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【#最終話 嵐の予感がしました】
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パッパラパー、パパパパッパラパパパパパー!!
華麗なトランペットの音が、大音量で鳴り響いた。
え、何なに?! どういうこと?
あまりにもキスと音楽が同時だったので、最初、私のお花畑な脳内が奏でた音かと思った。
でも、周囲の人々が静まり返り、庭園に向かって赤絨毯が伸びてくるのが見えて、私は目を見開いた。
アキトも腕を離し、正門のほうを見つめている。
豪華な馬車が停まっており、そこから降りてくる人影があった。
「ヨハン王子殿下のお出ましである!!」
威厳のある声が、空間に轟き渡った。
え、王子!!?
眼鏡科の生徒も、遊びに来たお客さんたちも、何が起こったのか分からず目を丸くしている。
だが、馬車から降り立った人物が歩き出すと同時に、全員が一斉に地面に膝をついて頭を下げ、道を開けた。
私はアキトの袖を引き、小声で言った。
「王子って何? どういうこと?」
「分かりません。王子がいらっしゃるというお話は承っておりませんでした。ですが、あの方は恐らく本物です」
アキトの表情が緊迫している。
無理もない。だって、王子殿下と言えばリアンダー王国のVIP中のVIP。
おいそれと王宮の外に姿を現す方じゃない。
公爵令嬢の私でさえ、今までお目にかかったことはないんだもん、
近づいてくるにつれ、ヨハン王子の姿形がはっきりしてきた。
まず、キラキラオーラがすごい。
着ている服も白を基調とした王子様スタイルなんだけど、それ以上に全身から溢れ出すキラキラオーラがまぶしくて、目がつぶれそう。
炎のような赤い髪に、黄金の瞳。どちらもリアンダー王家の血を継ぐ者の証だ。
小さいころ、お父様から聞かされた話そのものだ。
本当に……この国の王子様なんだ。
でも、どうして王子様がこんなところに?
「お嬢様、ご低頭ください」
アキトのおかげで、呆然としていた私は慌てて頭を下げた。
赤絨毯の上を歩いてくるヨハン王子は、私たちの前で立ち止まる。
ぞろぞろと十人ぐらい執事や護衛を引き連れており、私たちは彼らに取り囲まれるような状態になった。
「顔、上げていいよ」
頭上から聞こえてきたのは、予想していたより少し幼い声だった。
顔を上げると、愛くるしい笑顔で見つめられる。
「君がティアメイだね」
「はい。プリスタイン学園眼鏡科、学園長のティアメイ・アネット・ルーシー・クレア・プリスタインと申します」
私は背筋を伸ばし、顎を引き、明瞭な声で一言ずつ発話した。
自分の正式名を告げたのは、それが最大の敬意を払う礼儀作法だからだ。
ヨハン王子は私の手を取ると、手の甲にキスをした。
これも貴族社会では、初対面の男性が女性に行う礼儀である。
「我が名はヨハン・シュトラウス・ウォルフガング・アマデウス・ロイ・リアンダー。リアンダー王国第一王子である」
第一王子は王位継承権一位、この国で王に次ぐ地位と権力を有する。
その絶大な権威とは裏腹に、ヨハン王子の瞳は子どものように明るく澄んでいた。
「お目にかかれて光栄です、王子殿下」
「ヨハンでいいよ。堅苦しい挨拶はこの辺にしよう。今日は君に挨拶に来たんだ」
「ご挨拶……ですか」
意図がつかめず、私は戸惑った。
隣にいるアキトも、頭を下げたままじっと控えているが、困惑しているのが分かる。
挨拶って、何の挨拶?
「俺、新学期からこの学園に入学するから、よろしくね!」
握手をしながら、あまりにも無邪気に言われたので、脳が言葉を理解するのに数秒かかった。
え……?
ヨハン王子が眼鏡科に入学!?!?
「え、え、ええええええっーー!?」
「お嬢様」
思わず盛大な悲鳴を上げてしまった私は、アキトに目配せされてたしなめられた。
いけない、いけない。公爵令嬢らしからぬふるまいだったわ。
「はははっ、びっくりした? それだけ言いに来たんだ。じゃ、王宮に帰るね」
ヨハン王子はは楽しそうに笑うと、返事もできない私を取り残し、赤絨毯の上を歩き出した。
お付きの人たちも、ぞろぞろと彼に続く。
数歩歩いたところで、肩越しに振り向くと、片目をつむって言った。
「また新学期にね、ティアメイ」
去りゆく後姿を見送りながら、私はその場にへなへなと崩れ落ちる。
「ど、どどどどういうこと……?」
「……やれやれ。一難去ってまた一難ですね」
アキトは溜息まじりに言って、苦笑している。
確かに、これはまた、とてつもない嵐が起こりそう……!!
「アキト」
「はい」
「後でお父様に連絡して、ヨハン王子のことを聞きましょう。入学されるのが本当なら、あと一月ちょっとで準備を整えないと」
「かしこまりました」
「でも、今だけは」
「今だけは?」
私は大きく息を吸うと、アキトに手を差し出した。
「眼鏡ドーナツをもう一個食べて、眼鏡祭を楽しんで、もう少しだけ……くっついてたいわ」
あとちょっとだけ、この幸せを味わってもいいよね?
「はい。俺もです、お嬢様」
アキトは優しく微笑んで、私の手をそっと握りしめた。
【終わり】
華麗なトランペットの音が、大音量で鳴り響いた。
え、何なに?! どういうこと?
あまりにもキスと音楽が同時だったので、最初、私のお花畑な脳内が奏でた音かと思った。
でも、周囲の人々が静まり返り、庭園に向かって赤絨毯が伸びてくるのが見えて、私は目を見開いた。
アキトも腕を離し、正門のほうを見つめている。
豪華な馬車が停まっており、そこから降りてくる人影があった。
「ヨハン王子殿下のお出ましである!!」
威厳のある声が、空間に轟き渡った。
え、王子!!?
眼鏡科の生徒も、遊びに来たお客さんたちも、何が起こったのか分からず目を丸くしている。
だが、馬車から降り立った人物が歩き出すと同時に、全員が一斉に地面に膝をついて頭を下げ、道を開けた。
私はアキトの袖を引き、小声で言った。
「王子って何? どういうこと?」
「分かりません。王子がいらっしゃるというお話は承っておりませんでした。ですが、あの方は恐らく本物です」
アキトの表情が緊迫している。
無理もない。だって、王子殿下と言えばリアンダー王国のVIP中のVIP。
おいそれと王宮の外に姿を現す方じゃない。
公爵令嬢の私でさえ、今までお目にかかったことはないんだもん、
近づいてくるにつれ、ヨハン王子の姿形がはっきりしてきた。
まず、キラキラオーラがすごい。
着ている服も白を基調とした王子様スタイルなんだけど、それ以上に全身から溢れ出すキラキラオーラがまぶしくて、目がつぶれそう。
炎のような赤い髪に、黄金の瞳。どちらもリアンダー王家の血を継ぐ者の証だ。
小さいころ、お父様から聞かされた話そのものだ。
本当に……この国の王子様なんだ。
でも、どうして王子様がこんなところに?
「お嬢様、ご低頭ください」
アキトのおかげで、呆然としていた私は慌てて頭を下げた。
赤絨毯の上を歩いてくるヨハン王子は、私たちの前で立ち止まる。
ぞろぞろと十人ぐらい執事や護衛を引き連れており、私たちは彼らに取り囲まれるような状態になった。
「顔、上げていいよ」
頭上から聞こえてきたのは、予想していたより少し幼い声だった。
顔を上げると、愛くるしい笑顔で見つめられる。
「君がティアメイだね」
「はい。プリスタイン学園眼鏡科、学園長のティアメイ・アネット・ルーシー・クレア・プリスタインと申します」
私は背筋を伸ばし、顎を引き、明瞭な声で一言ずつ発話した。
自分の正式名を告げたのは、それが最大の敬意を払う礼儀作法だからだ。
ヨハン王子は私の手を取ると、手の甲にキスをした。
これも貴族社会では、初対面の男性が女性に行う礼儀である。
「我が名はヨハン・シュトラウス・ウォルフガング・アマデウス・ロイ・リアンダー。リアンダー王国第一王子である」
第一王子は王位継承権一位、この国で王に次ぐ地位と権力を有する。
その絶大な権威とは裏腹に、ヨハン王子の瞳は子どものように明るく澄んでいた。
「お目にかかれて光栄です、王子殿下」
「ヨハンでいいよ。堅苦しい挨拶はこの辺にしよう。今日は君に挨拶に来たんだ」
「ご挨拶……ですか」
意図がつかめず、私は戸惑った。
隣にいるアキトも、頭を下げたままじっと控えているが、困惑しているのが分かる。
挨拶って、何の挨拶?
「俺、新学期からこの学園に入学するから、よろしくね!」
握手をしながら、あまりにも無邪気に言われたので、脳が言葉を理解するのに数秒かかった。
え……?
ヨハン王子が眼鏡科に入学!?!?
「え、え、ええええええっーー!?」
「お嬢様」
思わず盛大な悲鳴を上げてしまった私は、アキトに目配せされてたしなめられた。
いけない、いけない。公爵令嬢らしからぬふるまいだったわ。
「はははっ、びっくりした? それだけ言いに来たんだ。じゃ、王宮に帰るね」
ヨハン王子はは楽しそうに笑うと、返事もできない私を取り残し、赤絨毯の上を歩き出した。
お付きの人たちも、ぞろぞろと彼に続く。
数歩歩いたところで、肩越しに振り向くと、片目をつむって言った。
「また新学期にね、ティアメイ」
去りゆく後姿を見送りながら、私はその場にへなへなと崩れ落ちる。
「ど、どどどどういうこと……?」
「……やれやれ。一難去ってまた一難ですね」
アキトは溜息まじりに言って、苦笑している。
確かに、これはまた、とてつもない嵐が起こりそう……!!
「アキト」
「はい」
「後でお父様に連絡して、ヨハン王子のことを聞きましょう。入学されるのが本当なら、あと一月ちょっとで準備を整えないと」
「かしこまりました」
「でも、今だけは」
「今だけは?」
私は大きく息を吸うと、アキトに手を差し出した。
「眼鏡ドーナツをもう一個食べて、眼鏡祭を楽しんで、もう少しだけ……くっついてたいわ」
あとちょっとだけ、この幸せを味わってもいいよね?
「はい。俺もです、お嬢様」
アキトは優しく微笑んで、私の手をそっと握りしめた。
【終わり】
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