上 下
104 / 133
本編

103

しおりを挟む
御剣学園はリモート学習にも特化しており、何らかの事情で学校に通えない生徒はオンデマンドで授業を受けることができる。

爽君が刺されたあの日以来、私は学校に行かず、ゆっき先生の家に転がり込んで三人で暮らし始めた。

それが、どれだけおかしなことかは分かっていた。どれだけ迷惑かも。

でも、そうしなければいけないと思った。

「リンゴ剥いたよ。食べる?」

綺麗なウサギ型に整えたリンゴをフォークに突き刺し、私は爽君の口元へ持っていった。

「はい、あーん」

「お前な……」

うんざりしつつも、爽君の目は笑っている。少しだけ穏やかになったように思えた。

一週間が過ぎたが、あれ以来、前世の話はしていない。

私も前世の夢を見なくなったし、今は爽君が回復するために全力を尽くしたかった。

だけど、ぼんやりとして虚ろな瞳をしている爽君を見ると、心がぐらつく。

(紘ちゃんは、爽君を殺したんだ。ううん、爽君だけじゃない……。私たちの過去も、今の関係も、全部)

「爽君。私、どうしたらいいのかな」

ぽつりと、そんな言葉が漏れた。

「紘二の誕生日は来年、オリンピックの開会式の日だったよな」

「え?う、うん」

「その日までに」

と言いかけて、爽君は顔をしかめた。

「痛いの?」

思わずお腹に手を当ててさすると、爽君は笑って手を掴んだ。

「そんな簡単に男に触ると、襲われるぞ」

はっとして顔が熱くなる。

「ごめんなさい」

「俺は別にいいけど?」

爽君はにやにや笑っていたかと思うと、ふと真顔になって言った。

「このまま行けば、来年の夏、確実にディエス・イレは起こる。止められるのは舞、お前しかいない。
俺はお前と生きていきたいんだ。これからもずっと」

掴まれた手が熱く、脈動が伝わってくる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

鬼上司は間抜けな私がお好きです

碧井夢夏
恋愛
れいわ紡績に就職した新入社員、花森沙穂(はなもりさほ)は社内でも評判の鬼上司、東御八雲(とうみやくも)のサポートに配属させられる。 ドジな花森は何度も東御の前で失敗ばかり。ところが、人造人間と噂されていた東御が初めて楽しそうにしたのは花森がやらかした時で・・。 孤高の人、東御八雲はなんと間抜けフェチだった?! その上、育ちが特殊らしい雰囲気で・・。 ハイスペック超人と口だけの間抜け女子による上司と部下のラブコメ。 久しぶりにコメディ×溺愛を書きたくなりましたので、ゆるーく連載します。 会話劇ベースに、コミカル、ときどき、たっぷりと甘く深い愛のお話。 「めちゃコミック恋愛漫画原作賞」優秀作品に選んでいただきました。 ※大人ラブです。R15相当。 表紙画像はMidjourneyで生成しました。

逃げるが価値

maruko
恋愛
侯爵家の次女として生まれたが、両親の愛は全て姉に向いていた。 姉に来た最悪の縁談の生贄にされた私は前世を思い出し家出を決行。 逃げる事に価値を見い出した私は無事に逃げ切りたい! 自分の人生のために! ★長編に変更しました★ ※作者の妄想の産物です

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

二度目の人生も貴方に捧げます!(仮)

諏訪カノン
恋愛
恋人と婚約指輪を買った帰り、信号無視をした車から恋人を庇って『私』は死んだ。けれど天国だと思われる場所で天使に知らされたのは……次に生まれる命に色々なオプションを付けられるということ。そしてそれと交換できる「来世ポイント」というシステムだった。 容姿を美人にできたり、ファンタジー世界へ転生も出来る!と喜んでたのも束の間、庇った恋人が自殺したという内容を天使に聞かされる。 失意の中、何故か神様たちに呼ばれた私は彼氏・柳井幸宏が神様たちのとある「ゲーム」に欠かせない存在だったのだと教えられる。 『彼は既に転生している。そなたを彼と同じ世界に転生させよう』そう言われてまた幸宏に会えると思った私は喜んで、出された条件――神の駒になることを選んだ。 しかし転生する際、敵側からある呪いを掛けられる。それは……『“幸宏″と○○○○と自分は死ぬ』というものだった――― 幼馴染、学校の先輩や後輩、教師。『幸宏』の面影を持つ人達を前に、私の二度目の人生が始まる。

出来損ないの王妃と成り損ないの悪魔

梅雨の人
恋愛
「なぜ助けを求めないんだ?」 あの時あなたはそう私に問いかけてきた。 「あなたの手を取ったらあなたは幸せになれますか、嬉しいですか?」 私がそう問いかけたらあなたは手を差し伸べくれた。 「お前は充分苦しんだ。もう充分だ。」 私をまっすぐに見てくれるあなた、帰る場所を私に与えてくれたあなたについて行きたい、その時、そう心から思えた。 ささやかな毎日を与えてくれるあなたのおかげでようやく私は笑うことも冗談も言えるようになったのに、それなのに…私を突き放したひとがなぜ今更私に会いに来るのですか…? 出てくる登場人物は皆、不器用ですが一生懸命生きてります(汗) 完璧な空想上(ファンタジーよりの)話を書いてみたくて投稿しております。 宜しければご覧くださいませ。

本の虫令嬢は幼馴染に夢中な婚約者に愛想を尽かす

初瀬 叶
恋愛
『本の虫令嬢』 こんな通り名がつく様になったのは、いつの頃からだろうか?……もう随分前の事で忘れた。 私、マーガレット・ロビーには婚約者が居る。幼い頃に決められた婚約者、彼の名前はフェリックス・ハウエル侯爵令息。彼は私より二つ歳上の十九歳。いや、もうすぐ二十歳か。まだ新人だが、近衛騎士として王宮で働いている。 私は彼との初めての顔合せの時を思い出していた。あれはもう十年前だ。 『お前がマーガレットか。僕の名はフェリックスだ。僕は侯爵の息子、お前は伯爵の娘だから『フェリックス様』と呼ぶように」 十歳のフェリックス様から高圧的にそう言われた。まだ七つの私はなんだか威張った男の子だな……と思ったが『わかりました。フェリックス様』と素直に返事をした。 そして続けて、 『僕は将来立派な近衛騎士になって、ステファニーを守る。これは約束なんだ。だからお前よりステファニーを優先する事があっても文句を言うな』 挨拶もそこそこに彼の口から飛び出したのはこんな言葉だった。 ※中世ヨーロッパ風のお話ですが私の頭の中の異世界のお話です ※史実には則っておりませんのでご了承下さい ※相変わらずのゆるふわ設定です ※第26話でステファニーの事をスカーレットと書き間違えておりました。訂正しましたが、混乱させてしまって申し訳ありません

その出会い、運命につき。

あさの紅茶
恋愛
背が高いことがコンプレックスの平野つばさが働く薬局に、つばさよりも背の高い胡桃洋平がやってきた。かっこよかったなと思っていたところ、雨の日にまさかの再会。そしてご飯を食べに行くことに。知れば知るほど彼を好きになってしまうつばさ。そんなある日、洋平と背の低い可愛らしい女性が歩いているところを偶然目撃。しかもその女性の名字も“胡桃”だった。つばさの恋はまさか不倫?!悩むつばさに洋平から次のお誘いが……。

冷血弁護士と契約結婚したら、極上の溺愛を注がれています

朱音ゆうひ
恋愛
恋人に浮気された果絵は、弁護士・颯斗に契約結婚を持ちかけられる。 颯斗は美男子で超ハイスペックだが、冷血弁護士と呼ばれている。 結婚してみると超一方的な溺愛が始まり…… 「俺は君のことを愛すが、愛されなくても構わない」 冷血サイコパス弁護士x健気ワーキング大人女子が契約結婚を元に両片想いになり、最終的に両想いになるストーリーです。 別サイトにも投稿しています(https://www.berrys-cafe.jp/book/n1726839)

処理中です...