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【#60 夢が叶いました】
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気づいた方もいるかと思うけど、今日は珍しく、私の横にアキトがいない。
眼鏡祭の運営委員として、別々に見回りをしているからなんだけど、理由は他にもある。
とうとう私の念願だった、眼鏡男子(アキト)との制服デートが叶う日なのだ!
「ごめん、お待たせ~」
これこれ、これがやりたかったのよ。デートの待ち合わせ場所に向かうっていうやつ。
いつも傍に付き添ってもらったんじゃ、待ち合わせできないでしょ?
だから無理言って、一旦別行動を取ってもらったの。
昇降口のところで、私が手を振りながら近づくと、アキトは丁重に頭を下げた。
「見回りお疲れさまでした、お嬢様」
「もう、敬語やめてよ。ここは『全然待ってないよ~』とか『今日もかわいいね』的なことを言って、デートを盛り上げるところなんだから」
「失礼いたしました。ただ、学園内ということもありますので、配慮は必要かと」
アキトは周囲を見回している。
確かに、私たちはまだ公認のカップルじゃないもんね。
学園長とその執事が、何の説明もなく、いきなりラブラブしていたら怖いよね。
よし、ここは大人になろう。
「じゃ、行きましょうか」
「はい」
二人で並んで歩き出す。それだけで笑みがこぼれてくる。
学園祭デート、定番じゃない? 青春っぽくない?
ずっと夢見ていた制服眼鏡男子とのデート。
しかもアキトと――好きな人と一緒に回れるなんて幸せすぎる!
「あ、これ見て。エルが作った眼鏡よ」
二年生の作品展示室に入ると、私はガラスケースを指さした。
ライムグリーンのフレームの眼鏡は、洗練されていてエルらしい。
「アキトのはどれ?」
「こちらです」
指さされたのは、銀のチェーンのついた片眼鏡だった。
「うわー、素敵! これ、モノクルじゃない。よく考えついたわね」
「恐れ入ります。科学の授業の際、虫眼鏡を使用したときに思いついたんです。片目用の眼鏡があってもいいのではないかと」
「さすがアキトね。ね、これが私の作った眼鏡よ」
私はガラスケースの前に立つと、胸を張って言った。
アキトの瞳を思わせる、深い紫色のフレームには、小さなガラスの粒が嵌め込んである。
丹精込めて作った自信作だった。
「美しいですね。こちらの石はガラスですが、もっと大きな宝石にしてもよいかもしれません」
「でも、それだと原価が高くなっちゃうわ。日用品として使いにくいし」
「資産として保有したり、インテリアとして部屋に置くといった使い道でもよいかもしれません。さまざまな種類の眼鏡を作れば、収集家になる方もいらっしゃるかと」
「なるほど! 年に一度の仮面舞踏会に使うとか、そういうのもありかもね」
目の前がぱっと開けた感覚だった。
眼鏡の使い道って、本当にいろいろあって楽しい!
「お芝居の上演時間はいつだっけ?」
「午後三時からなので、あと一時間ほどございます」
「一年生が、この日のために演劇部を立ち上げたのよね。眼鏡についてのお芝居って、どんな感じなのかな。楽しみ
~」
「上演までの間、あちらで眼鏡ドーナツが売っているようですが、お召し上がりになりますか?」
「え、そんなのあるの!? 食べたい!」
我ながら子どものようにはしゃいでしまう。だって楽しいんだもん。
アキトに連れられて、庭園近くの屋台で眼鏡型のドーナツを買ってほおばる。
揚げたてほくほくでのミルク味で、甘くて、頬っぺたが落ちそうなぐらいおいしかった。
「ん~おいしい~」
「それはよかったです。よろしければ紅茶もどうぞ」
庭園のベンチに座り、アキトが準備していたカップに紅茶を入れてくれる。
天気はいいし、花は咲き誇っているし、アキトと一緒にいられるしで、幸せが止まらない。
にこにこしていると、アキトは懐からハンカチにくるまれた何かを取り出した。
「お嬢様。こちらを」
ハンカチを開けて、私は息を呑んだ。
そこには上品な薄茶色のフレームの眼鏡があった。丸みを帯びたデザインで、とってもかわいらしい。
「これ……私に?」
自分の顔を指さして尋ねると、アキトは頷いた。
「はい。受け取っていただけますか?」
「もちろん、もちろんよ。すっごく嬉しい。でも、さっきモノクルを展示してたでしょう?」
「自分の作品と、ティアメイ様へお贈りする眼鏡を作りました」
「私の世話とか生徒会とか勉強とか、毎日忙しくて寝る暇もないぐらいだったのに、二個も眼鏡を作り上げちゃうなんて……。やっぱりすごいわ、アキトは」
「いえ。ティアメイ様にかけていただけるのを楽しみにしながら作業している時間は、至福のときでした」
涼しい顔で言われ、逆に私が赤面した。
ちょっと待って。アキトって、こんなキャラだったっけ?
嬉しすぎるんだけど、何かめちゃくちゃ恥ずかしい。
「ありがとう。かけてみるね」
私は目が悪くないから、レンズの代わりに透明なガラスが入っている。
鏡がないのが残念だけど、多分、いや絶対、世界一似合ってると思う。
「お似合いです」
アキトは目を細めて、本当に嬉しそうに笑った。
「お嬢様が私に眼鏡をくださったとき、どれほど嬉しかったか、言葉では表しきれません。執事としてではなく、対等な人間として接してくださるあなたを、今までもこれからもずっとお慕いしています」
「アキト……」
胸がいっぱいで、目頭が潤んだ。
「私も……私も、アキトのことが大好きよ。これからもずっと」
アキトの腕が伸びてきて、気がついたらハグされていた。
「ま、待って。ここだと人に見られちゃうから……んんっ」
両腕にぎゅっと強い力が込められて、息が苦しくなる。
さっき、学園内だからイチャつくのやめようって言ったのにー!
アキトは耳元でささやいた。
「お嬢様。『アキトに近づいてはいけない病』は、もう治ったんですか?」
「え? ええ、まあ……って、何で知ってるの!?」
「心の声がだだ漏れなんですよ、お嬢様の場合」
アキトの笑い声が耳たぶをくすぐる。
恥ずかしくて、くすぐったくて手足をばたつかせるけど、アキトは一向に放してくれない。
「あと、タヌキ寝入りもお下手なので、おやめになったたほうがよろしいかと」
「タヌキ寝入り? ……あ」
もしかして、夏休みに生理痛で寝込んだときのあれ?
寝ているふりをしていたら、アキトに頬っぺたにチューされた、あの事件?
「私が起きてるって気づいてたの?!」
「もちろん」
体を離し、眼鏡の奥でアキトの目が笑っている。
この意地悪さ、ぐいぐい来る感じ、やんちゃっぽい瞳、どう考えてもいつものアキトじゃないよ!
でも、そこがいい! 執事の仮面に隠された、やんちゃ系眼鏡男子万歳!!
恥ずかしさで目が回りそう、体が燃えるように熱くなってきた。
「やっぱり駄目! また発病した!」
と言って、私は両手でアキトの胸を押して離れようとした。
でも、アキトの手が私の顎をつかんで固定する。
「駄目ですよ。俺は『お嬢様から離れてはいけない病』なので」
きゃあああああああ萌え死ぬーー!!! 殺されるーーー!!本望です!!!!!!
悶絶した私に、「一生放しませんからね」と至近距離で駄目押しをして、アキトは私に甘くて優しい口づけをした。
眼鏡祭の運営委員として、別々に見回りをしているからなんだけど、理由は他にもある。
とうとう私の念願だった、眼鏡男子(アキト)との制服デートが叶う日なのだ!
「ごめん、お待たせ~」
これこれ、これがやりたかったのよ。デートの待ち合わせ場所に向かうっていうやつ。
いつも傍に付き添ってもらったんじゃ、待ち合わせできないでしょ?
だから無理言って、一旦別行動を取ってもらったの。
昇降口のところで、私が手を振りながら近づくと、アキトは丁重に頭を下げた。
「見回りお疲れさまでした、お嬢様」
「もう、敬語やめてよ。ここは『全然待ってないよ~』とか『今日もかわいいね』的なことを言って、デートを盛り上げるところなんだから」
「失礼いたしました。ただ、学園内ということもありますので、配慮は必要かと」
アキトは周囲を見回している。
確かに、私たちはまだ公認のカップルじゃないもんね。
学園長とその執事が、何の説明もなく、いきなりラブラブしていたら怖いよね。
よし、ここは大人になろう。
「じゃ、行きましょうか」
「はい」
二人で並んで歩き出す。それだけで笑みがこぼれてくる。
学園祭デート、定番じゃない? 青春っぽくない?
ずっと夢見ていた制服眼鏡男子とのデート。
しかもアキトと――好きな人と一緒に回れるなんて幸せすぎる!
「あ、これ見て。エルが作った眼鏡よ」
二年生の作品展示室に入ると、私はガラスケースを指さした。
ライムグリーンのフレームの眼鏡は、洗練されていてエルらしい。
「アキトのはどれ?」
「こちらです」
指さされたのは、銀のチェーンのついた片眼鏡だった。
「うわー、素敵! これ、モノクルじゃない。よく考えついたわね」
「恐れ入ります。科学の授業の際、虫眼鏡を使用したときに思いついたんです。片目用の眼鏡があってもいいのではないかと」
「さすがアキトね。ね、これが私の作った眼鏡よ」
私はガラスケースの前に立つと、胸を張って言った。
アキトの瞳を思わせる、深い紫色のフレームには、小さなガラスの粒が嵌め込んである。
丹精込めて作った自信作だった。
「美しいですね。こちらの石はガラスですが、もっと大きな宝石にしてもよいかもしれません」
「でも、それだと原価が高くなっちゃうわ。日用品として使いにくいし」
「資産として保有したり、インテリアとして部屋に置くといった使い道でもよいかもしれません。さまざまな種類の眼鏡を作れば、収集家になる方もいらっしゃるかと」
「なるほど! 年に一度の仮面舞踏会に使うとか、そういうのもありかもね」
目の前がぱっと開けた感覚だった。
眼鏡の使い道って、本当にいろいろあって楽しい!
「お芝居の上演時間はいつだっけ?」
「午後三時からなので、あと一時間ほどございます」
「一年生が、この日のために演劇部を立ち上げたのよね。眼鏡についてのお芝居って、どんな感じなのかな。楽しみ
~」
「上演までの間、あちらで眼鏡ドーナツが売っているようですが、お召し上がりになりますか?」
「え、そんなのあるの!? 食べたい!」
我ながら子どものようにはしゃいでしまう。だって楽しいんだもん。
アキトに連れられて、庭園近くの屋台で眼鏡型のドーナツを買ってほおばる。
揚げたてほくほくでのミルク味で、甘くて、頬っぺたが落ちそうなぐらいおいしかった。
「ん~おいしい~」
「それはよかったです。よろしければ紅茶もどうぞ」
庭園のベンチに座り、アキトが準備していたカップに紅茶を入れてくれる。
天気はいいし、花は咲き誇っているし、アキトと一緒にいられるしで、幸せが止まらない。
にこにこしていると、アキトは懐からハンカチにくるまれた何かを取り出した。
「お嬢様。こちらを」
ハンカチを開けて、私は息を呑んだ。
そこには上品な薄茶色のフレームの眼鏡があった。丸みを帯びたデザインで、とってもかわいらしい。
「これ……私に?」
自分の顔を指さして尋ねると、アキトは頷いた。
「はい。受け取っていただけますか?」
「もちろん、もちろんよ。すっごく嬉しい。でも、さっきモノクルを展示してたでしょう?」
「自分の作品と、ティアメイ様へお贈りする眼鏡を作りました」
「私の世話とか生徒会とか勉強とか、毎日忙しくて寝る暇もないぐらいだったのに、二個も眼鏡を作り上げちゃうなんて……。やっぱりすごいわ、アキトは」
「いえ。ティアメイ様にかけていただけるのを楽しみにしながら作業している時間は、至福のときでした」
涼しい顔で言われ、逆に私が赤面した。
ちょっと待って。アキトって、こんなキャラだったっけ?
嬉しすぎるんだけど、何かめちゃくちゃ恥ずかしい。
「ありがとう。かけてみるね」
私は目が悪くないから、レンズの代わりに透明なガラスが入っている。
鏡がないのが残念だけど、多分、いや絶対、世界一似合ってると思う。
「お似合いです」
アキトは目を細めて、本当に嬉しそうに笑った。
「お嬢様が私に眼鏡をくださったとき、どれほど嬉しかったか、言葉では表しきれません。執事としてではなく、対等な人間として接してくださるあなたを、今までもこれからもずっとお慕いしています」
「アキト……」
胸がいっぱいで、目頭が潤んだ。
「私も……私も、アキトのことが大好きよ。これからもずっと」
アキトの腕が伸びてきて、気がついたらハグされていた。
「ま、待って。ここだと人に見られちゃうから……んんっ」
両腕にぎゅっと強い力が込められて、息が苦しくなる。
さっき、学園内だからイチャつくのやめようって言ったのにー!
アキトは耳元でささやいた。
「お嬢様。『アキトに近づいてはいけない病』は、もう治ったんですか?」
「え? ええ、まあ……って、何で知ってるの!?」
「心の声がだだ漏れなんですよ、お嬢様の場合」
アキトの笑い声が耳たぶをくすぐる。
恥ずかしくて、くすぐったくて手足をばたつかせるけど、アキトは一向に放してくれない。
「あと、タヌキ寝入りもお下手なので、おやめになったたほうがよろしいかと」
「タヌキ寝入り? ……あ」
もしかして、夏休みに生理痛で寝込んだときのあれ?
寝ているふりをしていたら、アキトに頬っぺたにチューされた、あの事件?
「私が起きてるって気づいてたの?!」
「もちろん」
体を離し、眼鏡の奥でアキトの目が笑っている。
この意地悪さ、ぐいぐい来る感じ、やんちゃっぽい瞳、どう考えてもいつものアキトじゃないよ!
でも、そこがいい! 執事の仮面に隠された、やんちゃ系眼鏡男子万歳!!
恥ずかしさで目が回りそう、体が燃えるように熱くなってきた。
「やっぱり駄目! また発病した!」
と言って、私は両手でアキトの胸を押して離れようとした。
でも、アキトの手が私の顎をつかんで固定する。
「駄目ですよ。俺は『お嬢様から離れてはいけない病』なので」
きゃあああああああ萌え死ぬーー!!! 殺されるーーー!!本望です!!!!!!
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