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本編
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「プロポーズしたとき、お前は俺に聞いたよな。子ども扱いしている自分に、何で結婚しようと言ったのかって」
爽君は静かに言った。
去年の春、もうすぐ一年前になる話だ。私は懐かしさに目を細めた。
本当に無邪気で、愚かで、でもとても純粋で楽しい時間だった。
「そうだったね」
「あのときは、ただお前を失うのが怖かった。お前に前世の記憶を取り戻してほしかった。自分一人でこの絶望を抱えて生きるのが苦しくて、すがるような気持ちで結婚してほしいと言った。だから……あれは取り消させてくれ」
ずきんと心の奥に痛みが走った。
(そっか……そうだよね)
やっぱり爽君にとって私は幼馴染で、妹のようなものなのだろう。
「うん。分かった」
答えると同時に、涙がこぼれ落ちた。
(あれ……?何で……)
「おい、泣くなって。人の話は最後まで」
爽君は慌てた様子でポケットからハンカチを取り出す。
その瞬間、何かが床に転がり落ちた。
「……え?」
黒い小さな箱だった。さながら婚約指輪を入れておきそうな――。
そこでようやく、ピンときた。
はあ、と爽君が盛大な溜息をつき、ばつが悪そうな表情で言う。
「だから。前のプロポーズは取り消して、改めて正式に結婚を申し込むつもりだったんだよ。早とちりして泣くなっての」
「……だって」
涙が止まらなくなって、私はしゃくり上げた。
嬉しくて、哀しくて、恥ずかしくて、何だかよく分からないまま爽君の胸をぽかぽか叩く。
「だってだって、爽君が悪いんでしょ!ややこしい言い方するから!!そこはシンプルに、『俺と結婚してください』でいいじゃない」
「ばっ、おま、だから俺はだな、自分なりに筋を通したほうが、お前にも誠意が通じるだろうと思って。急に泣き出すなんて思わないだろ」
「爽君のばかっ、意地悪!」
「何だと?人がせっかく勇気を振り絞って言ってるのに、馬鹿とは何だ馬鹿とは。大体お前が一回目に素直に『うん』って言ってりゃ、こんなことにはならなかったんだよ!泣くぐらいなら、さっさと認めろっての」
「あの状況でプロポーズされて、『うん』って言う子がいたら見てみたいよ。爽君かなり怪しかったよ、変質者一歩手前だったんだからね」
「誰が変質者だ、プロポーズ撤回するぞ!」
「勝手にすれば?泣きを見るのはそっちだからね」
ぷいと背を向けた途端、後ろから抱き寄せられた。
「……悪かったよ」
拗ねたような口調に、思わず吹き出してしまう。
「やっと、本当の爽君が戻ってきてくれたような気がする」
向き直って、私は多分、自分史上最高の笑顔で言った。
「おかえりなさい、爽君」
すると爽君の手が私の手に重なり、薬指の指先にリングがはめられた。
その上から指先にキスされて、心臓がどくんと鳴り響く。
「……返事は?」
顔が熱い。爽君の真剣な目が私を見つめている。
私が唇を開きかけたとき、
「お前たちはここで死ね」
爽君は静かに言った。
去年の春、もうすぐ一年前になる話だ。私は懐かしさに目を細めた。
本当に無邪気で、愚かで、でもとても純粋で楽しい時間だった。
「そうだったね」
「あのときは、ただお前を失うのが怖かった。お前に前世の記憶を取り戻してほしかった。自分一人でこの絶望を抱えて生きるのが苦しくて、すがるような気持ちで結婚してほしいと言った。だから……あれは取り消させてくれ」
ずきんと心の奥に痛みが走った。
(そっか……そうだよね)
やっぱり爽君にとって私は幼馴染で、妹のようなものなのだろう。
「うん。分かった」
答えると同時に、涙がこぼれ落ちた。
(あれ……?何で……)
「おい、泣くなって。人の話は最後まで」
爽君は慌てた様子でポケットからハンカチを取り出す。
その瞬間、何かが床に転がり落ちた。
「……え?」
黒い小さな箱だった。さながら婚約指輪を入れておきそうな――。
そこでようやく、ピンときた。
はあ、と爽君が盛大な溜息をつき、ばつが悪そうな表情で言う。
「だから。前のプロポーズは取り消して、改めて正式に結婚を申し込むつもりだったんだよ。早とちりして泣くなっての」
「……だって」
涙が止まらなくなって、私はしゃくり上げた。
嬉しくて、哀しくて、恥ずかしくて、何だかよく分からないまま爽君の胸をぽかぽか叩く。
「だってだって、爽君が悪いんでしょ!ややこしい言い方するから!!そこはシンプルに、『俺と結婚してください』でいいじゃない」
「ばっ、おま、だから俺はだな、自分なりに筋を通したほうが、お前にも誠意が通じるだろうと思って。急に泣き出すなんて思わないだろ」
「爽君のばかっ、意地悪!」
「何だと?人がせっかく勇気を振り絞って言ってるのに、馬鹿とは何だ馬鹿とは。大体お前が一回目に素直に『うん』って言ってりゃ、こんなことにはならなかったんだよ!泣くぐらいなら、さっさと認めろっての」
「あの状況でプロポーズされて、『うん』って言う子がいたら見てみたいよ。爽君かなり怪しかったよ、変質者一歩手前だったんだからね」
「誰が変質者だ、プロポーズ撤回するぞ!」
「勝手にすれば?泣きを見るのはそっちだからね」
ぷいと背を向けた途端、後ろから抱き寄せられた。
「……悪かったよ」
拗ねたような口調に、思わず吹き出してしまう。
「やっと、本当の爽君が戻ってきてくれたような気がする」
向き直って、私は多分、自分史上最高の笑顔で言った。
「おかえりなさい、爽君」
すると爽君の手が私の手に重なり、薬指の指先にリングがはめられた。
その上から指先にキスされて、心臓がどくんと鳴り響く。
「……返事は?」
顔が熱い。爽君の真剣な目が私を見つめている。
私が唇を開きかけたとき、
「お前たちはここで死ね」
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