよ、こら!」
突然、叫び声が聞こえた。そちらに目をやると、金髪のチンピラが地に倒れている女性を見下ろしていた。
「どこ見て歩いてるんだよ。ぶつかってきやがって。代償は払ってもらうぞ。千万だ! 無理なら一緒に来い!」
金髪男は女性の腕をつかみ、無理矢理に起き上がらせようとする。
唄はそれをじっと見ている。
「おい、ウタさん。助けてやらないと」
小さな声で店主が話しかけるが、決して動じない唄。
「すいません。すいません」
謝り続ける女性を立ち上がらせて腕を引っ張り、チンピラが歩き出そうとしたときだった。
「ちょっといいか?」
白シャツに黒いベストを羽織い、黒パンツを履いた白髪の高身長イケメンが現れた。
「なんだ?俺に話しかけるなんて、いい度胸して……」
チンピラは言い終わらないうちに、腹を一発殴られて崩れた。
「くそ……」
「早くどっか行った方がいいぜ。オレは殺さないけど、あっちの和服の人が殺してしまうかもしれない」
白髪の男は唄の方を指した。
「くっ、あれは……」
「よかった。知ってるみたいだ。それなら説明は要らないな。早く消えろ」
金髪男は醜態をつきながら、腹を抱えて逃げていった。
「怪我はないか」
「あの、ありがとうございます」
「いいから、早くこんなとこから抜けな。ここは人通り少なくて、柄悪いから」
女性は何度も男に頭を下げながら、走り去った。
「さてと、久しぶりだな、唄」
「累、お久しぶりです」
唄に累と呼ばれた男は、屋台へと近づいてきた。
「元気にしてたか、まだそんな格好してるのか。タケさん、こんにちは。俺もうどんひとつ。あれ?珍しく女性の客もいるじゃないか」
「おう、ルイ。何が珍しくだよ。でもな、珍しいことなんだよ。このウタさんがつれてきたんだよ。嬢ちゃん、これがさっき言ってたもう一人の強いやつだ」
「お兄さん、かっこよかったです。はじめまして、私はカスミです。ウタさんに用心棒をしてもらってます」
カスミは累に怯えている様子はない。優しい人だと判断したということだ。
「オレは累。お嬢さん、ちょっとごめんな」
累は唄を屋台の外に引っ張り出した。
「お前、どういうつもりなんだ?あの子は誰なんだ」
少し離れたところで、屋台に背を向けて唄の胸ぐらを掴む累。
「それは仕事として聞いてますか?」
詩は首をかしげる。白いきれいなうなじがみえる。
「こんなところでとぼけなくていい。彼女にはなんて言ってるんだ。吟遊詩人か?」
「ええ」
「それで用心棒ってどういうことだよ」
しつこく聞く累に、唄はこれまでの経緯《いきさつ》を話した。
「それでなんで、オッケーするんだよ。本当は暗殺者だってバレたらどうするんだ?」
できる限り小さな声で、カスミに聞こえないように唄の耳元で話す累。
「僕は彼女を殺すつもりはありません。今晩、仕事があるので、その間は彼女の面倒見てもらえますか?」
「少女の用心棒の合間に暗殺する吟遊詩人だなんて、忙しいやつだな」
「もう、仕方ないことでしょう?」
「まあ、そうだけど。オレだってきっと同じ立場でも放っておけないだろうからな。特にあんなに可愛い子は」
累は目線を後ろに移す。カスミは店主と楽しそうに話している。
「戻りましょうよ。彼女もうどんも待ってますよ」
二人は屋台の中に戻った。
「すまないな。久しぶりの再会だったから、聞きたいこととかがあって」
「いいですよ。累お兄さんは、どんな仕事をしているのですか?」
累の話を聞こうと、体の向きを変えるカスミ。邪魔になった髪を耳にかけ直す。
「オレは情報屋だよ」
「ほんとにいたんですね!?今日は会ってみたかった人にたくさん会えて、嬉しいです」
カスミは目を輝かせている。
「情報屋なんて、そんな会って嬉しいことないと思うけどな」
「お嬢ちゃん、うどん食べれるか?」
「はい、美味しいです。これがはじめてなんて、もったいなかったです」
「そうだろ、でもはじめてがうちのうどんなら、もう他は食べられないかもな」
「うすぐらい まちにかがやく いのちかな」
三人の会話が弾むなか、唄はうどんに集中していた。
「美味しかった」
食べ終えた三人は店主に別れを告げ、屋台を出る。
「日が沈みきる前に、エルさんを探しましょうか」
「オレの情報によると、ロックストーンからこっちに来た薬屋さんは、ホテル街と商店街の境目付近で商売しているはずだ」
「そんなことまで、知ってるんですね」
カスミは感心している。
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