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【2】リロケーション
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律はなぜか安堵している自分に気づいた。
「疲れたろ。平気か?」
「お優しいのね。ありがとう。肩なぞ揉んでくださってもよろしくてよ」
ほほほ、と恵果はソファーに陣取り、仮想の扇子をあおいでいる。
律は少しでも彼女を畏怖した自分が浅はかだったと痛感した。
「それ、ホロスコープって言うんだってね。今はアプリとかソフトで作成できるんじゃなかったっけ?」
うたた寝をしていた比呂が起き上がって伸びをし、気だるげに尋ねた。
「よく知ってるのね、比呂。パソコンでもできないことはないんだけどね。私は手書き派かな」
「で、どうだった?」
尋ねたのは律ではなく比呂だった。恵果はつと視線をホロスコープに落とす。
「……うーん。危険は迫ってないと思う。今のところは」
「俺のこと尾行してる奴は誰か分かった?」
「分かったよ。でも、言わないほうがいいと思う」
あっさりと返されて、律は驚いた。駄目もとで聞いてみたのに。
「そんな細かいことまで分かるのか」
「まあね。でも、そこは重要じゃないの。だから内緒ね」
「しばらくやめるか?ストリートライブ」
比呂が唐突に言って、律はぎょっとした。恵果も目を丸くしている。
「何でだよ。俺がびびってるって思ってるのか?」
律は明らかに鼻白んだ顔で切り返した。恵果がとりなすように二人の間に割って入る。
「分かんないかな?比呂はりっちゃんを心配してるんだよ」
比呂は何も答えない。こういう時の比呂の表情は、誰も読むことができない。
「俺は嫌だからな」
「なら、いいさ。分かった」
そう言って、煙草の火をつける。
あっさりと引き下がった比呂を見て、律はきまりの悪そうな顔をした。
「疲れたろ。平気か?」
「お優しいのね。ありがとう。肩なぞ揉んでくださってもよろしくてよ」
ほほほ、と恵果はソファーに陣取り、仮想の扇子をあおいでいる。
律は少しでも彼女を畏怖した自分が浅はかだったと痛感した。
「それ、ホロスコープって言うんだってね。今はアプリとかソフトで作成できるんじゃなかったっけ?」
うたた寝をしていた比呂が起き上がって伸びをし、気だるげに尋ねた。
「よく知ってるのね、比呂。パソコンでもできないことはないんだけどね。私は手書き派かな」
「で、どうだった?」
尋ねたのは律ではなく比呂だった。恵果はつと視線をホロスコープに落とす。
「……うーん。危険は迫ってないと思う。今のところは」
「俺のこと尾行してる奴は誰か分かった?」
「分かったよ。でも、言わないほうがいいと思う」
あっさりと返されて、律は驚いた。駄目もとで聞いてみたのに。
「そんな細かいことまで分かるのか」
「まあね。でも、そこは重要じゃないの。だから内緒ね」
「しばらくやめるか?ストリートライブ」
比呂が唐突に言って、律はぎょっとした。恵果も目を丸くしている。
「何でだよ。俺がびびってるって思ってるのか?」
律は明らかに鼻白んだ顔で切り返した。恵果がとりなすように二人の間に割って入る。
「分かんないかな?比呂はりっちゃんを心配してるんだよ」
比呂は何も答えない。こういう時の比呂の表情は、誰も読むことができない。
「俺は嫌だからな」
「なら、いいさ。分かった」
そう言って、煙草の火をつける。
あっさりと引き下がった比呂を見て、律はきまりの悪そうな顔をした。
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