130 / 138
【5】イベントチャート
130
しおりを挟む
沈黙した律を見て、恵果は照れたように付け足した。
「ごめんね。おかしなこと言ってるね、私」
恵果が言いたいのは、物理的にこの場所を守るだけではないということだけは、かろうじて分かった。
だが、いきなり出てきた『藤森』という単語も、なぜ今になって急に恵果がこんな頼みごとをするのかも、律には見当もつかなかった。
だから、こう言った。
「いいよ」
腕を伸ばし、恵果の首の後ろに手を当て、そのまま引き寄せる。
「任せときな」
律は、自分の肩に恵果の頭を押しつける。
それは、男女の色事めいたものとは無縁の抱擁だった。
まるで兄が泣き出した妹を慰めてやるような、暖かいものだった。
恵果は息を呑むと、おそるおそる律の背中に手を回した。
うまく説明することさえできない『お願い』を、律はいともあっさりと了承してくれた。
それでいい。それだけでいい。
自分を利用しようとしない唯一の存在がここにいてくれているだけで――また、歩いていくことができる。
どこまでも遠く、果てしない道の先へ。
「ごめんね。おかしなこと言ってるね、私」
恵果が言いたいのは、物理的にこの場所を守るだけではないということだけは、かろうじて分かった。
だが、いきなり出てきた『藤森』という単語も、なぜ今になって急に恵果がこんな頼みごとをするのかも、律には見当もつかなかった。
だから、こう言った。
「いいよ」
腕を伸ばし、恵果の首の後ろに手を当て、そのまま引き寄せる。
「任せときな」
律は、自分の肩に恵果の頭を押しつける。
それは、男女の色事めいたものとは無縁の抱擁だった。
まるで兄が泣き出した妹を慰めてやるような、暖かいものだった。
恵果は息を呑むと、おそるおそる律の背中に手を回した。
うまく説明することさえできない『お願い』を、律はいともあっさりと了承してくれた。
それでいい。それだけでいい。
自分を利用しようとしない唯一の存在がここにいてくれているだけで――また、歩いていくことができる。
どこまでも遠く、果てしない道の先へ。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説


ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。



AV研は今日もハレンチ
楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo?
AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて――
薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!
パーフェクトアンドロイド
ことは
キャラ文芸
アンドロイドが通うレアリティ学園。この学園の生徒たちは、インフィニティブレイン社の実験的試みによって開発されたアンドロイドだ。
だが俺、伏木真人(ふしぎまひと)は、この学園のアンドロイドたちとは決定的に違う。
俺はインフィニティブレイン社との契約で、モニターとしてこの学園に入学した。他の生徒たちを観察し、定期的に校長に報告することになっている。
レアリティ学園の新入生は100名。
そのうちアンドロイドは99名。
つまり俺は、生身の人間だ。
▶︎credit
表紙イラスト おーい
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる