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本編
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ヘリポートというのだろうか、大きな白い機体が一台、コンクリートに描かれたオレンジ色の輪の中に停まっている。
扉は開いていて、中に運転士らしき人が乗っているのが見えた。
バタバタバタバタ……という重く低い機械音が耳を打つ。
不安を感じ、私は爽君を振り仰いだ。
「まさか、乗るんじゃないでしょう?」
「舞は高いところ平気だったよな」
とんちんかんな答えが返ってきて、私は地団太を踏んだ。
「そういう意味じゃなくて! 聞いてないって言ってるの」
「大丈夫。一時間ほどの軽いコースだ。今日は天気もいいし安全だ」
爽君は真顔で言う。あまりのわがままっぷりに目が回りそうになった。
個人でヘリをチャーターするなんて、そんなの映画やドラマの大富豪がすることだ。
それを平気で、しかも特に何の記念日でもないのにするなんて信じられない。
「私、乗らないからね」
踵を返して言うと、爽君の声が背中に響いた。
「ずっと言いたかったことがあるんだ」
振り向くと、切れ長の目と目が合った。
いつもは小馬鹿にしたり、からかったり、不敵に光っているその目が、今日は別の色合いを帯びている。
私が距離を置くと宣言したときと同じ、心もとない表情だ。
戸惑い、困惑、不安――。
(まさか……怯えてる? 爽君が、私に?)
打ち消そうと思っても、その鋭い直感は私に真実を訴えかけていた。
「舞。お前は本当に、何も覚えてないのか?」
こめかみに痛みが走り、私は眉を寄せた。
扉は開いていて、中に運転士らしき人が乗っているのが見えた。
バタバタバタバタ……という重く低い機械音が耳を打つ。
不安を感じ、私は爽君を振り仰いだ。
「まさか、乗るんじゃないでしょう?」
「舞は高いところ平気だったよな」
とんちんかんな答えが返ってきて、私は地団太を踏んだ。
「そういう意味じゃなくて! 聞いてないって言ってるの」
「大丈夫。一時間ほどの軽いコースだ。今日は天気もいいし安全だ」
爽君は真顔で言う。あまりのわがままっぷりに目が回りそうになった。
個人でヘリをチャーターするなんて、そんなの映画やドラマの大富豪がすることだ。
それを平気で、しかも特に何の記念日でもないのにするなんて信じられない。
「私、乗らないからね」
踵を返して言うと、爽君の声が背中に響いた。
「ずっと言いたかったことがあるんだ」
振り向くと、切れ長の目と目が合った。
いつもは小馬鹿にしたり、からかったり、不敵に光っているその目が、今日は別の色合いを帯びている。
私が距離を置くと宣言したときと同じ、心もとない表情だ。
戸惑い、困惑、不安――。
(まさか……怯えてる? 爽君が、私に?)
打ち消そうと思っても、その鋭い直感は私に真実を訴えかけていた。
「舞。お前は本当に、何も覚えてないのか?」
こめかみに痛みが走り、私は眉を寄せた。
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