52 / 61
【#52 告白されました】
しおりを挟む
温かくて力強い腕が背中に回り、顔がアキトの胸に押しつけられている。
体が密着した状態なのに、不思議といつもみたいに恥ずかしいとは思わなかった。
ただただ、圧倒的な安心感があった。
「ティアメイ様」
「は……はい」
「お嬢様は私が眼鏡を外せば、私のことをお嫌いになりますか?」
私は首を振った。
「ううん……そんなことない」
涙で顔がぐしゃぐしゃだったけど、伝えたくて、顔を上げる。
「そんなこと、あるわけない」
アキトはふわりと微笑み、頷いた。
「お嬢様は、人を外見で判断なさる方ではありません。そんなことは、生まれたころからお傍にお仕えしている私が、一番よく分かっています」
ああ……駄目。
そんなこと言われたら、涙腺が崩壊しちゃうじゃない。
信じてほしかった。でも、オスカーにもエルにも、学園のみんなにも。
でも、私の行動が誤解を生むものだったせいで、信じてはもらえなかった。
リュシアンやフィリップ先生は私の味方をしてくれたけれど、それは『私が外見でしか人を見ていても、見ていなくても、どっちでもいい』という前提に立つものだ。
本当の意味で私を信じてくれているのは、アキトだけだった。
私はアキトを力いっぱい抱きしめ返した。
「ありがとう……アキト」
「私が迷っていたのは、もっと別のことです」
アキトは打ち明けると、ハンカチを取り出し、私の目元に当ててくれた。
涙を拭いて、鼻をすするのを待ってくれる。
私の呼吸が落ちつくのを待って、アキトは言った。
「私は、あなたの専属執事を辞めるべきかもしれない。そう思っていました。ティアメイ様にお仕えすることが嫌になったからではありません、私自身の問題です」
一番恐れていたことを口に出され、私は凍りついた。
でも、ちゃんと最後までアキトの話を聞こう。そう思えるくらいには回復していた。
「ウェンゼル公爵家と対立するのは得策ではない。そう分かっていたのに、あのとき、お嬢様をオスカー様に奪われ、私は我を忘れて激昂しました。公爵様に報告し、指示を仰ぐべきところを独断で動き、個人的な感情でオスカー様に敵対する行動をとりました。
私はあのとき、どうしても自分の手でお嬢様を取り戻したかった。この手でオスカー様を殴り飛ばしたいとさえ思った。
……俺は執事としての自分ではなく、男としての自分を優先してしまったんです」
アキトの一人称が、俺に変わっている。
そのことに気づくと同時に、アキトが私の唇を奪った。
あのとき頬っぺたにされたような軽いキスではなく、しっかりと唇が触れ合っているのを確認できるだけの、数秒にわたるキス。
終わると同時に、アキトは男の人の顔で言った。
「ティアメイ様。あなたが好きです」
体が密着した状態なのに、不思議といつもみたいに恥ずかしいとは思わなかった。
ただただ、圧倒的な安心感があった。
「ティアメイ様」
「は……はい」
「お嬢様は私が眼鏡を外せば、私のことをお嫌いになりますか?」
私は首を振った。
「ううん……そんなことない」
涙で顔がぐしゃぐしゃだったけど、伝えたくて、顔を上げる。
「そんなこと、あるわけない」
アキトはふわりと微笑み、頷いた。
「お嬢様は、人を外見で判断なさる方ではありません。そんなことは、生まれたころからお傍にお仕えしている私が、一番よく分かっています」
ああ……駄目。
そんなこと言われたら、涙腺が崩壊しちゃうじゃない。
信じてほしかった。でも、オスカーにもエルにも、学園のみんなにも。
でも、私の行動が誤解を生むものだったせいで、信じてはもらえなかった。
リュシアンやフィリップ先生は私の味方をしてくれたけれど、それは『私が外見でしか人を見ていても、見ていなくても、どっちでもいい』という前提に立つものだ。
本当の意味で私を信じてくれているのは、アキトだけだった。
私はアキトを力いっぱい抱きしめ返した。
「ありがとう……アキト」
「私が迷っていたのは、もっと別のことです」
アキトは打ち明けると、ハンカチを取り出し、私の目元に当ててくれた。
涙を拭いて、鼻をすするのを待ってくれる。
私の呼吸が落ちつくのを待って、アキトは言った。
「私は、あなたの専属執事を辞めるべきかもしれない。そう思っていました。ティアメイ様にお仕えすることが嫌になったからではありません、私自身の問題です」
一番恐れていたことを口に出され、私は凍りついた。
でも、ちゃんと最後までアキトの話を聞こう。そう思えるくらいには回復していた。
「ウェンゼル公爵家と対立するのは得策ではない。そう分かっていたのに、あのとき、お嬢様をオスカー様に奪われ、私は我を忘れて激昂しました。公爵様に報告し、指示を仰ぐべきところを独断で動き、個人的な感情でオスカー様に敵対する行動をとりました。
私はあのとき、どうしても自分の手でお嬢様を取り戻したかった。この手でオスカー様を殴り飛ばしたいとさえ思った。
……俺は執事としての自分ではなく、男としての自分を優先してしまったんです」
アキトの一人称が、俺に変わっている。
そのことに気づくと同時に、アキトが私の唇を奪った。
あのとき頬っぺたにされたような軽いキスではなく、しっかりと唇が触れ合っているのを確認できるだけの、数秒にわたるキス。
終わると同時に、アキトは男の人の顔で言った。
「ティアメイ様。あなたが好きです」
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~
saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。
前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。
国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。
自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。
幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。
自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。
前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。
※小説家になろう様でも公開しています
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。
これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。
それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる