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【#46 裏切られました】

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顔が熱い。血管が脈打って、心臓が壊れそうにばくばくしている。

でも背筋は凍りそうに冷たくて、足が震え出す。

エルはいつもみたいに無邪気に笑いかけている。私を見つめる目に、暗さや後ろめたさは一つもない。

そのことが余計に私を混乱させた。

「エル……どういうこと? ちゃんと説明して」

何とか出した言葉は、語尾がみっともなくかすれていた。

エルは退屈な授業を受けているような様子で、頭の後ろに手を回す。

「だーかーら、説明するまでもないでしょ。君ら二人が学園長室から出てる間に、生徒会規則を書き換えたんだよ。その後、君がサインしたってわけ。ちなみに、書き換えたのは十条だけじゃないからね」

「そうじゃなくて。何でそんなことをしたのかって聞いてるの」

「決まってるじゃん、眼鏡科を乗っ取るためだよ。そのために俺はオスカーと手を組んだんだから」

オスカーを見ると、彼は満足げに頷いた。

「オスカー……そこまでして眼鏡科を得たいというの」

「ああ、そうだ。俺は欲しいものは必ず手に入れる、そのために手段は選ばない」

頭の中にあった思考の点と点がつながって、線を結び始める。

そう――オスカーの屋敷に連れていかれたとき、なぜプリスタイン公爵領の外にいる彼が眼鏡を持っていたのか、なぜあれほどまでに眼鏡について詳しかったのか。

エルが協力し、情報を横流ししていたのなら、全て辻褄が合う。

でも、まだ分からないことがあった。

「眼鏡科をウェンゼル学園に渡して、あなたに何の得があるんですか」

冷静に口を差し挟んだのはアキトだった。

「別に得なんかないよ。ただ、そうしたかっただけ。メイちゃんが大事なものを奪われたとき、どんな顔をするか見てみたかったし」

「何の恨みがあって。エル先輩は、姫様のために生徒会を作ってくれたのではなかったのですか」

リュシアンは唇をわなわなと震わせている。

「恨みねえ……」

これだけ追及されても、エルは悪びれた風もなく飄々としている。

エルは……私を憎んでるの? 恨んでいるの?

でも、私には心当たりがない。

「お嬢さんに結婚を申し込んで、断られたからだろ」

「えっ」

フィリップ先生の言葉に、私は度胆を抜かれた。

結婚? そんな話、聞いたことがない。

アキトを見るが、初耳らしく、私と同じように目を見開いている。

「以前、噂で聞いたことがある。フィルナス侯爵家がプリスタイン公爵家に縁談を持ちかけ、断られたと。そのときは性別も、本家なのか分家なのかも定かじゃなかったが、状況からしてエルネストとティアメイのことだろう」

私はエルの眼鏡の奥にある黒い瞳を見た。

彼も目を逸らさず、真っすぐ見つめ返してくる。

「本当なの? エル」

エルは謎めいた微笑を浮かべて黙っている。

「お願い、答えて。私はそんな話、一度も聞いたことがないわ」

オスカーとのお見合いが、私の人生で持ち込まれた初めての縁談だと思っていた。

あ……でも、たしか婚約者がどうこうという話になったとき、お父様はあっと言って、何かを思い出したような顔をしていたわ。

もしかして、このことだったの……?

でも、だったらどうして、お父様は私やアキトに話してくれなかったの?

「……お気楽だねえ、メイちゃんは」

そう口にすると、エルは憐れみのこもった笑みを浮かべた。

「そうだよ。俺は父親を通じて、プリスタイン公爵に君との政略結婚の話を持ちかけた。今から二年前の話だ」
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