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【#57 眼鏡祭が始まりました】

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やっとのことで眼鏡科を取り戻した後、ばたばたしている間に年をまたぎ、春を迎え、そして記念すべき一年目の終わりがやってきた。

眼鏡科では、生徒全員が一年間の集大成として、思い思いに一つの眼鏡を仕上げる。

その制作発表が、年度末の四月に行われる文化祭ならぬ『眼鏡祭』だ。

眼鏡科を設立するとき、お父様やカールと一緒に年間のカリキュラムも考えたんだけど、その中でも特にこのイベントは気に入っている。

だって、みんなが一つ一つ思いを込めて、一年かけて自分だけのオリジナル眼鏡を作り上げるんだもん。

最高だと思わない?

普段は眼鏡科に外部の人、特に他領の方をお招きすることはできないんだけど、『眼鏡祭』だけは別だ。

今日一日は、眼鏡科の生徒の家族はもちろん、プリスタイン領に住む人も、そうでない人も、眼鏡科を訪れることができる。

アキトの手配で校内は綺麗に飾りつけをされて、椅子やベンチや休憩所も用意され、普段から素敵な眼鏡科のお城がいっそう美しくなっている。

さらに! これも私の発案なんだけど……学年ごとに一つずつ、キッチンからホールまで全て眼鏡科の生徒で運営された『眼鏡カフェ』も出店したものだから、もうこれが押すな押すなの大盛況となっている。

前世では執事喫茶っていうのが流行ってて、私も何回か行ったことがあるんだけど、眼鏡喫茶というのは見たことがなかった。

私みたいに眼鏡男子が大好きな人たちに、眼鏡科や眼鏡を楽しんでもらうには、これが一番じゃないかなって思ったんだよね。

でも一応、また誤解を招いたら嫌だから、生徒のみんなには確認をとってみた。

こんな企画を考えてるんだけど、どうかな?って。

そしたらみんな、フードやドリンクのメニューを考えてくれたり、材料を調達してくれたり、お店の飾りつけをしてくれたり、すごく前向きに取り組んでくれた。

しかも眼鏡カフェだけあって、眼鏡に関する本も置いてあるし、視力検査や眼鏡の試着なんかもできる。

お客さんからは大好評で、生徒のみんなも学外の人たちとの交流を楽しんでくれてるみたい。ああ~よかった!!

「来てやったぞ。ティアメイ」

学園長として校内を見回っていたところ、声をかけられて私は振り向いた。

「オスカー! 来てくれてありがとう」

「相変わらず騒がしいな、お前もこの学園も」

仏頂面で言うけれど、きょろきょろと興味ありげに周囲を見回している様子に、私はほくそ笑む。

オスカーったら、相変わらずツンデレなんだから。

「眼鏡の展示はこっちよ。どれも力作だから、よかったらぜひ見ていって」

私はオスカーを一年生の教室へ連れていった。

ガラスケースの中に、一つずつ生徒が作った眼鏡と、作者の名前が載っている。

他にも有志の生徒によって、眼鏡の歴史についてまとめた展示や、デザインや機能について研究した展示物などもあった。

オスカーは一通り見て回ると、教室のある授業棟から特別棟へ続く渡り廊下を歩き出した。

「あ、そっちには展示はないよ?」

と私が言うのも聞かず、扉を開けて無人の美術室に入る。

キャンバスが雑然と立てかけられた壁に、絵の具がなすった跡のある机や床。木くずと油絵の匂い。

オスカーは振り向くと、その青い瞳で私の目を見つめて言った。

「すまなかった」

「へ? 何が?」

唐突な謝罪に、私は間抜けな声を上げた。

ウェンゼル学園の制服を着たオスカーは、相変わらず完璧なイケメンだ。

頭を下げると、太陽の光を集めたような金髪がさらりと揺れる。

「あ、もしかして学園乗っ取りのこと? でも、結局あれはオスカーが協力してくれて、ウェンゼル公爵様に話を通してくれたおかげで取り戻すことができたのよ。ウェンゼル公爵様が私に学園長を譲ってくださらなかったら、私は今こうして眼鏡祭を開催できなかったわ。感謝してる」

私が寝込んでいる間にオスカーの働きかけで、ウェンゼル公爵様と私のお父様の間で協議があったらしい。

眼鏡科乗っ取り事件自体は大変だったけど、おかげで家同士が和解できたんだから、結果オーライってやつなのかもね。

でも、オスカーは苦虫を噛みつぶしたような顔をしている。

……あれ、何か怒ってる?

「俺はドSだ。ウェンゼルのためにも、お前と眼鏡科をどんな手を使ってでも手に入れる。そう思っていた。
けど、あのとき……学園を奪われたお前の顔を見たとき、俺のやり方は間違っていたと気づいた。
本当は、もっと早く気づくべきだった」

私は目を細めた。

何やかんやで、いい子なんだよね。育ちがいいってこういうことを言うんだろうな。

本当の意味では、下品にも卑怯にも決してなれない。

「前にあなたのお屋敷で約束したこと、私、忘れてないから。眼鏡の製作技術を持つのは、今はプリスタインだけだけど、ちゃんと留学制度も整えるから。そうしたら、あなたやウェンゼルの領民の方も眼鏡科に学びに来てね」

オスカーは「ふん」と、否定とも肯定ともつかない返事をした。

「俺は諦めたつもりはないからな。眼鏡の技術も、お前のことも」

……ん? 私?

よく分からなくて目をぱちくりさせていたら、オスカーは近づいてきて私の両耳の横あたりに両手をついた。

いわゆる『壁ドン』だ。

ここで普段の私なら、やったー!! 金髪イケメン眼鏡男子に壁ドンされた! なんて思うところなんだけど、今は不思議とそんな気持ちにならなかった。

「どうしたの?オスカー」

私の反応を見て、オスカーは「ちっ」と舌打ちした。

「何でもない。また来るからな、そのときは覚悟しとけよ」

人さし指を鼻先に突きつけると、オスカーは振り向きもせず大股で美術室を出ていった。

……覚悟って、何を?

せっかく家同士が和解したのに、まだ何か問題があるのだろうか。

……ま、いっか。

また来るって言ってたし、そのときはゆっくりお茶でもしようっと。
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