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【#47 エルの過去を知りました】
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室内は、胸苦しいような静寂に包まれていた。
頭に上っていた血が、すっと引いていて、足元がおぼつかない。
椅子に腰かけていなければ、そのまま倒れてしまいそうだった。
「お嬢様」
アキトの目が大丈夫かと尋ねてくる。
私は頷き、顎を引いた。
凛としていたい、たとえ、どんなときであっても。
だって私は、この眼鏡科の学園長なのだから。
「プリスタイン公爵領にはフィルナス家を含め、三つの侯爵家がある。そして、それぞれが公爵領の一部を権限移譲する形で代理統治している。ただ、フィルナス家が与えられたのは岩山で覆われた実りの乏しい地域で、毎年の納税にも苦労していた。公平な領地の分配を何度も訴えてきたけれど、それは叶わなかった」
私はエルが図書館で手にしていた書物を思い出した。
地政学。
フィルナス侯爵家にとって、領土を活用し、恵みを得るのは至難の業だったのだ。
「そこで、我が父侯爵は政略結婚を申し出た。プリスタイン公爵令嬢が我がフィルナス家に嫁げば、公爵家の後ろ盾や土地、財力を得られる。生き延びるためには、それしかないと覚悟していた」
「お父様は、それを断ったのね」
震える声で私は言った。
「そうだよ。うちの父親は諦めきれず何度も手紙を書いて、時には公爵家に足を運んで懇願したけど、無駄だった」
エルは達観した口ぶりで言う。
「絶望していた俺たちに手を差し伸べてくれたのが、ウェンゼル公爵家だった。資金援助を受けて、何とかフィルナス家は食いつなぐことができた。そこへ、眼鏡科設立の噂を聞いた。プリスタイン公爵令嬢が発明を見出し、一大産業を生み出そうとしている――と」
ウェンゼル公爵家は当然、脅威を覚える。情報を得たいと望んだだろう。
フィルナス侯爵家には借りがあった。プリスタイン公爵家に対する恨みもあった。
「許せないと思ったよ。広大で豊かな土地がありながら、眼鏡という発明品で莫大な富を得て、発展していくプリスタイン家が。何も持っていない俺たちが指をくわえて見ている横で、君たちだけがのし上がっていく。とても我慢できなかった」
私は目を伏せた。
どうしてお父様が、エルと私の縁談を断ったのかは分からない。
けれど、過去を変えられない以上、事実は事実として受け止めるしかない。
「それは逆恨みです」
穏やかな口調で、だが、きっぱりとアキトが口を入れた。
「アキト」
驚いて止めようとした私に、フィリップ先生が「言わせてやれ」と首を振る。
「縁談を断られて腹を立ててからといって、何をしても許されるというわけではありません。また、その縁談についても、プリスタイン公爵がお決めになったこと。お嬢様には何の責任もございません」
かばってくれたアキトに、目頭がじんと潤んだ。
ありがとう……アキト。
「学園長の認可がおりていないのですから、生徒会規則は無効です」
「いや、そうはいかない」
と言ったのはオスカーだった。
「事情はどうあれ、ティアメイは生徒会規則に自らサインしている。脅されたわけでもなく、誰かが勝手に書いたわけでもない。リアンダー王国の法にのっとっても、この書面は有効だ」
フィリップ先生が苦い顔をしている。ということは、オスカーの主張は正しいのだろう。
私は唇を噛んだ。
「そういうこと。そして、生徒会長の名において宣言するよ。メイちゃん、君をプリスタイン学園眼鏡科の学園長から更迭する」
私は息を呑んだ。
頭に上っていた血が、すっと引いていて、足元がおぼつかない。
椅子に腰かけていなければ、そのまま倒れてしまいそうだった。
「お嬢様」
アキトの目が大丈夫かと尋ねてくる。
私は頷き、顎を引いた。
凛としていたい、たとえ、どんなときであっても。
だって私は、この眼鏡科の学園長なのだから。
「プリスタイン公爵領にはフィルナス家を含め、三つの侯爵家がある。そして、それぞれが公爵領の一部を権限移譲する形で代理統治している。ただ、フィルナス家が与えられたのは岩山で覆われた実りの乏しい地域で、毎年の納税にも苦労していた。公平な領地の分配を何度も訴えてきたけれど、それは叶わなかった」
私はエルが図書館で手にしていた書物を思い出した。
地政学。
フィルナス侯爵家にとって、領土を活用し、恵みを得るのは至難の業だったのだ。
「そこで、我が父侯爵は政略結婚を申し出た。プリスタイン公爵令嬢が我がフィルナス家に嫁げば、公爵家の後ろ盾や土地、財力を得られる。生き延びるためには、それしかないと覚悟していた」
「お父様は、それを断ったのね」
震える声で私は言った。
「そうだよ。うちの父親は諦めきれず何度も手紙を書いて、時には公爵家に足を運んで懇願したけど、無駄だった」
エルは達観した口ぶりで言う。
「絶望していた俺たちに手を差し伸べてくれたのが、ウェンゼル公爵家だった。資金援助を受けて、何とかフィルナス家は食いつなぐことができた。そこへ、眼鏡科設立の噂を聞いた。プリスタイン公爵令嬢が発明を見出し、一大産業を生み出そうとしている――と」
ウェンゼル公爵家は当然、脅威を覚える。情報を得たいと望んだだろう。
フィルナス侯爵家には借りがあった。プリスタイン公爵家に対する恨みもあった。
「許せないと思ったよ。広大で豊かな土地がありながら、眼鏡という発明品で莫大な富を得て、発展していくプリスタイン家が。何も持っていない俺たちが指をくわえて見ている横で、君たちだけがのし上がっていく。とても我慢できなかった」
私は目を伏せた。
どうしてお父様が、エルと私の縁談を断ったのかは分からない。
けれど、過去を変えられない以上、事実は事実として受け止めるしかない。
「それは逆恨みです」
穏やかな口調で、だが、きっぱりとアキトが口を入れた。
「アキト」
驚いて止めようとした私に、フィリップ先生が「言わせてやれ」と首を振る。
「縁談を断られて腹を立ててからといって、何をしても許されるというわけではありません。また、その縁談についても、プリスタイン公爵がお決めになったこと。お嬢様には何の責任もございません」
かばってくれたアキトに、目頭がじんと潤んだ。
ありがとう……アキト。
「学園長の認可がおりていないのですから、生徒会規則は無効です」
「いや、そうはいかない」
と言ったのはオスカーだった。
「事情はどうあれ、ティアメイは生徒会規則に自らサインしている。脅されたわけでもなく、誰かが勝手に書いたわけでもない。リアンダー王国の法にのっとっても、この書面は有効だ」
フィリップ先生が苦い顔をしている。ということは、オスカーの主張は正しいのだろう。
私は唇を噛んだ。
「そういうこと。そして、生徒会長の名において宣言するよ。メイちゃん、君をプリスタイン学園眼鏡科の学園長から更迭する」
私は息を呑んだ。
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