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【5】イベントチャート
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沈黙した律を見て、恵果は照れたように付け足した。
「ごめんね。おかしなこと言ってるね、私」
恵果が言いたいのは、物理的にこの場所を守るだけではないということだけは、かろうじて分かった。
だが、いきなり出てきた『藤森』という単語も、なぜ今になって急に恵果がこんな頼みごとをするのかも、律には見当もつかなかった。
だから、こう言った。
「いいよ」
腕を伸ばし、恵果の首の後ろに手を当て、そのまま引き寄せる。
「任せときな」
律は、自分の肩に恵果の頭を押しつける。
それは、男女の色事めいたものとは無縁の抱擁だった。
まるで兄が泣き出した妹を慰めてやるような、暖かいものだった。
恵果は息を呑むと、おそるおそる律の背中に手を回した。
うまく説明することさえできない『お願い』を、律はいともあっさりと了承してくれた。
それでいい。それだけでいい。
自分を利用しようとしない唯一の存在がここにいてくれているだけで――また、歩いていくことができる。
どこまでも遠く、果てしない道の先へ。
「ごめんね。おかしなこと言ってるね、私」
恵果が言いたいのは、物理的にこの場所を守るだけではないということだけは、かろうじて分かった。
だが、いきなり出てきた『藤森』という単語も、なぜ今になって急に恵果がこんな頼みごとをするのかも、律には見当もつかなかった。
だから、こう言った。
「いいよ」
腕を伸ばし、恵果の首の後ろに手を当て、そのまま引き寄せる。
「任せときな」
律は、自分の肩に恵果の頭を押しつける。
それは、男女の色事めいたものとは無縁の抱擁だった。
まるで兄が泣き出した妹を慰めてやるような、暖かいものだった。
恵果は息を呑むと、おそるおそる律の背中に手を回した。
うまく説明することさえできない『お願い』を、律はいともあっさりと了承してくれた。
それでいい。それだけでいい。
自分を利用しようとしない唯一の存在がここにいてくれているだけで――また、歩いていくことができる。
どこまでも遠く、果てしない道の先へ。
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