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【#5 両親を説得しました】
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「以上の理由からして、わたくしティアメイ・アネット・ルーシー・クレア・プリスタインは、このプリスタイン公爵領に公立高等学校『眼鏡科』を設立することを!! 強く!! ご提案したいと思います!!」
どやあああああという効果音が聞こえそうなくらい、自信満々の顔で私は言い切り、食堂のテーブルに手をついた。
近くで控えているアキトが、そっ……と額に手を当てているのは気にしない。
「久しぶりの家族団らんかと思いきや、随分と思いきったことを言うなあ、我が娘よ」
お洒落なタキシードに身を包み、私の突飛な提案にも動揺せず完璧な優雅さでステーキを切り分けているのは、プリスタイン公爵である私のお父様。
「ティアメイちゃんったら、また面白いことを言い出したのねえ。とってもユニークで素敵だと思うわあ」
とびっきりの美人で、ほわほわした発言をしたのは公爵夫人である、私のお母様。
ちなみにお兄様は離れで義姉様と一緒に暮らしている。
「お父様、お母様。これは千載一遇の商機です。
『リムロックガラス細工店』で尋ねたところ、店主のリムロックさんは眼鏡の製作方法を他者に教えたことはないと言っていました。一つ一つ手作りのため、製作には時間がかかり、大量生産はできていません。ということは、つまり、眼鏡はプリスタイン領が独占販売できるということです」
ほう、と感心したようにお父様は身を乗り出した。
「お前がそこまで商売に興味があるとは知らなかったよ」
「しかも、眼鏡の需要はなくならず、これから増えていくと思われます。昨今の学校設立ブーム、お父様もご存じでしょう。各領では国営の市民学校だけでなく、公爵家が私費で公立学校を設立し、人材育成に努めている。
識字率が上がり、本の流通が増えれば、その分眼鏡を必要とする人は増えます。
また、生まれつき目が見えにくい子どもへの医療用眼鏡や、お年寄りのための老眼鏡なども必要になるでしょう」
我ながら、びっくりするぐらいすらすらと言葉が溢れてくる。眼鏡のことなら一晩中だって熱く語れそう。
「確かに……一理あるな。さすが我が娘」
「そうねえ。ティアメイちゃんの言うとおりだわ」
お父様が腕を組んで考え込む横で、お母様はにこにこしながら頷いている。
よし、あともうひと押し。
「眼鏡は私たちの生活を便利にし、豊かにするものです。眼鏡はきっと、プリスタイン領の一大産業になります。
幸い、プリスタインにはお父様が設立された公立高等学園があります。私も昨年入学しましたが、素晴らしい学園です。そこに『眼鏡科』を併設し、眼鏡の製作技術を保護し職人を養成するのはいかがでしょうか?」
「よし、いいだろう。 その提案、乗った!!」
ぽんと手を叩き、お父様は満面の笑顔で言った。やった~!!
「ただし、ティアメイ。お前にはプリスタイン公立学園『眼鏡科』の学園長になってもらう」
「え!?」
驚いて飲み物を吹きそうになった。
「まぁ~それはいいわ、ティアメイちゃんにぴったりよ」
お母様は胸元から取り出した扇子をあおぎ、悠然と微笑んでいる。
「そこまで言うんだ、我が領にとって眼鏡が有用であることを示すためにも、学園長となって眼鏡科の運営を成功させなさい。私は理事長として、経営的立場からお前を評価する」
ううーん……お父様のこういうところ、怖いんだよね。抜け目ないっていうか、何というか。
領民や公爵領のことを第一に考えていて、いい意見はすぐに取り入れるんだけど、価値がないと判断すれば身内でも容赦なく切り捨てる。やり手の敏腕社長って感じ。
正直、眼鏡男子と制服デートするという野望さえ叶えられればいいのであって、眼鏡科の運営自体にさほど興味はない。
説得材料として眼鏡の有用性を語ってみたけれど、この世界で眼鏡がそこまで必要とされているかは不明確だ。
だけど……。
こほん、と上品な咳払いが聞こえて、私は顔を上げた。
見ると、隣にいるアキトが私に目配せを送り、かすかに頷いた。
――お嬢様なら大丈夫です。
そう言われている気がして、私は微笑んだ。
そうだよね。ここまで来て、引き下がるなんてもったいない!!
「分かりました。私は眼鏡科に入学し、生徒として学びながら学園長のお仕事もやり遂げてみせます!」
「よく言った! それでこそ我が娘だ」
お父様は私の席までやってきて、思いっきり私のことを抱きしめた。筋肉質で体格がいい上に、手加減なくやるものだから窒息しそうだ。
「まあ~ずるいわルイ、私もティアメイちゃんを抱っこしたいのに」
「おお、すまんすまん」
唇を尖らせたお母様がお父様と交替し、今度は薔薇の香りがする柔らかなハグをされる。
何やかんやで、親馬鹿すぎる二人である。
「アキト」
「はい」
「お前は『眼鏡科』の生徒として、ティアメイと同じクラスに入学しなさい」
「かしこまりました、旦那様」
「引き続き専属執事として娘のそばに仕え、守り、支えてやってほしい。ちょっと……いや、かなり変わった娘だが、一応我がプリスタイン家の姫なのでね。万が一にも、危険な目に遭わせないようにしてくれたまえ」
「この命に代えても、お嬢様をお守り申し上げます」
大分失礼な発言があったような気がするけど、引き受けてくれたアキトの表情は凛々しかった。
これでアキトと机を並べて、クラスメイトになれるんだ。
今まで執事として仕えてくれていたけれど、一緒の学校には通えなかったから嬉しい。
よーし、これで眼鏡男子との制服デートは確実だ!!
どやあああああという効果音が聞こえそうなくらい、自信満々の顔で私は言い切り、食堂のテーブルに手をついた。
近くで控えているアキトが、そっ……と額に手を当てているのは気にしない。
「久しぶりの家族団らんかと思いきや、随分と思いきったことを言うなあ、我が娘よ」
お洒落なタキシードに身を包み、私の突飛な提案にも動揺せず完璧な優雅さでステーキを切り分けているのは、プリスタイン公爵である私のお父様。
「ティアメイちゃんったら、また面白いことを言い出したのねえ。とってもユニークで素敵だと思うわあ」
とびっきりの美人で、ほわほわした発言をしたのは公爵夫人である、私のお母様。
ちなみにお兄様は離れで義姉様と一緒に暮らしている。
「お父様、お母様。これは千載一遇の商機です。
『リムロックガラス細工店』で尋ねたところ、店主のリムロックさんは眼鏡の製作方法を他者に教えたことはないと言っていました。一つ一つ手作りのため、製作には時間がかかり、大量生産はできていません。ということは、つまり、眼鏡はプリスタイン領が独占販売できるということです」
ほう、と感心したようにお父様は身を乗り出した。
「お前がそこまで商売に興味があるとは知らなかったよ」
「しかも、眼鏡の需要はなくならず、これから増えていくと思われます。昨今の学校設立ブーム、お父様もご存じでしょう。各領では国営の市民学校だけでなく、公爵家が私費で公立学校を設立し、人材育成に努めている。
識字率が上がり、本の流通が増えれば、その分眼鏡を必要とする人は増えます。
また、生まれつき目が見えにくい子どもへの医療用眼鏡や、お年寄りのための老眼鏡なども必要になるでしょう」
我ながら、びっくりするぐらいすらすらと言葉が溢れてくる。眼鏡のことなら一晩中だって熱く語れそう。
「確かに……一理あるな。さすが我が娘」
「そうねえ。ティアメイちゃんの言うとおりだわ」
お父様が腕を組んで考え込む横で、お母様はにこにこしながら頷いている。
よし、あともうひと押し。
「眼鏡は私たちの生活を便利にし、豊かにするものです。眼鏡はきっと、プリスタイン領の一大産業になります。
幸い、プリスタインにはお父様が設立された公立高等学園があります。私も昨年入学しましたが、素晴らしい学園です。そこに『眼鏡科』を併設し、眼鏡の製作技術を保護し職人を養成するのはいかがでしょうか?」
「よし、いいだろう。 その提案、乗った!!」
ぽんと手を叩き、お父様は満面の笑顔で言った。やった~!!
「ただし、ティアメイ。お前にはプリスタイン公立学園『眼鏡科』の学園長になってもらう」
「え!?」
驚いて飲み物を吹きそうになった。
「まぁ~それはいいわ、ティアメイちゃんにぴったりよ」
お母様は胸元から取り出した扇子をあおぎ、悠然と微笑んでいる。
「そこまで言うんだ、我が領にとって眼鏡が有用であることを示すためにも、学園長となって眼鏡科の運営を成功させなさい。私は理事長として、経営的立場からお前を評価する」
ううーん……お父様のこういうところ、怖いんだよね。抜け目ないっていうか、何というか。
領民や公爵領のことを第一に考えていて、いい意見はすぐに取り入れるんだけど、価値がないと判断すれば身内でも容赦なく切り捨てる。やり手の敏腕社長って感じ。
正直、眼鏡男子と制服デートするという野望さえ叶えられればいいのであって、眼鏡科の運営自体にさほど興味はない。
説得材料として眼鏡の有用性を語ってみたけれど、この世界で眼鏡がそこまで必要とされているかは不明確だ。
だけど……。
こほん、と上品な咳払いが聞こえて、私は顔を上げた。
見ると、隣にいるアキトが私に目配せを送り、かすかに頷いた。
――お嬢様なら大丈夫です。
そう言われている気がして、私は微笑んだ。
そうだよね。ここまで来て、引き下がるなんてもったいない!!
「分かりました。私は眼鏡科に入学し、生徒として学びながら学園長のお仕事もやり遂げてみせます!」
「よく言った! それでこそ我が娘だ」
お父様は私の席までやってきて、思いっきり私のことを抱きしめた。筋肉質で体格がいい上に、手加減なくやるものだから窒息しそうだ。
「まあ~ずるいわルイ、私もティアメイちゃんを抱っこしたいのに」
「おお、すまんすまん」
唇を尖らせたお母様がお父様と交替し、今度は薔薇の香りがする柔らかなハグをされる。
何やかんやで、親馬鹿すぎる二人である。
「アキト」
「はい」
「お前は『眼鏡科』の生徒として、ティアメイと同じクラスに入学しなさい」
「かしこまりました、旦那様」
「引き続き専属執事として娘のそばに仕え、守り、支えてやってほしい。ちょっと……いや、かなり変わった娘だが、一応我がプリスタイン家の姫なのでね。万が一にも、危険な目に遭わせないようにしてくれたまえ」
「この命に代えても、お嬢様をお守り申し上げます」
大分失礼な発言があったような気がするけど、引き受けてくれたアキトの表情は凛々しかった。
これでアキトと机を並べて、クラスメイトになれるんだ。
今まで執事として仕えてくれていたけれど、一緒の学校には通えなかったから嬉しい。
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