132 / 138
【5】イベントチャート
132
しおりを挟む
応接間に通されると、それまで座っていた亜子が弾かれたように立ち上がり、恵果のそばへ文字どおり飛んできた。
「平気?怪我はない?」
恵果は亜子の無事を確かめ、安堵したように息をついた。
「ごめんなさい、恵果さん。私のせいで……」
たどたどしく謝る亜子を、恵果は両肩を押さえることで宥めた。
「ううん、謝りたいのは私のほう。ごめんね、巻き込んで。亜子ちゃんが無事でよかった……」
何もされなかったとはいえ、数時間監禁されたのだ。亜子には相当に怖い思いをさせてしまっただろう。
「君たちは何で言うことを聞いてくれないのかな。本当に手こずったよ」
扉の脇で静観していた比呂が、顎に手をかけたまま言った。
亜子は鬼気迫る形相で比呂を睨みつけた。
「このまま、亜子ちゃんを人質にとったまま話をするのは簡単だ。だけど」
「亜子ちゃんを無事に帰さない限り、何の話も聞く気はありません。そのために、わざわざ足を運んだのよ」
「だろうね。そう言うと思った」
比呂はにやりと笑った。
「無理やり君に占わせても、正しい結果は得られない。君の占いは、君自身が心に何のわだかまりを抱えていないことで、初めて威力を発揮するものだから」
「よく分かってるじゃない」
恵果は呆れたように言った。
「短い付き合いでも、それくらいは分かるよ。この方を丁重にお送りして」
比呂は使用人に声をかけた。
女は深く一礼すると、亜子を促して部屋を退出した。
亜子は不安げに何度も恵果を振り返ったが、恵果は笑顔で手を振り、やがて足音は遠ざかった。
「まあ、かけなよ」
比呂はくつろいだ様子で――彼の実家なのだから当然だが――黒い革張りのソファーに腰かけて給仕を受けている。
恵果は比呂の正面に着席すると、細い指で前髪をかきあげた。
「あなたが私に近づいたのは、私と親密になって、藤森に引き込めっていうお父さんの命令?」
恵果は疑問でも予測でもなく、基本事項を確認するような口調で言った。
「そう。でも、とっくに気づいてたね。もともと君が【RITZ】を見に来てくれたのは、しかも、分かりやすく何度も来てくれたのは、僕にきっかけを作ってくれたんだろ?」
恵果は否定も肯定もせず、出されたケーキにフォークを入れた。
「平気?怪我はない?」
恵果は亜子の無事を確かめ、安堵したように息をついた。
「ごめんなさい、恵果さん。私のせいで……」
たどたどしく謝る亜子を、恵果は両肩を押さえることで宥めた。
「ううん、謝りたいのは私のほう。ごめんね、巻き込んで。亜子ちゃんが無事でよかった……」
何もされなかったとはいえ、数時間監禁されたのだ。亜子には相当に怖い思いをさせてしまっただろう。
「君たちは何で言うことを聞いてくれないのかな。本当に手こずったよ」
扉の脇で静観していた比呂が、顎に手をかけたまま言った。
亜子は鬼気迫る形相で比呂を睨みつけた。
「このまま、亜子ちゃんを人質にとったまま話をするのは簡単だ。だけど」
「亜子ちゃんを無事に帰さない限り、何の話も聞く気はありません。そのために、わざわざ足を運んだのよ」
「だろうね。そう言うと思った」
比呂はにやりと笑った。
「無理やり君に占わせても、正しい結果は得られない。君の占いは、君自身が心に何のわだかまりを抱えていないことで、初めて威力を発揮するものだから」
「よく分かってるじゃない」
恵果は呆れたように言った。
「短い付き合いでも、それくらいは分かるよ。この方を丁重にお送りして」
比呂は使用人に声をかけた。
女は深く一礼すると、亜子を促して部屋を退出した。
亜子は不安げに何度も恵果を振り返ったが、恵果は笑顔で手を振り、やがて足音は遠ざかった。
「まあ、かけなよ」
比呂はくつろいだ様子で――彼の実家なのだから当然だが――黒い革張りのソファーに腰かけて給仕を受けている。
恵果は比呂の正面に着席すると、細い指で前髪をかきあげた。
「あなたが私に近づいたのは、私と親密になって、藤森に引き込めっていうお父さんの命令?」
恵果は疑問でも予測でもなく、基本事項を確認するような口調で言った。
「そう。でも、とっくに気づいてたね。もともと君が【RITZ】を見に来てくれたのは、しかも、分かりやすく何度も来てくれたのは、僕にきっかけを作ってくれたんだろ?」
恵果は否定も肯定もせず、出されたケーキにフォークを入れた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
ぞんびぃ・ぱにつく 〜アンタらは既に死んでいる〜
されど電波おやぢは妄想を騙る
SF
数週間前、無数の巨大な隕石が地球に飛来し衝突すると言った、人類史上かつてないSFさながらの大惨事が起きる。
一部のカルト信仰な人々は、神の鉄槌が下されたとかなんとかと大騒ぎするのだが……。
その大いなる厄災によって甚大な被害を受けた世界に畳み掛けるが如く、更なる未曾有の危機が世界規模で発生した!
パンデミック――感染爆発が起きたのだ!
地球上に蔓延る微生物――要は細菌が襲来した隕石によって突然変異をさせられ、生き残った人類や生物に猛威を振い、絶滅へと追いやったのだ――。
幸運と言って良いのか……突然変異した菌に耐性のある一握りの極一部。
僅かな人類や生物は生き残ることができた。
唯一、正しく生きていると呼べる人間が辛うじて存在する。
――俺だ。
だがしかし、助かる見込みは万に一つも絶対にないと言える――絶望的な状況。
世紀末、或いは暗黒世界――デイストピアさながらの様相と化したこの過酷な世界で、俺は終わりを迎えるその日が来るまで、今日もしがなく生き抜いていく――。
生ける屍と化した、愉快なゾンビらと共に――。
ゆかりさんとわたし
謎の人
キャラ文芸
ゆかりさんはわたしの一番の友達で、古風な家に住まう幽霊です。
生まれつき重度の病人だった彼女が幽霊として再びわたしの前に現れてから早三年。この奇妙な関係にも慣れてきました。
当然学校に通うこともできず、日長一日ひとり寂しく広くて古い家の縁側に腰掛け、雲など眺めるゆかりさん。
そんな姿を思い浮かべる時、わたしはとても切なくなります。放っておくことはできません。
だからわたしは可能な限りの時間を使ってゆかりさんと遊ぶことにしました。少しでもいい、彼女の心労が和らいでくれることを願って。
ゆかりさんのためにわたしはいつもお話を持っていきます。それは日常のちょっとしたこと。
奇妙だったり、不思議だったり、不気味だったり、良く分からなかったりする。そんなお話を。
*「小説家になろう」にも投稿しています。
https://ncode.syosetu.com/n4636fe/
神とゲームと青春を!~高校生プロゲーマー四人が神様に誘拐されて謎解きする~
初心なグミ@最強カップル連載中
キャラ文芸
高校生プロゲーマー四人は、幼馴染でありながら両想いの男女二組である。そんな四人は神様に誘拐され、謎解きをさせられることになった。 一つ、干支の謎。二つ、殺人事件の謎。四人は無事、謎解きをクリアすることが出来るのだろうか。
※コメントと評価はモチベーションになりますので、どうかお願いします。気軽にコメントをくださると、作者はとても喜んで死にます。
〇コミックノヴァ編集部様、コミコ熱帯部様より注目作品に認定されました!!
ーーー
変わらない日々を送っていた俺達は、皆でフルダイブ型VRの謎解きゲーをしようとした。しかし、普通にオープニングを進んでいたゲームは突如バグりだし、暗転する。暗転の末で強い光に目をやられた俺達の目の前には、可愛らしい容貌の神様が居た。その神様の目的は、四人を自分の暇つぶしに付き合わせること。最初こそ警戒していた四人だったが、同じ時を過ごす内に友情も芽生え、かけがえの無い存在になっていく。
ぐるりぐるりと
安田 景壹
キャラ文芸
あの日、親友と幽霊を見た。それが、全ての始まりだった。
高校二年生の穂結煌津は失意を抱えたまま、友の故郷である宮瑠璃市に越して来た。
煌津は宮瑠璃駅前に遺棄された捩じれた死体を目にした事で、邪悪な感情に囚われる。心が暴走するまま悪を為そうとした煌津の前に銀髪の少女が現れ、彼を邪気から解放する。
だが、この日から煌津は、宮瑠璃市に蠢く邪悪な霊との戦いに巻き込まれていく――……
【完結】失くし物屋の付喪神たち 京都に集う「物」の想い
ヲダツバサ
キャラ文芸
「これは、私達だけの秘密ね」
京都の料亭を継ぐ予定の兄を支えるため、召使いのように尽くしていた少女、こがね。
兄や家族にこき使われ、言いなりになって働く毎日だった。
しかし、青年の姿をした日本刀の付喪神「美雲丸」との出会いで全てが変わり始める。
女の子の姿をした招き猫の付喪神。
京都弁で喋る深鍋の付喪神。
神秘的な女性の姿をした提灯の付喪神。
彼らと、失くし物と持ち主を合わせるための店「失くし物屋」を通して、こがねは大切なものを見つける。
●不安や恐怖で思っている事をハッキリ言えない女の子が成長していく物語です。
●自分の持ち物にも付喪神が宿っているのかも…と想像しながら楽しんでください。
2024.03.12 完結しました。
雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う
ちゃっぷ
キャラ文芸
多少嫁ぎ遅れてはいるものの、宰相をしている父親のもとで平和に暮らしていた女性。
煌(ファン)国の皇帝は大変な女好きで、政治は宰相と皇弟に丸投げして後宮に入り浸り、お気に入りの側妃/上級妃たちに囲まれて過ごしていたが……彼女には関係ないこと。
そう思っていたのに父親から「皇帝に上級妃を排除したいと相談された。お前に後宮に入って邪魔者を排除してもらいたい」と頼まれる。
彼女は『上級妃を排除した後の後宮を自分にくれること』を条件に、雇われ側妃として後宮に入る。
そして、皇帝から自分を楽しませる女/遊姫(ヨウチェン)という名を与えられる。
しかし突然上級妃として後宮に入る遊姫のことを上級妃たちが良く思うはずもなく、彼女に幼稚な嫌がらせをしてきた。
自分を害する人間が大嫌いで、やられたらやり返す主義の遊姫は……必ず邪魔者を惨めに、後宮から追放することを決意する。
【完結済】病弱な姉に婚約者を寝取られたので、我慢するのをやめる事にしました。
夜乃トバリ
恋愛
シシュリカ・レーンには姉がいる。儚げで美しい姉――病弱で、家族に愛される姉、使用人に慕われる聖女のような姉がいる――。
優しい優しいエウリカは、私が家族に可愛がられそうになるとすぐに体調を崩す。
今までは、気のせいだと思っていた。あんな場面を見るまでは……。
※他の作品と書き方が違います※
『メリヌの結末』と言う、おまけの話(補足)を追加しました。この後、当日中に『レウリオ』を投稿予定です。一時的に完結から外れますが、本日中に完結設定に戻します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる