女子高生占い師の事件簿

【１】ハーモニクス アストロジー

33

尾行されている。

美蘭は冷静にそう判断した。

素人の下手な尾行ではない。芸能レポーターやパパラッチの類であろう、実に堂に入った追跡だ。

ただ、理由が分からない。

自分を尾行しても、得られるものは何もない。スクープできるネタなど、今はないに等しい。

相手は一人。巻くのは容易だ。

美蘭が気配を消して走り出そうとしたとき、前から人影がぬっと現れた。

「やあ、こんにちは」

中肉中背の中年だ。へらへらと軽薄な笑顔を浮かべている。

薬物中毒者特有の鼻につく匂いがして、美蘭は顔をしかめた。

「怪しいものじゃないよ」

怪しさ抜群の態度で、相手は名刺を差し出した。背後に回ってさりげなく美蘭の退路を断つ。

ここはまずい、と美蘭は思った。狭い路地裏、前にはゴミ箱と行き止まり、後には男。

――今後しばらく一人で街を歩くのはやめてください。

二日酔いでがんがんする頭に、恵果の言葉がおぼろげに蘇った。苦笑が浮かぶ。

それを好意的なものと勘違いしたのか、男はますます体をすり寄せてきた。

「僕、こういうものなんだけど」

体を離しつつ仕方なく受け取った名刺には、フリーカメラマンの渡瀬という苗字、そして上に名ばかりの事務所が記してあった。

「僕は仲間と一緒にいろいろなビデオを作ったりしているんだけど。君、美人だから、どうかな？一度」

「要らない」

美蘭はすげなく却下して、名刺から手を離した。ひらりと地面に白い紙片が落ちる。

「そんな事言わないでさぁ～、ビデオ出ようよ？楽しいよ？お金も君なら月百万単位で稼げるよ？」

悔しさに息が詰まりそうだった。

これが、有吉美蘭のなれの果て。

仕事がなく、酒を飲むばかりの暮らし、あげくの果てにＡＶ女優に転向するしか道がなくなっている。