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「……やっぱりそうなんだ」
「ちょっと待って。意味がよく分からないんだけど」
「おかしいなって思ったの。だって私が爽君に会いに行こうとしたら、急に友子が倒れるんだもん。そこまでして、爽君と私を会わせたくなかったんだよね」
友子は青ざめた顔で立ち尽くしている。
その唇は重く、視線はじっと私に据えられていた。
「もしかしたら最初からだったのかなって、そう考えるとすごく怖かった。最初から友子は、ディエス・イレのために私に近づいたのかなって」
涙は出なかった。心は不思議と、しんと冴えていた。
私は友子をじっと見ている、友子は私を見ることができない。
「多分紘ちゃんって、すごい人なんだよね。それに、爽君も。たった一人で世界を滅ぼしたり、変えてしまうような力を持ってる。だから友子みたいな子が送り込まれた。爽君や紘ちゃんを監視するために」
地面に薄く伸びた二つの影が、陽炎のように震えている。
「私……」
友子は両手を握りしめ、ようやく口を開いた。
「私は……」
そのとき何となく、本当に何となく、私は友子に近づき、その手を取っていた。
びくっとして、友子が体を引こうとする。
「舞」
「言わないんじゃなくて、言えないんだよね。だから……何も言わなくていいよ」
友子の目に、うっすら水の膜が張るのが見えた。
綺麗な目だった。色素の薄い髪がふわふわと揺れて、学園の制服であるブレザーと緑色のリボンがよく似合っている。
「友子がどこの誰で、何の目的でここにいるのかは聞かない。だから、これからもずっと、友達として仲よくしたい。駄目かな?」
友子は目を丸くしたかと思うと、くしゃりと顔を歪めた。
泣き笑いのような表情だった。
その顔は、今でも瞼の裏に焼きついている。
「……駄目だよ」
友子は首を振った。
「私なんかと仲よくしたら駄目。だって……私が監視していたのは舞、あなただもの」
そして顔を上げ、私と目を合わせた。綺麗な微笑を浮かべながら。
「友子……?」
その唇が動きかけたかと思うと、手にかかっていた重みが不意に消えた。
「えっ」
まばたきする間に、友子の姿は目の前から消えてなくなっていた。
「ちょっと待って。意味がよく分からないんだけど」
「おかしいなって思ったの。だって私が爽君に会いに行こうとしたら、急に友子が倒れるんだもん。そこまでして、爽君と私を会わせたくなかったんだよね」
友子は青ざめた顔で立ち尽くしている。
その唇は重く、視線はじっと私に据えられていた。
「もしかしたら最初からだったのかなって、そう考えるとすごく怖かった。最初から友子は、ディエス・イレのために私に近づいたのかなって」
涙は出なかった。心は不思議と、しんと冴えていた。
私は友子をじっと見ている、友子は私を見ることができない。
「多分紘ちゃんって、すごい人なんだよね。それに、爽君も。たった一人で世界を滅ぼしたり、変えてしまうような力を持ってる。だから友子みたいな子が送り込まれた。爽君や紘ちゃんを監視するために」
地面に薄く伸びた二つの影が、陽炎のように震えている。
「私……」
友子は両手を握りしめ、ようやく口を開いた。
「私は……」
そのとき何となく、本当に何となく、私は友子に近づき、その手を取っていた。
びくっとして、友子が体を引こうとする。
「舞」
「言わないんじゃなくて、言えないんだよね。だから……何も言わなくていいよ」
友子の目に、うっすら水の膜が張るのが見えた。
綺麗な目だった。色素の薄い髪がふわふわと揺れて、学園の制服であるブレザーと緑色のリボンがよく似合っている。
「友子がどこの誰で、何の目的でここにいるのかは聞かない。だから、これからもずっと、友達として仲よくしたい。駄目かな?」
友子は目を丸くしたかと思うと、くしゃりと顔を歪めた。
泣き笑いのような表情だった。
その顔は、今でも瞼の裏に焼きついている。
「……駄目だよ」
友子は首を振った。
「私なんかと仲よくしたら駄目。だって……私が監視していたのは舞、あなただもの」
そして顔を上げ、私と目を合わせた。綺麗な微笑を浮かべながら。
「友子……?」
その唇が動きかけたかと思うと、手にかかっていた重みが不意に消えた。
「えっ」
まばたきする間に、友子の姿は目の前から消えてなくなっていた。
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