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【#38 噂について確認されました】
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エルと私は、食堂と隣接している石造りのバルコニーへ向かった。
設置されているソファーに、隣同士で腰かける。
距離が近くて、これがまた整った顔に赤縁眼鏡が似合っていて、ちょっぴりどぎまぎする。
「なあに? 話って」
エルはバルコニーの手前に立っているアキトを見ていたが、私のほうに視線を戻して言った。
「ウェンゼル公爵家ご子息とのお見合いを蹴ったんだって?」
「ぐえっ」
思わず、つぶれかけのカエルのような声が出た。
背中に冷や汗が滲む。
「な、な、な、な、何でそれを?」
「そりゃ~貴族社会は狭いからね。噂が回るのも早いよ」
鼻歌混じりにエルは言った。
ああ……そうよね。貴族社会って、どんな小さなこともすぐ噂になっちゃうもんね。
特に、年頃の娘や息子を持つ貴族にとって、『縁談』は最重要課題だ。
家の繁栄のため、子どもの幸せのため、常に最新の情報を入手しようと誰もが躍起になっている。
やれ、どこどこさん家のお嬢さんは二十も上の男性と結婚するだの、どこどこさん家の息子さんは次男だけど見込みがあるだの、常にさまざまな噂が飛び交っている。
「でも、本当だったんだ。何で? タイプじゃなかった?」
「あのね、エル」
咳払いして、私は行儀よくスカートの上に両手を乗せた。
「まず訂正しておきたいんだけど、お見合いを蹴ったわけじゃないの。ただ、体調が優れなかったから延期しただけよ」
まあ、正直このままスルーして、なかったことにする気まんまんだけどね。
「へえ~そうなんだ。俺はてっきり、彼の存在があるからかと思った」
と言って、エルは目でアキトを示す。
「え……アキト?」
きょとんとしている私を見て、意味深に笑う。
「メイちゃんのそれ、演技なのか天然なのか、よく分かんないな。ま、いいけど。とにかく俺としてはよかったよ。学園長やめて、花嫁修業に専念しますって言われたらつまんないからね」
「まさか。眼鏡科以上に大事なものなんて、私にはないわ」
「何で?」
にこにこ笑顔で斬り込まれて、私は口ごもる。
「何でって……制服眼鏡男子と」
言いかけて、私ははっとした。
オスカーは眼鏡男子だ。それに、ウェンゼル公立学園の生徒でもある。
だから、彼とお見合いすれば、眼鏡男子と制服デートという野望も叶えられるのだ。
……いやいやいや。お見合いとデートは違わない?
デートってもっと楽しくて、きゃっきゃうふふ的な遊びの要素が強いもん。
そんな家を背負うような、格式ばった公の行事とは違う。
けど、ウェンゼル家との関係を良好にしておくには、正面切って断らないほうがいいんだろうな……。
ぐるぐる考えていると、エルの人さし指が頬っぺたをつついた。
「メイちゃん、上の空」
「え、ごめん。何?」
「日を改めてお見合いをすることになったらどうするの?」
「それは、まあ……そのときはそのときよ!」
私は言い切った。
オスカーに眼鏡の技術を売り渡すわけにはいかない。でも、先のことを考えていてもしょうがない。
「大丈夫、何とかなるわ。最悪、『放浪の旅に出て神秘体験をし、精神が新境地に達した……』とか怪しげなこと言って、どん引きさせればいけると思う」
「ははっ。相変わらずだね~メイちゃんは」
そうこうしていると、アキトが向こうから近づいてきた。
設置されているソファーに、隣同士で腰かける。
距離が近くて、これがまた整った顔に赤縁眼鏡が似合っていて、ちょっぴりどぎまぎする。
「なあに? 話って」
エルはバルコニーの手前に立っているアキトを見ていたが、私のほうに視線を戻して言った。
「ウェンゼル公爵家ご子息とのお見合いを蹴ったんだって?」
「ぐえっ」
思わず、つぶれかけのカエルのような声が出た。
背中に冷や汗が滲む。
「な、な、な、な、何でそれを?」
「そりゃ~貴族社会は狭いからね。噂が回るのも早いよ」
鼻歌混じりにエルは言った。
ああ……そうよね。貴族社会って、どんな小さなこともすぐ噂になっちゃうもんね。
特に、年頃の娘や息子を持つ貴族にとって、『縁談』は最重要課題だ。
家の繁栄のため、子どもの幸せのため、常に最新の情報を入手しようと誰もが躍起になっている。
やれ、どこどこさん家のお嬢さんは二十も上の男性と結婚するだの、どこどこさん家の息子さんは次男だけど見込みがあるだの、常にさまざまな噂が飛び交っている。
「でも、本当だったんだ。何で? タイプじゃなかった?」
「あのね、エル」
咳払いして、私は行儀よくスカートの上に両手を乗せた。
「まず訂正しておきたいんだけど、お見合いを蹴ったわけじゃないの。ただ、体調が優れなかったから延期しただけよ」
まあ、正直このままスルーして、なかったことにする気まんまんだけどね。
「へえ~そうなんだ。俺はてっきり、彼の存在があるからかと思った」
と言って、エルは目でアキトを示す。
「え……アキト?」
きょとんとしている私を見て、意味深に笑う。
「メイちゃんのそれ、演技なのか天然なのか、よく分かんないな。ま、いいけど。とにかく俺としてはよかったよ。学園長やめて、花嫁修業に専念しますって言われたらつまんないからね」
「まさか。眼鏡科以上に大事なものなんて、私にはないわ」
「何で?」
にこにこ笑顔で斬り込まれて、私は口ごもる。
「何でって……制服眼鏡男子と」
言いかけて、私ははっとした。
オスカーは眼鏡男子だ。それに、ウェンゼル公立学園の生徒でもある。
だから、彼とお見合いすれば、眼鏡男子と制服デートという野望も叶えられるのだ。
……いやいやいや。お見合いとデートは違わない?
デートってもっと楽しくて、きゃっきゃうふふ的な遊びの要素が強いもん。
そんな家を背負うような、格式ばった公の行事とは違う。
けど、ウェンゼル家との関係を良好にしておくには、正面切って断らないほうがいいんだろうな……。
ぐるぐる考えていると、エルの人さし指が頬っぺたをつついた。
「メイちゃん、上の空」
「え、ごめん。何?」
「日を改めてお見合いをすることになったらどうするの?」
「それは、まあ……そのときはそのときよ!」
私は言い切った。
オスカーに眼鏡の技術を売り渡すわけにはいかない。でも、先のことを考えていてもしょうがない。
「大丈夫、何とかなるわ。最悪、『放浪の旅に出て神秘体験をし、精神が新境地に達した……』とか怪しげなこと言って、どん引きさせればいけると思う」
「ははっ。相変わらずだね~メイちゃんは」
そうこうしていると、アキトが向こうから近づいてきた。
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