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【2】リロケーション
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泣き声がやんだところを見計らって、律は再び会話の糸口をつかもうとした。
「どうした?」
亜子は呆れるくらい長い時間沈黙した後、手の甲で涙を拭った。
「実は……相談、したくて」
「俺に?なら、家に来たらいいのに。電話するとか」
律の家は亜子の家のはす向かいにある。
「電話では、ちょっと。それで、何度か家に行ったんだけど、いなくて……男の人の家、何回も行くのは……口実がいるから」
「あー……お前の高校、そういうのも駄目なんだ」
亜子が通っているのは由緒正しい名門女子校で、卒業まで一切男性との不純異性交遊(死語)をさせず、純粋培養のお嬢様を作り出すことをモットーとしている。今日び珍しい、一昔前の女子高だ。
制服や礼儀作法、言葉遣いや髪型はもちろん、休日の過ごし方までもが指導の対象となる。
仮に律が女だったとしても、絶対入りたくない学校だ。
ここ最近、律はずっと比呂のマンションに明け方まで入り浸っていたため、確かに亜子との接触の機会はなかった。
―――まあ、意図的に亜子を避けていたことも原因ではあるが。
「待ってたら、通りかかるんじゃないかと思って」
「あのなあ……それなら声かけろよ」
律はうんざりしたように額に手を当て、髪をかきあげた。
「うん……でも」
亜子は口をつぐんだ。
「電話するとかさあ……お前、昔っから考えなしなんだよな」
不機嫌そうな律に、亜子は目を伏せる。
そのとき、右手首に指の形がくっきりとついているのが見えた。
律につかまれた痕だと気づいて、反射的に左手で隠す。
軽く痛みを感じ、思わず顔をしかめた。
「どうした?」
亜子は呆れるくらい長い時間沈黙した後、手の甲で涙を拭った。
「実は……相談、したくて」
「俺に?なら、家に来たらいいのに。電話するとか」
律の家は亜子の家のはす向かいにある。
「電話では、ちょっと。それで、何度か家に行ったんだけど、いなくて……男の人の家、何回も行くのは……口実がいるから」
「あー……お前の高校、そういうのも駄目なんだ」
亜子が通っているのは由緒正しい名門女子校で、卒業まで一切男性との不純異性交遊(死語)をさせず、純粋培養のお嬢様を作り出すことをモットーとしている。今日び珍しい、一昔前の女子高だ。
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―――まあ、意図的に亜子を避けていたことも原因ではあるが。
「待ってたら、通りかかるんじゃないかと思って」
「あのなあ……それなら声かけろよ」
律はうんざりしたように額に手を当て、髪をかきあげた。
「うん……でも」
亜子は口をつぐんだ。
「電話するとかさあ……お前、昔っから考えなしなんだよな」
不機嫌そうな律に、亜子は目を伏せる。
そのとき、右手首に指の形がくっきりとついているのが見えた。
律につかまれた痕だと気づいて、反射的に左手で隠す。
軽く痛みを感じ、思わず顔をしかめた。
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