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エピローグ
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喫茶【オリオン】は今日も閑古鳥が鳴いている。
そんな状態を嘆くわけでもなく、佐伯恵果は今日もカウンターキッチンで洗い物をしていた。
ついているテレビから無造作に流れる音に手を止める。
見ると、美蘭の出ているシャンプーのCMだった。
「本当、いつ見ても綺麗だよね。有吉美蘭って」
加奈子がシャンプーのCMソングを口ずさみながら、階下へ降りてくる。
「上品だし、美人だし。清楚なお嬢様って感じ?」
恵果は微笑んだ。
美蘭が自分たちの元を去ってから、もう二年が経とうとしている。
月日が流れるのは信じられないほど早く、時折、恐怖すら覚えるほどだ。
自分はこれまでに、何をしてきたのだろう。これから、何ができるのだろう――と。
加奈子も今年は、高校受験を控えた身だ。
体も心も成長し、最近では穿ったことも言うようになって、恵果は喜ぶ反面、手を焼いている。
「もうやめちゃうんだね、ストリートライブ」
残念だなあ、と加奈子は嘆いた。
恵果が首を傾げると、
「ほら、あのカッコいい人!一人でやってたじゃん」
「ああ、りっちゃんのこと?しょうがないよ。りっちゃんはもう、作詞家としての一歩を踏み出してるんだし」
「売れる曲を書くって難しいんだろうね。きっと、針の穴通すみたいなもんだよ」
恵果は頬づえをついた。
「そうね。あ、そうだ。りっちゃんが詞をつけた曲、今度の日曜ドラマに主題歌として起用されたらしいよ」
「ええーそうなの?!すごいじゃん!」
嬉しそうな恵果を横目で見て、加奈子はにやりと笑った。
「ね、いつかさ。律って人が、恵果ちゃんに『これは君のために書いた歌なんだ』とか言っちゃう日、来ないかな?」
恵果は目を丸くして、それから手を振った。
「来ない来ない。りっちゃんはそういうキャラじゃないよ」
「そうかなー?」
と加奈子が不服げな顔をしたとき、鈴の音がしてドアが開いた。
恵果は手を洗って、顔を上げる。
「あら、噂をすれば本人だわ」
律はグレーのスーツに身を包み、ぐったりした様子だった。
「スーツ似合ってるね。成人おめでとう」
「どうも」
照れたのか、律はぶっきらぼうに言う。
恵果はカウンター越しに、近ごろ急に大人びた律の姿を眺めた。
「噂って、何の噂してたんだよ」
「それはこっちの話」
恵果と加奈子は向かい合って「ねー?」と声を合わせる。
そんな状態を嘆くわけでもなく、佐伯恵果は今日もカウンターキッチンで洗い物をしていた。
ついているテレビから無造作に流れる音に手を止める。
見ると、美蘭の出ているシャンプーのCMだった。
「本当、いつ見ても綺麗だよね。有吉美蘭って」
加奈子がシャンプーのCMソングを口ずさみながら、階下へ降りてくる。
「上品だし、美人だし。清楚なお嬢様って感じ?」
恵果は微笑んだ。
美蘭が自分たちの元を去ってから、もう二年が経とうとしている。
月日が流れるのは信じられないほど早く、時折、恐怖すら覚えるほどだ。
自分はこれまでに、何をしてきたのだろう。これから、何ができるのだろう――と。
加奈子も今年は、高校受験を控えた身だ。
体も心も成長し、最近では穿ったことも言うようになって、恵果は喜ぶ反面、手を焼いている。
「もうやめちゃうんだね、ストリートライブ」
残念だなあ、と加奈子は嘆いた。
恵果が首を傾げると、
「ほら、あのカッコいい人!一人でやってたじゃん」
「ああ、りっちゃんのこと?しょうがないよ。りっちゃんはもう、作詞家としての一歩を踏み出してるんだし」
「売れる曲を書くって難しいんだろうね。きっと、針の穴通すみたいなもんだよ」
恵果は頬づえをついた。
「そうね。あ、そうだ。りっちゃんが詞をつけた曲、今度の日曜ドラマに主題歌として起用されたらしいよ」
「ええーそうなの?!すごいじゃん!」
嬉しそうな恵果を横目で見て、加奈子はにやりと笑った。
「ね、いつかさ。律って人が、恵果ちゃんに『これは君のために書いた歌なんだ』とか言っちゃう日、来ないかな?」
恵果は目を丸くして、それから手を振った。
「来ない来ない。りっちゃんはそういうキャラじゃないよ」
「そうかなー?」
と加奈子が不服げな顔をしたとき、鈴の音がしてドアが開いた。
恵果は手を洗って、顔を上げる。
「あら、噂をすれば本人だわ」
律はグレーのスーツに身を包み、ぐったりした様子だった。
「スーツ似合ってるね。成人おめでとう」
「どうも」
照れたのか、律はぶっきらぼうに言う。
恵果はカウンター越しに、近ごろ急に大人びた律の姿を眺めた。
「噂って、何の噂してたんだよ」
「それはこっちの話」
恵果と加奈子は向かい合って「ねー?」と声を合わせる。
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