ディエス・イレ ~運命の時~

凪子

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エピローグ

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「卒業までに、ちゃんと英語勉強しとけよ」

「分かってるよ」

痛いところを突かれて、私は頬をふくらます。

爽君は「ははっ」と笑って、背中を向けた。

「じゃあ、行ってくる」

胸がきゅっと鳴って、私は思わず両手を回して後ろから抱きついていた。

爽君の心臓の鼓動が聞こえてくる。

(やばい……これじゃ私も爽君と変わんないじゃん)

七年も離れていたのに、今、離れることが寂しくてたまらない。

気持ちが通じ合っていることを確かめ合えたからこそ、ディエス・イレの記憶を持つ存在だからこそ、ずっと傍にいたい。

「舞」

抱きしめた手の上に、爽君の大きな手が重なる。

「俺たちが選んだ道が正しかったのか、間違っていたのか、それは分からない」

今まさに思っていたことを、爽君がそのまま言葉に出したので、私は息を呑んだ。

「何で紘二は死んで、俺たちは生きてるのか。両親でさえ紘二の記憶を失っているのに、どうして俺たちだけが覚えているのか。そこにどんな意味があるのか。どんなに探したって答えは見つからないけど……探し続けるしかないんだと思う」

振り向いて、爽君は私の目を見た。

その瞳には、覚悟の光が宿っていた。

「一緒に探そう。一緒に笑おう。一緒に泣こう。一緒に生きよう。これからもずっと」

頷くと、正面から強く抱きしめられた。温もりに涙が溢れる。

私たちの選択が正しかったのか、間違っていたのか、それは分からない。

でも、確かなのは――私たちは今、生きているということ。

そして、一人じゃないということ。

傷も痛みも、癒えることがないのなら、抱えたままで生きていこう。

紘ちゃんのいない、この世界で。

私たちが選んだ、この未来を。

ゆっくりと腕が離れ、私は爽君に向き合った。涙はもう止まっていた。

「行ってらっしゃい、爽君」

とびきりの笑顔で手を振ると、爽君も手を振り返した。

そして今度こそ背を向けて歩き出し、吸い込まれるように搭乗ゲートの奥へ消えていく。

私は大きく深呼吸すると、胸を張って歩き出した。

透きとおるような青空に、今、白い翼を持つ鳥が飛び立とうとしていた。

























































































【終わり】
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