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【#30 断る口実を考えました】
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「お父様。ご存じのとおり、私はプリスタイン公立学園眼鏡科の学園長のお役目をいただいております。眼鏡科はようやく始まったばかりで、何かと忙しく、しばらくはそちらに専念したいのです。ですから、今回のお話はお断わりしていただきたいのですが」
礼儀正しく私が言うと、「うーん」とお父様は笑顔で腕組みをした。
「確かに、お前の慧眼どおり、眼鏡はうちの一大産業になりつつある。眼鏡科は今後のプリスタイン公爵領の発展を支える礎となるだろう。眼鏡科の運営を成功させるのは、私からお前に与えた宿題だ。ぜひやり遂げてもらいたい」
そうでしょ、そうでしょ? さすがお父様、分かっていらっしゃる。
「では、お父様」
「しかしね、ティアメイ。事はそれほど簡単ではないのだよ」
「……どういうことですの?」
思わずアキトを見ると、その表情が曇っている。
「お前ももう十六歳。あと二年もすれば社交界に出る。変な虫が寄ってこないよう、そのときまでに婚約者をつけようと考えてはいたんだよ。だが知ってのとおり、お前は公爵令嬢だ。身分の釣り合う者はなかなかいない。その点、ウェンゼル公爵家のご子息であれば、全く申し分ないお相手だ。年も十七歳ということでちょうどいいし」
あ、オスカーって一個年上だったんだ。
……いやいや、今そこを気にしてる場合じゃないわ。
「私の気持ちはどうなるの? 確かにウェンゼル公爵家との関係だったり、身分の釣り合いからしても、このお見合いはメリットがあるのかもしれない。でも私は、自分の結婚相手は自分で選びたいの」
「だろうね。まあ、そう言うと思ったよ」
あっさりとお父様が認めたので、私は拍子抜けした。
「お前の変人ぶりは筋金入りだからね、今さら普通のお嬢様らしく、おとなしく言うことを聞いて嫁に行くなんて思っちゃいないよ」
「なあ、アキト?」とお父様は水を向けるが、アキトは控えめな表情で黙っている。
「ただ、これだけは先に話しておかなければならないよ、我が娘。これから、このような見合い話や縁談がたくさん舞い込んでくる。公爵家からの見合いをお断わりするためには、それなりの理由が必要だ。例えば、他に婚約者がいるとか……あっ」
何かを思い出したような表情に、私は「何?」と聞き返した。
だが、お父様は「何でもない」と言い、すぐに表情を切り替えた。
「だからこそ、私はお前に婚約者をつけたいと思っているんだよ。そうすれば眼鏡科の運営に力を注ぐことができる」
「……お父様は、私のことを理解してくださってるのね」
何だかじんときて、目頭が潤んだ。
「このお見合いをお断わりしても、私に婚約者がいない限り、これからずっとお見合いや結婚話が来るってことね。そして強い権力を持つ公爵家との縁談を下手に断ると、領国同士の争いの火種になってしまう」
「そういうことだ。理解が早いね、さすが我が娘」
いや多分、私が普通の女の子より二十五年分、経験があるからだと思う。
だから、お父様の言う公爵領同士の関係についても、納得はできないけど理解はできるもの。
もしただの十六歳の公爵令嬢だったら、そもそも眼鏡科なんか作らないだろうし、何も考えずに親の決めた相手と恋して結婚していただろう。
「見合いを断るより、見合いをした後に何らかの理由をつけて断るほうが、まだ礼儀にかなっている。見合いを断るというのは、『お前となんか会う価値ねーよ、ばーか!』と言ってるようなものだからね」
「まあ、それはそうですわね……」
会うだけ会って、『素敵な方すぎて、私にはもったいないと思いまして……』的な感じで断ればいっか。
お見合いなんか前世でもしたことないけど、多分それが一番スムーズだろう。
でもなあ……あのオスカーが、それで諦めてくれるとは思えないんだけど。
「アキト、どう思う?」
意見を求めたとき、その横顔の冷たさにぎょっとした。
「おそれながら、わたくしごときが口を挟めるお話ではございません。旦那様とよくご相談なさって、お嬢様ご自身でお決めになるのがよろしいかと存じます」
すぐにいつもと同じ穏やかな表情に戻ったし、口調も丁寧だけれど、私には分かる。
アキトは、すごく怒ってる。
何で……? 何で何も言ってくれないの?
「分かったわ」
しらっとした顔をしているアキトに、猛烈に腹が立ってきて、私は低い声で言った。
何よ、『私は関係ありません』みたいな部外者面して。私の専属執事のくせにっ。
私を引きとめなかったこと、後で後悔しても知らないんだからね!
「お父様、わたくしティアメイは、このお見合い話――お受けいたします」
礼儀正しく私が言うと、「うーん」とお父様は笑顔で腕組みをした。
「確かに、お前の慧眼どおり、眼鏡はうちの一大産業になりつつある。眼鏡科は今後のプリスタイン公爵領の発展を支える礎となるだろう。眼鏡科の運営を成功させるのは、私からお前に与えた宿題だ。ぜひやり遂げてもらいたい」
そうでしょ、そうでしょ? さすがお父様、分かっていらっしゃる。
「では、お父様」
「しかしね、ティアメイ。事はそれほど簡単ではないのだよ」
「……どういうことですの?」
思わずアキトを見ると、その表情が曇っている。
「お前ももう十六歳。あと二年もすれば社交界に出る。変な虫が寄ってこないよう、そのときまでに婚約者をつけようと考えてはいたんだよ。だが知ってのとおり、お前は公爵令嬢だ。身分の釣り合う者はなかなかいない。その点、ウェンゼル公爵家のご子息であれば、全く申し分ないお相手だ。年も十七歳ということでちょうどいいし」
あ、オスカーって一個年上だったんだ。
……いやいや、今そこを気にしてる場合じゃないわ。
「私の気持ちはどうなるの? 確かにウェンゼル公爵家との関係だったり、身分の釣り合いからしても、このお見合いはメリットがあるのかもしれない。でも私は、自分の結婚相手は自分で選びたいの」
「だろうね。まあ、そう言うと思ったよ」
あっさりとお父様が認めたので、私は拍子抜けした。
「お前の変人ぶりは筋金入りだからね、今さら普通のお嬢様らしく、おとなしく言うことを聞いて嫁に行くなんて思っちゃいないよ」
「なあ、アキト?」とお父様は水を向けるが、アキトは控えめな表情で黙っている。
「ただ、これだけは先に話しておかなければならないよ、我が娘。これから、このような見合い話や縁談がたくさん舞い込んでくる。公爵家からの見合いをお断わりするためには、それなりの理由が必要だ。例えば、他に婚約者がいるとか……あっ」
何かを思い出したような表情に、私は「何?」と聞き返した。
だが、お父様は「何でもない」と言い、すぐに表情を切り替えた。
「だからこそ、私はお前に婚約者をつけたいと思っているんだよ。そうすれば眼鏡科の運営に力を注ぐことができる」
「……お父様は、私のことを理解してくださってるのね」
何だかじんときて、目頭が潤んだ。
「このお見合いをお断わりしても、私に婚約者がいない限り、これからずっとお見合いや結婚話が来るってことね。そして強い権力を持つ公爵家との縁談を下手に断ると、領国同士の争いの火種になってしまう」
「そういうことだ。理解が早いね、さすが我が娘」
いや多分、私が普通の女の子より二十五年分、経験があるからだと思う。
だから、お父様の言う公爵領同士の関係についても、納得はできないけど理解はできるもの。
もしただの十六歳の公爵令嬢だったら、そもそも眼鏡科なんか作らないだろうし、何も考えずに親の決めた相手と恋して結婚していただろう。
「見合いを断るより、見合いをした後に何らかの理由をつけて断るほうが、まだ礼儀にかなっている。見合いを断るというのは、『お前となんか会う価値ねーよ、ばーか!』と言ってるようなものだからね」
「まあ、それはそうですわね……」
会うだけ会って、『素敵な方すぎて、私にはもったいないと思いまして……』的な感じで断ればいっか。
お見合いなんか前世でもしたことないけど、多分それが一番スムーズだろう。
でもなあ……あのオスカーが、それで諦めてくれるとは思えないんだけど。
「アキト、どう思う?」
意見を求めたとき、その横顔の冷たさにぎょっとした。
「おそれながら、わたくしごときが口を挟めるお話ではございません。旦那様とよくご相談なさって、お嬢様ご自身でお決めになるのがよろしいかと存じます」
すぐにいつもと同じ穏やかな表情に戻ったし、口調も丁寧だけれど、私には分かる。
アキトは、すごく怒ってる。
何で……? 何で何も言ってくれないの?
「分かったわ」
しらっとした顔をしているアキトに、猛烈に腹が立ってきて、私は低い声で言った。
何よ、『私は関係ありません』みたいな部外者面して。私の専属執事のくせにっ。
私を引きとめなかったこと、後で後悔しても知らないんだからね!
「お父様、わたくしティアメイは、このお見合い話――お受けいたします」
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