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本編
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「ちゃんと話がしたい。少しでも早く」
「そう」
自分でも思った以上に素っ気ない声が出た。
爽君は窺うような目つきで私を見ている。
いつもの自信に満ちた態度とは似ても似つかない、まるで別人のようだった。
「落ちついたら、なるべく早く連絡してほしい。それと、少しでも困ったことがあったら、いつでも助けを求めてほしい。俺じゃなくてもいいから。俺の知らない間に、お前が苦しんだり辛い思いをするのが嫌なんだ」
ずきり、と胸が痛んだ。
爽君の言葉は、これ以上なく真心のこもったものだ。
でも、今はそれを信じきることができない自分がいる。
『爽兄は、俺を殺そうとしてるんだ』
頭の中で、紘ちゃんの台詞がリフレインする。
握りしめた拳に冷や汗が滲んだ。
「……分かった」
私は押し殺した声で言うと、気まずさから逃れるために駆け出した。
背中に爽君の視線を感じながら。
(ごめんね……爽君)
「そう」
自分でも思った以上に素っ気ない声が出た。
爽君は窺うような目つきで私を見ている。
いつもの自信に満ちた態度とは似ても似つかない、まるで別人のようだった。
「落ちついたら、なるべく早く連絡してほしい。それと、少しでも困ったことがあったら、いつでも助けを求めてほしい。俺じゃなくてもいいから。俺の知らない間に、お前が苦しんだり辛い思いをするのが嫌なんだ」
ずきり、と胸が痛んだ。
爽君の言葉は、これ以上なく真心のこもったものだ。
でも、今はそれを信じきることができない自分がいる。
『爽兄は、俺を殺そうとしてるんだ』
頭の中で、紘ちゃんの台詞がリフレインする。
握りしめた拳に冷や汗が滲んだ。
「……分かった」
私は押し殺した声で言うと、気まずさから逃れるために駆け出した。
背中に爽君の視線を感じながら。
(ごめんね……爽君)
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