異世界に生まれ変わったので、学園を作って眼鏡男子と制服デートしてみた

凪子

文字の大きさ
上 下
5 / 61

【#5 両親を説得しました】

しおりを挟む
「以上の理由からして、わたくしティアメイ・アネット・ルーシー・クレア・プリスタインは、このプリスタイン公爵領に公立高等学校『眼鏡科めがねか』を設立することを!! 強く!! ご提案したいと思います!!」

どやあああああという効果音が聞こえそうなくらい、自信満々の顔で私は言い切り、食堂のテーブルに手をついた。

近くで控えているアキトが、そっ……と額に手を当てているのは気にしない。

「久しぶりの家族団らんかと思いきや、随分と思いきったことを言うなあ、我が娘よ」

お洒落なタキシードに身を包み、私の突飛な提案にも動揺せず完璧な優雅さでステーキを切り分けているのは、プリスタイン公爵である私のお父様。

「ティアメイちゃんったら、また面白いことを言い出したのねえ。とってもユニークで素敵だと思うわあ」

とびっきりの美人で、ほわほわした発言をしたのは公爵夫人である、私のお母様。

ちなみにお兄様は離れで義姉様と一緒に暮らしている。

「お父様、お母様。これは千載一遇せんざいいちぐうの商機です。
『リムロックガラス細工店』で尋ねたところ、店主のリムロックさんは眼鏡の製作方法を他者に教えたことはないと言っていました。一つ一つ手作りのため、製作には時間がかかり、大量生産はできていません。ということは、つまり、眼鏡はプリスタイン領が独占販売できるということです」

ほう、と感心したようにお父様は身を乗り出した。

「お前がそこまで商売に興味があるとは知らなかったよ」

「しかも、眼鏡の需要はなくならず、これから増えていくと思われます。昨今の学校設立ブーム、お父様もご存じでしょう。各領では国営の市民学校だけでなく、公爵家が私費で公立学校を設立し、人材育成に努めている。
識字率が上がり、本の流通が増えれば、その分眼鏡を必要とする人は増えます。
また、生まれつき目が見えにくい子どもへの医療用眼鏡や、お年寄りのための老眼鏡なども必要になるでしょう」

我ながら、びっくりするぐらいすらすらと言葉が溢れてくる。眼鏡のことなら一晩中だって熱く語れそう。

「確かに……一理あるな。さすが我が娘」

「そうねえ。ティアメイちゃんの言うとおりだわ」

お父様が腕を組んで考え込む横で、お母様はにこにこしながら頷いている。

よし、あともうひと押し。

「眼鏡は私たちの生活を便利にし、豊かにするものです。眼鏡はきっと、プリスタイン領の一大産業になります。
幸い、プリスタインにはお父様が設立された公立高等学園があります。私も昨年入学しましたが、素晴らしい学園です。そこに『眼鏡科』を併設し、眼鏡の製作技術を保護し職人を養成するのはいかがでしょうか?」

「よし、いいだろう。 その提案、乗った!!」

ぽんと手を叩き、お父様は満面の笑顔で言った。やった~!!

「ただし、ティアメイ。お前にはプリスタイン公立学園『眼鏡科』の学園長になってもらう」

「え!?」

驚いて飲み物を吹きそうになった。

「まぁ~それはいいわ、ティアメイちゃんにぴったりよ」

お母様は胸元から取り出した扇子をあおぎ、悠然と微笑んでいる。

「そこまで言うんだ、我が領にとって眼鏡が有用であることを示すためにも、学園長となって眼鏡科の運営を成功させなさい。私は理事長として、経営的立場からお前を評価する」

ううーん……お父様のこういうところ、怖いんだよね。抜け目ないっていうか、何というか。

領民や公爵領のことを第一に考えていて、いい意見はすぐに取り入れるんだけど、価値がないと判断すれば身内でも容赦なく切り捨てる。やり手の敏腕社長って感じ。

正直、眼鏡男子と制服デートするという野望さえ叶えられればいいのであって、眼鏡科の運営自体にさほど興味はない。

説得材料として眼鏡の有用性を語ってみたけれど、この世界で眼鏡がそこまで必要とされているかは不明確だ。

だけど……。

こほん、と上品な咳払いが聞こえて、私は顔を上げた。

見ると、隣にいるアキトが私に目配せを送り、かすかに頷いた。

――お嬢様なら大丈夫です。

そう言われている気がして、私は微笑んだ。

そうだよね。ここまで来て、引き下がるなんてもったいない!!

「分かりました。私は眼鏡科に入学し、生徒として学びながら学園長のお仕事もやり遂げてみせます!」

「よく言った! それでこそ我が娘だ」

お父様は私の席までやってきて、思いっきり私のことを抱きしめた。筋肉質で体格がいい上に、手加減なくやるものだから窒息しそうだ。

「まあ~ずるいわルイ、私もティアメイちゃんを抱っこしたいのに」

「おお、すまんすまん」

唇を尖らせたお母様がお父様と交替し、今度は薔薇の香りがする柔らかなハグをされる。

何やかんやで、親馬鹿すぎる二人である。

「アキト」

「はい」

「お前は『眼鏡科』の生徒として、ティアメイと同じクラスに入学しなさい」

「かしこまりました、旦那様」

「引き続き専属執事として娘のそばに仕え、守り、支えてやってほしい。ちょっと……いや、かなり変わった娘だが、一応我がプリスタイン家の姫なのでね。万が一にも、危険な目に遭わせないようにしてくれたまえ」

「この命に代えても、お嬢様をお守り申し上げます」

大分失礼な発言があったような気がするけど、引き受けてくれたアキトの表情は凛々しかった。

これでアキトと机を並べて、クラスメイトになれるんだ。

今まで執事として仕えてくれていたけれど、一緒の学校には通えなかったから嬉しい。

よーし、これで眼鏡男子との制服デートは確実だ!!





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...