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【5】イベントチャート
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もし、亜子や加奈子を巻き込まなければ、あるいはマシだったかもしれない。
比呂は思った。
恵果は藤森の申し出を不快に思いはしただろうが、あそこまで完全に対立し、牙を向くことはなかっただろう。
あれほど、佐伯恵果を取り込むことは不可能だと言ったのに――。
比呂は、父親の愚かさと強欲に苦笑が漏れるのが分かった。
手に入れられるものは、全て利用する。その傲慢な態度こそが、彼の命取りになるだろう。
彼はきっと今も、気づいていないのだろう。
自分が不用意につついた藪から、大蛇を出してしまったことに。
恵吾が死んだ今、この藤森グループで、龍之介は極めて微妙な立場にいる。
一応、総裁になったとはいえ、彼の弟はかなりのやり手であり、藤森総裁の後釜を虎視眈々と狙っている。
龍之介が死んだ後は、きっと龍之介の息子である比呂と全面戦争の火蓋を切って落とすことになるだろう。
恵果はそこまで読んでいるのだ。
そして金輪際、彼女は藤森に力を貸すことはない。
それどころか、比呂の危惧していたとおり、完全に藤森の敵に回ってしまった。
歯噛みしたいくらい悔しく、愚鈍な父親に地団駄を踏みたいくらいなのに、どこかでこの結末を喜んでいる自分がいる。
「恵果」
呼びかけると、門を出たところで恵果は優雅に振り返った。なびく髪が彼女の輪郭を彩る。
謝るつもりはなかった。だから比呂は、軽い笑みを浮かべてこう言った。
「こっちに来いよ」
「あなたは私にとってかわいい甥っ子だけど、その望みは叶えられないわね」
恵果は苦笑する。
ああ、最後なのだ。こうやって普通の会話をするのは。
そんな確信が、にわかに比呂の頬を打った。
これから、自分と恵果はまごうことなき敵同士になる。
「誰を人質に取っても無駄よ。私自身をどうこうしたいんじゃなく、私に占いをさせたいのなら」
「分かってるよ」
比呂は立ち止まり、数歩の距離を置いて恵果と対峙した。
数ヶ月前の用意された出会いが、嘘のように遠い昔に思える。
「ずっと、独りきりで生きていくのか?」
比呂が問うと、恵果はいつものようににっこりと微笑んだ。
晩秋の清冽とした空気の中で、恵果の周りだけが明るく光っている。
人間でありながら、誰もが及ばない高みにいる存在。
恵果は、普通の少女ではあり得ない自分を知っている。
占い師を続ける限り、客は占い師としての恵果を必要としているのであって、恵果自身を必要とすることはない。
たとえ依頼人が望んでも、客と占い師以上の関係に踏み込むことは、恵果自身が禁じていた。
だから恵果は友達を作らず、誰にも頼らず、孤独の中に身を置いている。
そして彼女は、先ほど高らかに宣戦布告した。
これから兄の静とも違う道で、たった一人で戦っていかなければならない。
比呂は思った。
恵果は藤森の申し出を不快に思いはしただろうが、あそこまで完全に対立し、牙を向くことはなかっただろう。
あれほど、佐伯恵果を取り込むことは不可能だと言ったのに――。
比呂は、父親の愚かさと強欲に苦笑が漏れるのが分かった。
手に入れられるものは、全て利用する。その傲慢な態度こそが、彼の命取りになるだろう。
彼はきっと今も、気づいていないのだろう。
自分が不用意につついた藪から、大蛇を出してしまったことに。
恵吾が死んだ今、この藤森グループで、龍之介は極めて微妙な立場にいる。
一応、総裁になったとはいえ、彼の弟はかなりのやり手であり、藤森総裁の後釜を虎視眈々と狙っている。
龍之介が死んだ後は、きっと龍之介の息子である比呂と全面戦争の火蓋を切って落とすことになるだろう。
恵果はそこまで読んでいるのだ。
そして金輪際、彼女は藤森に力を貸すことはない。
それどころか、比呂の危惧していたとおり、完全に藤森の敵に回ってしまった。
歯噛みしたいくらい悔しく、愚鈍な父親に地団駄を踏みたいくらいなのに、どこかでこの結末を喜んでいる自分がいる。
「恵果」
呼びかけると、門を出たところで恵果は優雅に振り返った。なびく髪が彼女の輪郭を彩る。
謝るつもりはなかった。だから比呂は、軽い笑みを浮かべてこう言った。
「こっちに来いよ」
「あなたは私にとってかわいい甥っ子だけど、その望みは叶えられないわね」
恵果は苦笑する。
ああ、最後なのだ。こうやって普通の会話をするのは。
そんな確信が、にわかに比呂の頬を打った。
これから、自分と恵果はまごうことなき敵同士になる。
「誰を人質に取っても無駄よ。私自身をどうこうしたいんじゃなく、私に占いをさせたいのなら」
「分かってるよ」
比呂は立ち止まり、数歩の距離を置いて恵果と対峙した。
数ヶ月前の用意された出会いが、嘘のように遠い昔に思える。
「ずっと、独りきりで生きていくのか?」
比呂が問うと、恵果はいつものようににっこりと微笑んだ。
晩秋の清冽とした空気の中で、恵果の周りだけが明るく光っている。
人間でありながら、誰もが及ばない高みにいる存在。
恵果は、普通の少女ではあり得ない自分を知っている。
占い師を続ける限り、客は占い師としての恵果を必要としているのであって、恵果自身を必要とすることはない。
たとえ依頼人が望んでも、客と占い師以上の関係に踏み込むことは、恵果自身が禁じていた。
だから恵果は友達を作らず、誰にも頼らず、孤独の中に身を置いている。
そして彼女は、先ほど高らかに宣戦布告した。
これから兄の静とも違う道で、たった一人で戦っていかなければならない。
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