女子高生占い師の事件簿

凪子

文字の大きさ
上 下
137 / 138
エピローグ

137

しおりを挟む
喫茶【オリオン】は今日も閑古鳥が鳴いている。

そんな状態を嘆くわけでもなく、佐伯恵果は今日もカウンターキッチンで洗い物をしていた。

ついているテレビから無造作に流れる音に手を止める。

見ると、美蘭の出ているシャンプーのCMだった。

「本当、いつ見ても綺麗だよね。有吉美蘭って」

加奈子がシャンプーのCMソングを口ずさみながら、階下へ降りてくる。

「上品だし、美人だし。清楚なお嬢様って感じ?」

恵果は微笑んだ。

美蘭が自分たちの元を去ってから、もう二年が経とうとしている。

月日が流れるのは信じられないほど早く、時折、恐怖すら覚えるほどだ。

自分はこれまでに、何をしてきたのだろう。これから、何ができるのだろう――と。

加奈子も今年は、高校受験を控えた身だ。

体も心も成長し、最近では穿ったことも言うようになって、恵果は喜ぶ反面、手を焼いている。

「もうやめちゃうんだね、ストリートライブ」

残念だなあ、と加奈子は嘆いた。

恵果が首を傾げると、

「ほら、あのカッコいい人!一人でやってたじゃん」

「ああ、りっちゃんのこと?しょうがないよ。りっちゃんはもう、作詞家としての一歩を踏み出してるんだし」

「売れる曲を書くって難しいんだろうね。きっと、針の穴通すみたいなもんだよ」

恵果は頬づえをついた。

「そうね。あ、そうだ。りっちゃんが詞をつけた曲、今度の日曜ドラマに主題歌として起用されたらしいよ」

「ええーそうなの?!すごいじゃん!」

嬉しそうな恵果を横目で見て、加奈子はにやりと笑った。

「ね、いつかさ。律って人が、恵果ちゃんに『これは君のために書いた歌なんだ』とか言っちゃう日、来ないかな?」

恵果は目を丸くして、それから手を振った。

「来ない来ない。りっちゃんはそういうキャラじゃないよ」

「そうかなー?」

と加奈子が不服げな顔をしたとき、鈴の音がしてドアが開いた。

恵果は手を洗って、顔を上げる。

「あら、噂をすれば本人だわ」

律はグレーのスーツに身を包み、ぐったりした様子だった。

「スーツ似合ってるね。成人おめでとう」

「どうも」

照れたのか、律はぶっきらぼうに言う。

恵果はカウンター越しに、近ごろ急に大人びた律の姿を眺めた。

「噂って、何の噂してたんだよ」

「それはこっちの話」

恵果と加奈子は向かい合って「ねー?」と声を合わせる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

えふえむ三人娘の物語

えふえむ
キャラ文芸
えふえむ三人娘の小説です。 ボブカット:アンナ(杏奈)ちゃん 三つ編み:チエ(千絵)ちゃん ポニテ:サキ(沙希)ちゃん

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

処理中です...