女子高生占い師の事件簿

凪子

文字の大きさ
上 下
133 / 138
【5】イベントチャート

133

しおりを挟む
「『情に訴えろ作戦』も失敗となると、あとは人質を取るくらいしか思いつかないからね。うちの親父は」

「残念ね。こっちは優秀な番犬を飼ってるのよ」

悪戯っぽい笑みを浮かべて、恵果は言った。

比呂は苦笑した。

「律か。……あいつは、厄介になると思ってたよ」

恵果は微笑んで紅茶を口に含む。

「君は恐ろしい子だね。佐伯恵果」

恵果が口を開こうとしたとき、ドアが開き、真一文字に唇を引き結んだ壮年の男性が入室してきた。

全身から滲み出る威圧感を、恵果は肌で感じ取っていた。

「藤森龍之介です。藤森恵吾の長男で、比呂の父親です。初めまして、ということになるのかな」

「ええ。兄の静が生まれて、母はすぐにここを追い出されたそうですから」

恵果はにべもなく応えた。

男性はどっかりと比呂の隣に腰を下ろして、手を組み合わせた。

これで役者はそろった。

財界のドン・藤森恵吾の長男龍之介と、その息子である比呂。

そして藤森恵吾の私生児であり、龍之介の歳の離れた妹、比呂にとっては年下の叔母に当たる恵果。

「……昨日の深夜、藤森恵吾が亡くなったよ」

実父の訃報を聞かされても、恵果は眉一つ動かさなかった。

対照的に、龍之介はくたびれたスーツといい、目許に刻まれた皺といい、どことなく疲れが滲み出ていた。

「それで私はここへ呼ばれたというわけですか。葬儀に参列させるつもりもないくせに」

「それは、至極もっともなこととは思わないかね。君たちは」

「私生児だとおっしゃりたいんでしょう。それとも隠し子ですか。どちらにせよ、私もあなたを兄と認める気はさらさらないので、構いませんが」

恵果の容赦ない舌鋒に、比呂は冷や汗をかいた。

二の句を継ぐ暇すら与えず、さらに恵果はたたみかけた。

「それで?用件を端的におっしゃってください。これ以上、つまらないことで時間を潰されるのは不愉快です」

龍之介はむっと表情を強張らせ、比呂を見たが、比呂は肩をすくめて応じる。

「俺の手に負えるお嬢さんじゃなくってね」

「この間も部下の者から聞いただろうが、我が社は今、岐路に立たされている。
私は総裁の座につき、社内改革プロジェクトを推進しようと思っている。ついては君も、我が社専属の占星術師として、このプロジェクトに参加してほしい」

恵果はケーキを食べ終え、わざと音を鳴らしてフォークを皿に置いた。

それはさながら、戦いの始まりを告げるゴングだった。

「言いたいことはそれだけですか」

「君が参加してくれるというのなら、プロジェクトの全貌を話してもいいが、どうする?」

龍之介は熱意を持って言うが、比呂は興味なさげに頭をかいている。

「結構です。どうせろくなものじゃないでしょう」

「君が協力してくれるというのなら、君の兄も、叔母や従妹も、我が藤森グループの一員として認め、手厚く遇する準備をしている。君は社内でも高い地位を与えられる。望むなら、よい縁談も調えよう」

恵果は鼻先でせせら笑った。

「私に藤森へ戻れと?居場所を与えてやるから、せいぜい我が家の繁栄のために働けとでも言いたいんですか」

「私だってこんなことは言いたくないが、君の決断一つに、たくさんの人々の人生がかかっているんだ。
私がその気になれば、すぐにでも君を強制的に頷かせることだってできる。なぜ、それをしないと思う?」

「さあ。あなたの考えなんて分かりたくもないわ」

比呂は、恵果の瞳に苛烈な光が宿っているのを見てとった。

本当に珍しいことに――恵果は、本気で怒っているようだった。

「君自身の意志で、ここへ戻ってきてほしいからだよ。そうでなければ意味がない」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

処理中です...