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エピローグ・2
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草に溜まった夜露が、光を浴びて銀色に輝いている。
聖が一歩ずつ踏み分けて歩くと、碧色の絨毯の上をいくつもの透明な宝石が転がるようだった。
柔らかな草いきれと、森の冴えた清涼な大気がそこらじゅうに満ちている。
歩いているだけで身体の中から浄化されそうだった。
聖はささやかな花束を手に、一人で物も言わず黙々と山道を登る。
梢から見上げた太陽は高く南天している。もうすぐ、一日のうちで一番暑い時間帯がやってくる。
また、この季節が巡ってきた。自分がヴァンと出逢った季節が。
高校三年生になった聖は、ヴァンと過ごした短くも濃厚な時間を思い出していた。
毎日のように彼のことを思い出しては、記憶の中の面影が薄れていきはしないかという恐怖に駆られる。
忘れてしまいたいと思ったことなどなかった。
胸の痛みも、狂おしいほどの思いも含めて、全てを宝物のように胸に仕舞っておきたかった。
今もこうして、予備校や学校の合間を縫って、時間がある限り聖は祠に向かう。
ヴァンが静かに眠る、あの祠に。
(本当にあそこに、ヴァンの身体があるんだろうか)
祠は幾十もの鍵に堅牢に護られ、護符やお札が張り巡らされている。
いつも鳥居の場所からそこを眺めるのだが、とても解呪できそうになかった。
(そんなことをしたら、遥さんに恨まれそうだな)
聖は内心思ってため息をつく。
それでもいい、物言わぬ躯でもいいから会いたいとさえ一瞬思ってしまった自分に、激しく嫌気が差す。
すぐに血迷ってしまおうとする、弱い心に。
花を手向けるのは、半ば名目となっていた。
自分のせいで死んでしまった彼の魂を弔い、少しでも罪滅ぼしをするというための。
本当は彼を忘れられなくて、どうにかなってしまいそうで、そんな自分を少しでも慰めようとしての来訪なのだけれど。
(もう一度逢いたいんだ……ヴァン)
ささやかな山道を登りきると、いつものように開かれた場所に出た。
燦々と降り注ぐ日光に照らされ、小さな祠がひっそりと佇んでいる。
はずだった。
「祠が……」
いつもと違う祠の様子に、聖は棒立ちになった。
その祠は、白く輝いていた。
まぶしい光が内部から漏れ出し、輪郭を縁取っている。
心臓が大きくどきん、と高鳴った。
狂ったように早鐘を打つ鼓動を鎮めようと、聖が胸を押さえたそのとき、
「……!」
聖の耳は、かすかだが確かに声を聞いた。自分の名前を懐かしく呼ぶその声を。
目がいっぱいに見開かれる。足がわななき、心は予感に震えている。
燃えさかるように熱くなった頭の奥で、聖は感情の奔流が襲いかかってくるのを感じて立ち尽くした。
祠の白い光は、まるで聖を手招きするように優しく誘っている。
聖はごくりと唾を飲み込むと、決然とした面持ちで祠へと一歩踏み出した。
【終わり】
聖が一歩ずつ踏み分けて歩くと、碧色の絨毯の上をいくつもの透明な宝石が転がるようだった。
柔らかな草いきれと、森の冴えた清涼な大気がそこらじゅうに満ちている。
歩いているだけで身体の中から浄化されそうだった。
聖はささやかな花束を手に、一人で物も言わず黙々と山道を登る。
梢から見上げた太陽は高く南天している。もうすぐ、一日のうちで一番暑い時間帯がやってくる。
また、この季節が巡ってきた。自分がヴァンと出逢った季節が。
高校三年生になった聖は、ヴァンと過ごした短くも濃厚な時間を思い出していた。
毎日のように彼のことを思い出しては、記憶の中の面影が薄れていきはしないかという恐怖に駆られる。
忘れてしまいたいと思ったことなどなかった。
胸の痛みも、狂おしいほどの思いも含めて、全てを宝物のように胸に仕舞っておきたかった。
今もこうして、予備校や学校の合間を縫って、時間がある限り聖は祠に向かう。
ヴァンが静かに眠る、あの祠に。
(本当にあそこに、ヴァンの身体があるんだろうか)
祠は幾十もの鍵に堅牢に護られ、護符やお札が張り巡らされている。
いつも鳥居の場所からそこを眺めるのだが、とても解呪できそうになかった。
(そんなことをしたら、遥さんに恨まれそうだな)
聖は内心思ってため息をつく。
それでもいい、物言わぬ躯でもいいから会いたいとさえ一瞬思ってしまった自分に、激しく嫌気が差す。
すぐに血迷ってしまおうとする、弱い心に。
花を手向けるのは、半ば名目となっていた。
自分のせいで死んでしまった彼の魂を弔い、少しでも罪滅ぼしをするというための。
本当は彼を忘れられなくて、どうにかなってしまいそうで、そんな自分を少しでも慰めようとしての来訪なのだけれど。
(もう一度逢いたいんだ……ヴァン)
ささやかな山道を登りきると、いつものように開かれた場所に出た。
燦々と降り注ぐ日光に照らされ、小さな祠がひっそりと佇んでいる。
はずだった。
「祠が……」
いつもと違う祠の様子に、聖は棒立ちになった。
その祠は、白く輝いていた。
まぶしい光が内部から漏れ出し、輪郭を縁取っている。
心臓が大きくどきん、と高鳴った。
狂ったように早鐘を打つ鼓動を鎮めようと、聖が胸を押さえたそのとき、
「……!」
聖の耳は、かすかだが確かに声を聞いた。自分の名前を懐かしく呼ぶその声を。
目がいっぱいに見開かれる。足がわななき、心は予感に震えている。
燃えさかるように熱くなった頭の奥で、聖は感情の奔流が襲いかかってくるのを感じて立ち尽くした。
祠の白い光は、まるで聖を手招きするように優しく誘っている。
聖はごくりと唾を飲み込むと、決然とした面持ちで祠へと一歩踏み出した。
【終わり】
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