2 / 61
【#2 異世界に生まれ変わりました】
しおりを挟む
「お嬢様。どうなさいましたか、ティアメイ様」
穏やかな声音が聞こえてきて、はっと顔を上げる。
こちらを覗き込んでいるのは、黒いスーツを身にまとい、オールバックの黒髪に紫色の瞳の青年。
彼は私の専属執事である、アキト・グロウリーだ。
「やっぱり……眼鏡がないと駄目よね」
「は?」
思わず手を伸ばして、アキトのほっぺたに触れる。
整った清雅な顔立ち、溢れる知性、執事というスペックが揃ってて、ここに眼鏡がないなんて。
ぺたぺた触っていると、アキトが困ったように苦笑した。
「お嬢様。また、前世とやらの夢ですか?」
そう言われて、私は豪華な鏡に映った自分を見つめる。
ミルクティー色のゆるくウェーブした髪、灰色の瞳。石鹸のように真っ白で、すべすべな肌。
真珠とレースで飾られた深紅のドレスがよく似合っている。
私の名前は、ティアメイ・アネット・ルーシー・クレア・プリスタイン。
長いよね? 自分でもそう思う。
ここ、リアンダー王国では、身分が高ければ高いほど名前が長くなるのだ。
私はプリスタイン家という公爵家の令嬢で、年は十六歳。
公爵家はリアンダー王国に三十しかなく、広大な領地を治める国有数の大貴族だ。
リアンダー王国ってどこ? OLの久高芽衣はどこへ行っちゃったの?
それは、私が聞きたい。
少なくとも【久高芽衣】が住んでいた世界には、そんな名前の国は存在しなかった。
今みたいに前世の記憶を夢に見るようになったのは四、五歳のころで、あるとき気がついたのだ。
どうやら私【久高芽衣】は前世で死んでしまい、全く別の世界であるこのリアンダー王国に私【ティアメイ】として転生してきてしまったのだ――と。
「本日は午前中はミス・ケイシーの花嫁修業、午後からは街へお出かけになるご予定です。そろそろ朝食を召し上がっていただかないと」
「あーそうだった!」
今日はお忍びで街をぶらり歩きする日だった。
貴族、それも公爵家の令嬢ともなると、基本的に一人で出歩くことはできない。
どこに行くにも、何をするにも専属執事のアキトがついてきて、予定や行動を把握されている。
その上、口うるさい女性にテーブルマナーや社交術を習わされて、花嫁修業をさせられるのだ。
「お嬢様。日頃からお嬢様が街へお出かけになるのは、何かを捜しておいでなのですか」
食卓につこうとして問いかけられ、私は振り向いた。
アキトはすらりと背が高い。私よりも三つ年上だけど、それ以上に大人びて見える。
「私、眼鏡が欲しいの」
「眼鏡とは?」
「ええっと……。二つレンズがあって、金属でできてて、物をよく見るために目にかけて使う道具」
うーん、ないものを説明するって難しい。
「目を患っておいでですか? すぐ医師を呼びます」
「違う違う! 私じゃないの。私がかけるんじゃなくて、アキトがね、かけたら似合うかなって」
「私が……ですか?」
アキトはきょとんとした顔をしている。
「私がその眼鏡とやらをかけて、お嬢様に何かよいことがあるのでしょうか」
「アキトは眼鏡映えする顔立ちしてるんだよ! ハイスペ執事でイケメンだし鼻も高いし。だから、眼鏡めっちゃ似合うと思うんだよね」
力説していると、アキトは人差し指を立てた。
「お嬢様、お声は控えめに。他の方に聞こえてしまいます」
「あ、そうだった……」
せっかく生まれ変わることができたんだもん、ここは神様がチャンスをくれたと思って、眼鏡男子と制服デートの夢を今度こそ叶えたい!
だけど、肝心の眼鏡がないんじゃ、お話にならない。
それに前世の記憶を迂闊に話すと、周りに変な子扱いされるため、この話ができるのはアキトだけだった。
今はこの世界に馴染むため、『普通のお嬢様』を目指して絶賛努力中である。
とはいえ、お嬢様らしいお嬢様になるのは難しく、なかなか先は長そうだ。
……頑張れ、私。
穏やかな声音が聞こえてきて、はっと顔を上げる。
こちらを覗き込んでいるのは、黒いスーツを身にまとい、オールバックの黒髪に紫色の瞳の青年。
彼は私の専属執事である、アキト・グロウリーだ。
「やっぱり……眼鏡がないと駄目よね」
「は?」
思わず手を伸ばして、アキトのほっぺたに触れる。
整った清雅な顔立ち、溢れる知性、執事というスペックが揃ってて、ここに眼鏡がないなんて。
ぺたぺた触っていると、アキトが困ったように苦笑した。
「お嬢様。また、前世とやらの夢ですか?」
そう言われて、私は豪華な鏡に映った自分を見つめる。
ミルクティー色のゆるくウェーブした髪、灰色の瞳。石鹸のように真っ白で、すべすべな肌。
真珠とレースで飾られた深紅のドレスがよく似合っている。
私の名前は、ティアメイ・アネット・ルーシー・クレア・プリスタイン。
長いよね? 自分でもそう思う。
ここ、リアンダー王国では、身分が高ければ高いほど名前が長くなるのだ。
私はプリスタイン家という公爵家の令嬢で、年は十六歳。
公爵家はリアンダー王国に三十しかなく、広大な領地を治める国有数の大貴族だ。
リアンダー王国ってどこ? OLの久高芽衣はどこへ行っちゃったの?
それは、私が聞きたい。
少なくとも【久高芽衣】が住んでいた世界には、そんな名前の国は存在しなかった。
今みたいに前世の記憶を夢に見るようになったのは四、五歳のころで、あるとき気がついたのだ。
どうやら私【久高芽衣】は前世で死んでしまい、全く別の世界であるこのリアンダー王国に私【ティアメイ】として転生してきてしまったのだ――と。
「本日は午前中はミス・ケイシーの花嫁修業、午後からは街へお出かけになるご予定です。そろそろ朝食を召し上がっていただかないと」
「あーそうだった!」
今日はお忍びで街をぶらり歩きする日だった。
貴族、それも公爵家の令嬢ともなると、基本的に一人で出歩くことはできない。
どこに行くにも、何をするにも専属執事のアキトがついてきて、予定や行動を把握されている。
その上、口うるさい女性にテーブルマナーや社交術を習わされて、花嫁修業をさせられるのだ。
「お嬢様。日頃からお嬢様が街へお出かけになるのは、何かを捜しておいでなのですか」
食卓につこうとして問いかけられ、私は振り向いた。
アキトはすらりと背が高い。私よりも三つ年上だけど、それ以上に大人びて見える。
「私、眼鏡が欲しいの」
「眼鏡とは?」
「ええっと……。二つレンズがあって、金属でできてて、物をよく見るために目にかけて使う道具」
うーん、ないものを説明するって難しい。
「目を患っておいでですか? すぐ医師を呼びます」
「違う違う! 私じゃないの。私がかけるんじゃなくて、アキトがね、かけたら似合うかなって」
「私が……ですか?」
アキトはきょとんとした顔をしている。
「私がその眼鏡とやらをかけて、お嬢様に何かよいことがあるのでしょうか」
「アキトは眼鏡映えする顔立ちしてるんだよ! ハイスペ執事でイケメンだし鼻も高いし。だから、眼鏡めっちゃ似合うと思うんだよね」
力説していると、アキトは人差し指を立てた。
「お嬢様、お声は控えめに。他の方に聞こえてしまいます」
「あ、そうだった……」
せっかく生まれ変わることができたんだもん、ここは神様がチャンスをくれたと思って、眼鏡男子と制服デートの夢を今度こそ叶えたい!
だけど、肝心の眼鏡がないんじゃ、お話にならない。
それに前世の記憶を迂闊に話すと、周りに変な子扱いされるため、この話ができるのはアキトだけだった。
今はこの世界に馴染むため、『普通のお嬢様』を目指して絶賛努力中である。
とはいえ、お嬢様らしいお嬢様になるのは難しく、なかなか先は長そうだ。
……頑張れ、私。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~
saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。
前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。
国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。
自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。
幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。
自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。
前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。
※小説家になろう様でも公開しています
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。
これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。
それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる