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【#16 眼鏡=戦争を否定しました】

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「つまりオスカーは、プリスタイン公爵家が戦争のために眼鏡を作ってるって言いたいの?」

「さっきお前が言っただろう。眼鏡の販売、流通はプリスタイン領内のみと制限されているし、眼鏡科に入学できるのもプリスタインの領民だけだ。そこまでして極秘にするだけの機密となると、軍事目的と考えるのが自然だろう」

「いやいやいやいや……頭痛くなってきた。どっから説明したらいいんだろう」

私は天をあおいだ。

オスカーの言うことは分かる。かなり突飛とっぴだけど、筋としては通っている。

でも、そうじゃないんだよ~。眼鏡をこよなく愛する私が、そんな邪悪な目的で眼鏡科を作るわけがない。

……いや、動機が不純っちゃあ不純なんだけど、でも、戦争とかあり得ないんで!

「事が事だけに、直接プリスタイン公爵家に問い合わせたところで返答があるとは思えない。我が家とお前の家とは関係が悪いんだからなおさらだ。だから、お前のいる眼鏡科を訪れた」

「だったら誘拐しないで、普通に話があるって言えばいいじゃない」

「そうしたかったが、護衛がいたからな」

「そりゃーいるわよ。アキトは私つきの執事なんだもん」

「あいつがいる限り、お前と二人で話をするのは無理だと判断した」

眼鏡越しに、オスカーの青い目が、じっと私を見つめる。

「……アキト抜きで話をしたかったってこと?」

「事は軍事機密だ。執事ごときに聞かせられる話じゃない」

オスカーはばっさりと言い切った。

ごときって、嫌な言い方するなあ。

「でも私を誘拐なんかしたら、それこそプリスタインとウェンゼルとの間で戦争が起こるとは思わなかったの?」

「リスクは承知の上だ。だから父には内密で、俺の一存で動いた。お前がここにいることは、ごく一部の人間しか知らない。何かあれば俺が全責任を負うまでだ」

うーん、立派というか、覚悟が違う。

次期公爵家当主ともなると、こんなにしっかりしてるんだ。

今回の誘拐も、ちょっと強引ではあるけれど、もし本当に戦争となったら領国や領民に危害が及び、最悪の場合、滅亡の危機に陥る。

そうなる前に、何よりも早く手を打っておくべきだ。

オスカーは、そこまで考えて行動していたわけね。

「話は分かったわ。でも信じて。眼鏡は軍事目的で生み出されたものじゃないし、これからも武器として使用することはないから」

「悪いが信用できない。お前がそのつもりはなくとも、プリスタイン公爵の考えは違うかもしれないからな」

オスカーに一刀両断されて、私は食い下がった。

「お父様も同じよ、戦争なんて考えるわけじゃないでしょ。第一、眼鏡科の設立を提案したのは私なんだから」

「百歩譲ってお前の言い分が正しく、眼鏡を武器として使用しなかったとしても、眼鏡がプリスタイン公爵領に莫大な富をもたらすことに変わりはない」

「莫大な富!?」

私が目を輝かせたのを見て、オスカーは首をひねった。

「公爵令嬢のくせに金にこだわりがあるのか? 変な奴」

まあいい、とオスカーは声色を改めた。

「眼鏡の値段は高価だが、技術が普及して製作費が下がれば、一般庶民の手にも渡る値段になるだろう。そうすれば、多くの人間がこの便利な道具をこぞって買い求める。職人や技術を囲い込む限り、それらの利益は全てプリスタインに流れ込む」

確かに……そこまで考えてなかったけど、眼鏡で大もうけってこともあり得るかも。

「オスカーって頭いいのね。アキトみたい」

比べられたのが不愉快だったのか、オスカーは顔をしかめた。
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