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【1】ハーモニクス アストロジー
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しおりを挟む「美蘭が?」
それから数時間後、恵果は比呂のマンションを一人訪れていた。
相変わらずのゴミ屋敷を掃除し、簡単な食べ物を作り、風呂を沸かしてかいがいしく主婦業に勤しんだ。
ひと段落ついて比呂の淹れたコーヒーを飲みながら、ソファーに並んで座る。
「二つくらい向こうの駅のそばに、小さな劇場があってね。そこの劇団に入るらしいよ」
もちろん、素性は包み隠さず話すつもりだという。
白い目で見られることも、相手にされないことも覚悟の上だ。
「もう一度、一からやり直したいんだって」
「へえ……」
比呂は感慨深げに遠い目をした。
「あいつが素直に恵果の占いに従うとはねえ」
「うーん。最初からそうしてくれれば、こっちも助かったんだけどね」
恵果は苦笑し、またコーヒーに口をつけながら、ぼんやり思った。
この部屋は、二人で過ごすには広すぎる。
掃除を終えると、殺風景というより、いっそ寒々しい気すらする。
「しばらく、ここには来ないって。比呂にそう伝えてって」
恵果は壊れ物を扱うかのようにそっと、話の核心に触れた。
伺うようにちらりと横目で見たが、比呂は別段驚いているようにも悲しんでいるようにも見えなかった。
ただ小さく笑って、「そうか」と呟いただけだった。
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