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本編

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「心配したんだよ。私のこと、分かる?爽君のことは?」

薄い緑色の酸素マスクをつけているせいか、紘ちゃんは話しにくそうだった。

代わりに私が話す言葉にまばたきしたり、首を動かしたりして反応してくれる。

しばらくすると、私は切り出した。

「ねえ、紘ちゃん。非常階段から落ちたって」

「舞」

腕組みして黙って聞いていた爽君が、遮って言った。

「この辺にしておいたほうがいい。意識を取り戻したばかりで、紘二も疲れてる」

「えっ、でも」

まだ部屋に入って三分も経っていない。

顔を見て、生きていると確認しただけだ。もっと話したいことがあるのに。

すると、ぴったりのタイミングで紘ちゃんと目が合った。

「何?」

紘ちゃんは澄んだ目で、じっと私を見つめてくる。

その目が私に、何かを訴えかけてくる。

(紘ちゃん……?)

紘ちゃんの唇が動こうとするのと同時に、両肩を掴んで椅子から立ち上がらされた。

「ほら、行くぞ舞」

「待って。今、紘ちゃんが何か言おうとしたの」

「話なら、退院してからでもできるだろ。今は安静が第一だ、紘二に無理させるな」

「お願い、あとちょっとだけ」

これは今、聞かなければいけないことのような気がする。

紘ちゃんの瞳は潤んでいて、なみなみならぬ感情に満ちていた。

「駄目だ」

「きゃっ?!」

爽君はにべもなく言うと、私を荷物のように持ち上げて肩にかついだ。

視界が急に高くなり、天井がやけに近くなる。

「やめて! 降ろしてよっ」

私は手足をばたつかせて抵抗したが、爽君は涼しい顔で病室を出ていく。

「何で話聞いてくれないの? ちょっとだけって言ってるでしょ?」

私は腕を振り回し、爽君の背中を強く叩いた。

だが、爽君は答えない。

「爽君の馬鹿っ!!」

めちゃくちゃ頭にきて、私は叫んだ。

見下ろすと、私たちを見送る紘ちゃんの悲しそうな目と目が合う。

『明日』

私は声を出さずに唇を動かし、この部屋の床を指さした。

『明日来るから』

紘ちゃんは目を閉じる最後の一瞬、力を振り絞って、こくりと頷いた。

分かった――と。




















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