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【#35 白衣眼鏡美人の夢を見ました】

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その人は前世の私が中学校のころの養護教諭で、いわゆる『保健室の先生』だった。

白衣を着てて落ちついた物腰で、すごく大人っぽく見えたけど、多分二十代だったと思う。

薄茶色のフレームの眼鏡をかけていて、知的な雰囲気の漂う美人だった。

基本は優しいけど、悪いことをした不良やヤンキーには厳しく注意してくれて、えこひいきとかは一切しない人だったから、生徒からとても慕われていた。

私はそのころ、ちょっと不登校気味だった。

小学生の高学年ごろから漫画の読み過ぎで目が悪くなってしまい、眼鏡をかけていたんだけど、それを『メガネザル』と言って、やんちゃ系の男子によくからかわれていたのだ。

カースト上位のかわいい系女子は「やめなよ~」とか言いつつ、くすくす笑っている。

友達は「気にすることないよ」と言ってくれたけど、面と向かって男子に注意はできなかった。

殴られでもしたら怖いもんね。

今思えば、そんな小さなことを気に病むなんてと思うんだけど、中学生にとっては学校が世界の全てだ。

そこで容姿を執拗にからかわれると、芽生え始めていた自尊心を狩り取られる。

私はからかわれて、笑われるぐらいブスなんだ。

私の容姿って、ダサいんだ。

思春期の柔らかい心はずたずたに傷つき、恥ずかしくて悲しくてたまらなかった。

それで学校を休みがちになったんだけど、あんまり休むと親がうるさいから、突っ込まれないギリギリの線を見極めつつ学校には行っていた。

でも教室にいると、お腹や頭が痛くなったりして、すぐ保健室に逃げ込んだ。

先生がいなくても、ベッドが空いていれば勝手にもぐり込んで、カーテンを閉める。

そのまま寝て過ごすこともあれば、保健室の机を借りて勉強したり本を読むこともあった。

先生は何も言わず、何も聞かず、ただそばにいてくれた。

そのことがどんなに私を救ってくれていたか、ちょっと言葉では言い表せない。

あの場所は、私にとって命綱だった。

「先生先生! 熱あるから寝かせてー」

よくあることだけど、ベッドで寝ているとガラッと音がして扉が開き、ウェイ系の陽キャが二、三人、騒がしい声を立てて入ってくる。

私は慌ててベッドにもぐりこんで気配を消す。

すると先生は、素っ気なくこう言うのだ。

「熱あるんなら帰りなさい」

「えー、ベッド貸してよ。ちょっと寝たら治るからさ」

「だめよ、ちゃんと病院行きなさい。親御さんに電話するから」

「いいよ、そんなの。親仕事だし」

私のベッドに近づいてきて、カーテンを開けようとする陽キャに、先生は厳しく言った。

「体調悪い人が寝てます。邪魔しない」

「ちぇー」

ぶつぶつ言っていたが、ベッドは使用不可と諦めたのか、陽キャたちは去っていった。

ふう~怖かった……。

ばくばくした心臓を押さえていると、先生は「もう大丈夫よ」と静かに言った。

特別優しくもない、でも温かみのある、そんな言い方がフィリップ先生によく似ていた。

陽キャは駄目だけど、私がここにいることは許してくれるんだ……。

「ねえ先生」

「んー?」

「先生もメガネザルって言われたことある?」

「あるある」

と言って、先生はベッドで寝ている私の頭を撫でてくれた。

細い白い指が、さらさらと私の髪を透く。心地よくて私は目を閉じた。

「でもね、久高さんは眼鏡美人よ」

胸がどきっとした。

「眼鏡ブスなんていないんだよ。眼鏡をかければ、みんな知的で綺麗でかっこよくなるの」

保健室の窓は薄く開いていて、そこから陽の欠片がこぼれてくる。

瑞々しい風が、生成りのカーテンをふわりと膨らませた。
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