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【4】トランジット
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さすがに険悪な空気を感じ取ったのか、律が比呂に耳打ちした。
「なあ。お前、亜子に何か怒らせるようなことしたのか?」
亜子は普段気弱でめったに怒らないが、その分、一度怒ると手がつけられない。
「してないつもりなんだけどな。そもそも、あのとき以来会ってないし」
「だよなあ」
「何こそこそ話してるんですか、りっちゃん」
亜子は半眼になって律を睨んだ。
「恵果ちゃんなら、今日の依頼人は政治家だよ。大沢巳喜男」
そのとき、あどけない声が三人の会話に割り込んだ。
「加奈子!」
店主の叱責が飛び、加奈子と呼ばれた少女は首を縮めた。
「あの、あなたは?」
同じく首をすくめていた亜子が、おずおずと尋ねた。
「私?恵果ちゃんの従妹だよ。山瀬加奈子」
加奈子は堂々と胸を張ると、声を低めた。
「今の話、喋らないでね。守秘義務?ってやつがあるらしいから。でもお母さん心配性だから、『出前』のときは恵果ちゃん、相手の名前と住所をきちんと書いていくの。
あなたたち、恵果ちゃんの友達だから、教えてあげようと思って」
律は愕然とした。
「大沢って……あの大沢巳喜男か?内閣官房長官の?」
「そうだよ」
一般家庭に生まれ育ち、政治的手腕でし上がった、次期総理大臣とも噂される大人物である。
加奈子が得意げに自慢したくなる気持ちも分かる。
「加奈子、部屋に戻ってなさい。店の邪魔をしないって何度も言ってるでしょ」
「はあい」
加奈子がその場から立ち去っても、三人はしばらく無言のままだった。
「なあ。お前、亜子に何か怒らせるようなことしたのか?」
亜子は普段気弱でめったに怒らないが、その分、一度怒ると手がつけられない。
「してないつもりなんだけどな。そもそも、あのとき以来会ってないし」
「だよなあ」
「何こそこそ話してるんですか、りっちゃん」
亜子は半眼になって律を睨んだ。
「恵果ちゃんなら、今日の依頼人は政治家だよ。大沢巳喜男」
そのとき、あどけない声が三人の会話に割り込んだ。
「加奈子!」
店主の叱責が飛び、加奈子と呼ばれた少女は首を縮めた。
「あの、あなたは?」
同じく首をすくめていた亜子が、おずおずと尋ねた。
「私?恵果ちゃんの従妹だよ。山瀬加奈子」
加奈子は堂々と胸を張ると、声を低めた。
「今の話、喋らないでね。守秘義務?ってやつがあるらしいから。でもお母さん心配性だから、『出前』のときは恵果ちゃん、相手の名前と住所をきちんと書いていくの。
あなたたち、恵果ちゃんの友達だから、教えてあげようと思って」
律は愕然とした。
「大沢って……あの大沢巳喜男か?内閣官房長官の?」
「そうだよ」
一般家庭に生まれ育ち、政治的手腕でし上がった、次期総理大臣とも噂される大人物である。
加奈子が得意げに自慢したくなる気持ちも分かる。
「加奈子、部屋に戻ってなさい。店の邪魔をしないって何度も言ってるでしょ」
「はあい」
加奈子がその場から立ち去っても、三人はしばらく無言のままだった。
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