35 / 61
【#35 白衣眼鏡美人の夢を見ました】
しおりを挟む
その人は前世の私が中学校のころの養護教諭で、いわゆる『保健室の先生』だった。
白衣を着てて落ちついた物腰で、すごく大人っぽく見えたけど、多分二十代だったと思う。
薄茶色のフレームの眼鏡をかけていて、知的な雰囲気の漂う美人だった。
基本は優しいけど、悪いことをした不良やヤンキーには厳しく注意してくれて、えこひいきとかは一切しない人だったから、生徒からとても慕われていた。
私はそのころ、ちょっと不登校気味だった。
小学生の高学年ごろから漫画の読み過ぎで目が悪くなってしまい、眼鏡をかけていたんだけど、それを『メガネザル』と言って、やんちゃ系の男子によくからかわれていたのだ。
カースト上位のかわいい系女子は「やめなよ~」とか言いつつ、くすくす笑っている。
友達は「気にすることないよ」と言ってくれたけど、面と向かって男子に注意はできなかった。
殴られでもしたら怖いもんね。
今思えば、そんな小さなことを気に病むなんてと思うんだけど、中学生にとっては学校が世界の全てだ。
そこで容姿を執拗にからかわれると、芽生え始めていた自尊心を狩り取られる。
私はからかわれて、笑われるぐらいブスなんだ。
私の容姿って、ダサいんだ。
思春期の柔らかい心はずたずたに傷つき、恥ずかしくて悲しくてたまらなかった。
それで学校を休みがちになったんだけど、あんまり休むと親がうるさいから、突っ込まれないギリギリの線を見極めつつ学校には行っていた。
でも教室にいると、お腹や頭が痛くなったりして、すぐ保健室に逃げ込んだ。
先生がいなくても、ベッドが空いていれば勝手にもぐり込んで、カーテンを閉める。
そのまま寝て過ごすこともあれば、保健室の机を借りて勉強したり本を読むこともあった。
先生は何も言わず、何も聞かず、ただそばにいてくれた。
そのことがどんなに私を救ってくれていたか、ちょっと言葉では言い表せない。
あの場所は、私にとって命綱だった。
「先生先生! 熱あるから寝かせてー」
よくあることだけど、ベッドで寝ているとガラッと音がして扉が開き、ウェイ系の陽キャが二、三人、騒がしい声を立てて入ってくる。
私は慌ててベッドにもぐりこんで気配を消す。
すると先生は、素っ気なくこう言うのだ。
「熱あるんなら帰りなさい」
「えー、ベッド貸してよ。ちょっと寝たら治るからさ」
「だめよ、ちゃんと病院行きなさい。親御さんに電話するから」
「いいよ、そんなの。親仕事だし」
私のベッドに近づいてきて、カーテンを開けようとする陽キャに、先生は厳しく言った。
「体調悪い人が寝てます。邪魔しない」
「ちぇー」
ぶつぶつ言っていたが、ベッドは使用不可と諦めたのか、陽キャたちは去っていった。
ふう~怖かった……。
ばくばくした心臓を押さえていると、先生は「もう大丈夫よ」と静かに言った。
特別優しくもない、でも温かみのある、そんな言い方がフィリップ先生によく似ていた。
陽キャは駄目だけど、私がここにいることは許してくれるんだ……。
「ねえ先生」
「んー?」
「先生もメガネザルって言われたことある?」
「あるある」
と言って、先生はベッドで寝ている私の頭を撫でてくれた。
細い白い指が、さらさらと私の髪を透く。心地よくて私は目を閉じた。
「でもね、久高さんは眼鏡美人よ」
胸がどきっとした。
「眼鏡ブスなんていないんだよ。眼鏡をかければ、みんな知的で綺麗でかっこよくなるの」
保健室の窓は薄く開いていて、そこから陽の欠片がこぼれてくる。
瑞々しい風が、生成りのカーテンをふわりと膨らませた。
白衣を着てて落ちついた物腰で、すごく大人っぽく見えたけど、多分二十代だったと思う。
薄茶色のフレームの眼鏡をかけていて、知的な雰囲気の漂う美人だった。
基本は優しいけど、悪いことをした不良やヤンキーには厳しく注意してくれて、えこひいきとかは一切しない人だったから、生徒からとても慕われていた。
私はそのころ、ちょっと不登校気味だった。
小学生の高学年ごろから漫画の読み過ぎで目が悪くなってしまい、眼鏡をかけていたんだけど、それを『メガネザル』と言って、やんちゃ系の男子によくからかわれていたのだ。
カースト上位のかわいい系女子は「やめなよ~」とか言いつつ、くすくす笑っている。
友達は「気にすることないよ」と言ってくれたけど、面と向かって男子に注意はできなかった。
殴られでもしたら怖いもんね。
今思えば、そんな小さなことを気に病むなんてと思うんだけど、中学生にとっては学校が世界の全てだ。
そこで容姿を執拗にからかわれると、芽生え始めていた自尊心を狩り取られる。
私はからかわれて、笑われるぐらいブスなんだ。
私の容姿って、ダサいんだ。
思春期の柔らかい心はずたずたに傷つき、恥ずかしくて悲しくてたまらなかった。
それで学校を休みがちになったんだけど、あんまり休むと親がうるさいから、突っ込まれないギリギリの線を見極めつつ学校には行っていた。
でも教室にいると、お腹や頭が痛くなったりして、すぐ保健室に逃げ込んだ。
先生がいなくても、ベッドが空いていれば勝手にもぐり込んで、カーテンを閉める。
そのまま寝て過ごすこともあれば、保健室の机を借りて勉強したり本を読むこともあった。
先生は何も言わず、何も聞かず、ただそばにいてくれた。
そのことがどんなに私を救ってくれていたか、ちょっと言葉では言い表せない。
あの場所は、私にとって命綱だった。
「先生先生! 熱あるから寝かせてー」
よくあることだけど、ベッドで寝ているとガラッと音がして扉が開き、ウェイ系の陽キャが二、三人、騒がしい声を立てて入ってくる。
私は慌ててベッドにもぐりこんで気配を消す。
すると先生は、素っ気なくこう言うのだ。
「熱あるんなら帰りなさい」
「えー、ベッド貸してよ。ちょっと寝たら治るからさ」
「だめよ、ちゃんと病院行きなさい。親御さんに電話するから」
「いいよ、そんなの。親仕事だし」
私のベッドに近づいてきて、カーテンを開けようとする陽キャに、先生は厳しく言った。
「体調悪い人が寝てます。邪魔しない」
「ちぇー」
ぶつぶつ言っていたが、ベッドは使用不可と諦めたのか、陽キャたちは去っていった。
ふう~怖かった……。
ばくばくした心臓を押さえていると、先生は「もう大丈夫よ」と静かに言った。
特別優しくもない、でも温かみのある、そんな言い方がフィリップ先生によく似ていた。
陽キャは駄目だけど、私がここにいることは許してくれるんだ……。
「ねえ先生」
「んー?」
「先生もメガネザルって言われたことある?」
「あるある」
と言って、先生はベッドで寝ている私の頭を撫でてくれた。
細い白い指が、さらさらと私の髪を透く。心地よくて私は目を閉じた。
「でもね、久高さんは眼鏡美人よ」
胸がどきっとした。
「眼鏡ブスなんていないんだよ。眼鏡をかければ、みんな知的で綺麗でかっこよくなるの」
保健室の窓は薄く開いていて、そこから陽の欠片がこぼれてくる。
瑞々しい風が、生成りのカーテンをふわりと膨らませた。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました
平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。
騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。
そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています
平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。
自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。
【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。
櫻野くるみ
恋愛
笠原由美は、総務部で働くごく普通の会社員だった。
ある日、会社のゆるキャラ、ペンギンのペンタンの着ぐるみが納品され、たまたま小柄な由美が試着したタイミングで棚が倒れ、下敷きになってしまう。
気付けば豪華な広間。
着飾る人々の中、ペンタンの着ぐるみ姿の由美。
どうやら、ペンギンの着ぐるみを着たまま、異世界に召喚されてしまったらしい。
え?この状況って、シュール過ぎない?
戸惑う由美だが、更に自分が王子の結婚相手として召喚されたことを知る。
現れた王子はイケメンだったが、冷たい雰囲気で、氷の王子様と呼ばれているらしい。
そんな怖そうな人の相手なんて無理!と思う由美だったが、王子はペンタンを着ている由美を見るなりメロメロになり!?
実は可愛いものに目がない王子様に溺愛されてしまうお話です。
完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる