29 / 61
【#29 ライバル関係について聞きました】
しおりを挟む
【以前、お茶会で見初めて愛らしい方だと思っていたが、工業技術の育成にも力を入れていると伺い、より敬愛の念が強まった。堅苦しい見合いではなく、お友達として誼を結びたい。まずは、ざっくばらんにお茶でもいかがでしょうか】
お見合い申し込みの手紙は、こんな感じだった。
紙は最高級の上質紙で、薄緑色の便箋には綺麗な小花があしらわれており、レタリングはお洒落。
封筒にはウェンゼル家の紋章で封蝋がなされている。
普通のお嬢様なら、思わずうっとりして胸ときめかすような手紙だけど――。
……いやいやいやいや。人のこと拉致しておいて、よく言うよ。
つっこみどころが多すぎて、思考が追いつかない。開いた口がふさがらないとはこのことだ。
お茶会で見初めた? そんなわけがない。
工業技術の育成って、眼鏡のことだよね?
やんわりと『結婚して、眼鏡の技術ごとお前をゲットだぜ!』って言ってるよね?
敬愛のwww念wwwもいちいち草生えるし、まずはざっくばらんにお友達として……も建前であることが見え見えだ。行こうものなら、ぐいぐい話を進められるに決まってる。
「素敵な手紙だろう? 先方もお茶会でのことを覚えておられ、お前のことを見初めてくださったらしい。まあ、無理もないことだ。我が娘の美しさは輝くばかりだからな。一度でも目にすれば忘れられるはずもない。はっはっはっ」
どや顔で笑っているお父様に、私は首を振った。
「何をおっしゃるの、お父様。まさかこのお見合い、進めるおつもりじゃないでしょうね?」
「え? 進める気まんまんだけど?」
茶目っ気のある表情でお父様は言う。我が父ながら若々しくて格好いい。
これで眼鏡をかけてくれたら――って、そんなこと考えてる場合じゃない!
「だってウェンゼル公爵家と我がプリスタイン公爵家は、犬猿の仲なんでしょう? 何があったか知らないけど」
「おお、よく知ってるね。ティアメイは勉強家だなあ」
親ばか全開の笑顔でお父様は言う。
「確かに、プリスタイン公爵家とウェンゼル公爵家はライバル関係にある。リアンダー王国はもちろん国王様が治める国だが、各公爵領の領土は広大で、領主の権限は大きく、それぞれの領によってはっきりした特色がある。産業や教育や軍備など、力を入れるところもさまざまだ。だからこそ、特に隣り合う領同士は、常に意識し合い競い合う関係になる。うちとウェンゼル家だけでなく、他の公爵家も大体そんな感じだよ」
「戦争とかになったりもするの?」
「それこそ大昔の建国当初、王家の力がまだ強くなかったときは、そんなこともあったみたいだけどね。今は、同じ国の中で内紛は起こらないよ。そんなことを企てれば、一瞬で爵位も領地も没収されてしまうからね」
と、お父様が言ったので、私はほっとした。
「じゃあ、うちだけが特別ウェンゼル家と仲が悪いってわけじゃないのね?」
「いや~、それはどうかな。領政は別として、昔からうちとウェンゼル家は人間関係でいろいろあったからねえ」
「いろいろって何?」
「例えば、うちの父方の祖父――先々代の公爵だね――は、ウェンゼル公爵に好きな女性を取られたらしい。今ではその方は、先々代の公爵夫人であられる。あと大伯母さんは舞踏会でウェンゼル公爵家のご令嬢と出くわして、悪いことにドレスのデザインが丸かぶりしていたらしい。その上、ダンスを申し込まれた人数を競い合って負けたとかで、お怒りは相当なものだったそうだよ」
「そ、そんなしょうもないことで対立してたの……」
がっくりと肩を落とす私。どれもこれも逆恨みじゃないか。
まあオスカーの顔面偏差値から推測するに、ウェンゼル家はとびきりの美形ぞろいなのだろう。
私たちだって負けてはいけないけど、あの綺麗な金髪はなかなかお目にかかれないもんね。
「しょうもない、と言うけどね、ティアメイ。恋は人を狂わせるものだよ。どんなに冷静でいようとしても、感情の波にさらわれる。人の心の最も無防備な部分をさらし、時には傷つけられる。……お前にはまだ早かったかな?」
からかうような瞳で、なぜかお父様はアキトに目配せをする。
アキトは恐縮したように頭を下げ、一言も発さず気配を消している。
「それなら、なおさらお断わりしたほうがよいのではなくって? 因縁のある相手なんだし」
「因縁があるからこそ、ここいらでしっかり和解し、絆を結んでおくのもよいかなと思ってね」
なるほど。そういう考え方もあるのね。
……って、納得してる場合じゃない!
お父様は気づいてないけど、オスカーは私じゃなくて眼鏡の技術を狙ってるんだもん。
結婚なんてしたら、眼鏡ごとプリスタインの産業を乗っ取られちゃうよ。
でも、そのことを説明するには、拉致の話をしなきゃいけないし……ああ、どうしよう!?
お見合い申し込みの手紙は、こんな感じだった。
紙は最高級の上質紙で、薄緑色の便箋には綺麗な小花があしらわれており、レタリングはお洒落。
封筒にはウェンゼル家の紋章で封蝋がなされている。
普通のお嬢様なら、思わずうっとりして胸ときめかすような手紙だけど――。
……いやいやいやいや。人のこと拉致しておいて、よく言うよ。
つっこみどころが多すぎて、思考が追いつかない。開いた口がふさがらないとはこのことだ。
お茶会で見初めた? そんなわけがない。
工業技術の育成って、眼鏡のことだよね?
やんわりと『結婚して、眼鏡の技術ごとお前をゲットだぜ!』って言ってるよね?
敬愛のwww念wwwもいちいち草生えるし、まずはざっくばらんにお友達として……も建前であることが見え見えだ。行こうものなら、ぐいぐい話を進められるに決まってる。
「素敵な手紙だろう? 先方もお茶会でのことを覚えておられ、お前のことを見初めてくださったらしい。まあ、無理もないことだ。我が娘の美しさは輝くばかりだからな。一度でも目にすれば忘れられるはずもない。はっはっはっ」
どや顔で笑っているお父様に、私は首を振った。
「何をおっしゃるの、お父様。まさかこのお見合い、進めるおつもりじゃないでしょうね?」
「え? 進める気まんまんだけど?」
茶目っ気のある表情でお父様は言う。我が父ながら若々しくて格好いい。
これで眼鏡をかけてくれたら――って、そんなこと考えてる場合じゃない!
「だってウェンゼル公爵家と我がプリスタイン公爵家は、犬猿の仲なんでしょう? 何があったか知らないけど」
「おお、よく知ってるね。ティアメイは勉強家だなあ」
親ばか全開の笑顔でお父様は言う。
「確かに、プリスタイン公爵家とウェンゼル公爵家はライバル関係にある。リアンダー王国はもちろん国王様が治める国だが、各公爵領の領土は広大で、領主の権限は大きく、それぞれの領によってはっきりした特色がある。産業や教育や軍備など、力を入れるところもさまざまだ。だからこそ、特に隣り合う領同士は、常に意識し合い競い合う関係になる。うちとウェンゼル家だけでなく、他の公爵家も大体そんな感じだよ」
「戦争とかになったりもするの?」
「それこそ大昔の建国当初、王家の力がまだ強くなかったときは、そんなこともあったみたいだけどね。今は、同じ国の中で内紛は起こらないよ。そんなことを企てれば、一瞬で爵位も領地も没収されてしまうからね」
と、お父様が言ったので、私はほっとした。
「じゃあ、うちだけが特別ウェンゼル家と仲が悪いってわけじゃないのね?」
「いや~、それはどうかな。領政は別として、昔からうちとウェンゼル家は人間関係でいろいろあったからねえ」
「いろいろって何?」
「例えば、うちの父方の祖父――先々代の公爵だね――は、ウェンゼル公爵に好きな女性を取られたらしい。今ではその方は、先々代の公爵夫人であられる。あと大伯母さんは舞踏会でウェンゼル公爵家のご令嬢と出くわして、悪いことにドレスのデザインが丸かぶりしていたらしい。その上、ダンスを申し込まれた人数を競い合って負けたとかで、お怒りは相当なものだったそうだよ」
「そ、そんなしょうもないことで対立してたの……」
がっくりと肩を落とす私。どれもこれも逆恨みじゃないか。
まあオスカーの顔面偏差値から推測するに、ウェンゼル家はとびきりの美形ぞろいなのだろう。
私たちだって負けてはいけないけど、あの綺麗な金髪はなかなかお目にかかれないもんね。
「しょうもない、と言うけどね、ティアメイ。恋は人を狂わせるものだよ。どんなに冷静でいようとしても、感情の波にさらわれる。人の心の最も無防備な部分をさらし、時には傷つけられる。……お前にはまだ早かったかな?」
からかうような瞳で、なぜかお父様はアキトに目配せをする。
アキトは恐縮したように頭を下げ、一言も発さず気配を消している。
「それなら、なおさらお断わりしたほうがよいのではなくって? 因縁のある相手なんだし」
「因縁があるからこそ、ここいらでしっかり和解し、絆を結んでおくのもよいかなと思ってね」
なるほど。そういう考え方もあるのね。
……って、納得してる場合じゃない!
お父様は気づいてないけど、オスカーは私じゃなくて眼鏡の技術を狙ってるんだもん。
結婚なんてしたら、眼鏡ごとプリスタインの産業を乗っ取られちゃうよ。
でも、そのことを説明するには、拉致の話をしなきゃいけないし……ああ、どうしよう!?
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!
春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前!
さて、どうやって切り抜けようか?
(全6話で完結)
※一般的なざまぁではありません
※他サイト様にも掲載中
悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています
平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。
自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。
転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています
平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。
生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。
絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。
しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
えっ、これってバッドエンドですか!?
黄昏くれの
恋愛
ここはプラッツェン王立学園。
卒業パーティというめでたい日に突然王子による婚約破棄が宣言される。
あれ、なんだかこれ見覚えがあるような。もしかしてオレ、乙女ゲームの攻略対象の一人になってる!?
しかし悪役令嬢も後ろで庇われている少女もなんだが様子がおかしくて・・・?
よくある転生、婚約破棄モノ、単発です。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる