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本編

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ソロン王が、わずか五歳のことだった。

ソロン王の父である前王アズラエルは、妻であるハーミア妃を一刀のもとに斬り伏せた。

理由は定かではないが、酒に酔って気が荒くなったためとも、新たな妻を迎えることをハーミア妃が拒絶したことに腹を立てたとも言われている。

ソロン王は宴席の場にいた。

目の前で、血しぶきを上げて倒れる母の姿を見た。

血の海に横たわる母が、絶命する前に最後に目が合った。

その事件で負った深い心の傷、そのせいでいまだに彼は誰のことも信じられずにいる。

王位継承戦で兄に命を狙われ、信頼していた部下に裏切られ、彼らをことごとく手にかけた。

そして王位についた。

けれど、空しさは日に日に大きくなっている。

「……ソロンさ」

急に大きな手が髪に触れ、私はびくりとした。

ぽん、ぽんと軽く頭を撫で、慈しむような瞳がこちらを見つめている。

青い、青い瞳だ。

「誰も信じないのが、確実な道だ」

痛切な笑みでソロン王は呟いた。

胸がぎゅっと引き絞られて、私は目を伏せた。

王が巫女姫に恋着し、あるいは癒しを求め、愛人として囲うことはよくあることだ。

だが、正式に妃に迎えられた者はいない。なぜなら、身分が違うからだ。

この国において、神託の威力は絶大だ。神の言葉には、王すらひれ伏す力がある。

だが、神をその身に宿す巫女姫の身分は低い。

どんなに仕事に誇りを持っていても、一歩神殿の外に出れば、娼婦と大差ない扱いを受ける。

だから私は心に決めていた。

決して、決して、この人だけは好きになるまい――と。

ソロン王の指が動き、人差し指の腹に乗った、薄い白い花弁がこぼれ落ちる。

「ほら。取れたぞ、マイア」

「ありがとうございます」

その手を取って握り締めたい衝動に駆られながら、私は膝をつき、両手を組み合わせる。

「どうかあなたの行く道を、神が照らし導いてくださいますように」

































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