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「それにしても驚いたな。やはり楠木の血は尋常ではないらしい。僕が力を分散して綻びができていたとはいえ、結界を簡単に破って、呪符のこもった数珠さえ破壊してしまうんだから。あいつが君の血を欲しがるのも頷ける」
優しい遥の言葉は、なぜか聖の心の深奥を抉った。
(血。そうか……そうだよな)
ヴァンは特別な力をもった聖の血が欲しいのだ。自分そのものを欲しているわけではない。
(なんか変だ。何でそんなこと考えてるんだろう、俺は)
遥はそんな聖を冷静に眺めると、穏やかだがはっきりと釘を刺した。
「あいつの目的は、君の血から力を得て完全な復活を遂げることだ。今は祠から漏れ出した霊体の一部が実体化しているにすぎないけれど、復活すれば奴はその凶悪な力でまた見境なく人を襲うだろう」
「人を……」
そうなれば、自分以外にも苦しむ人が生まれる。
力の一部でさえこんなに苦労するのだ、復活を遂げたヴァンを相手にすれば、遥でさえ太刀打ちできなくなるかもしれなかった。
どうやら自分は、考えなしにとんでもない魔物を野に放ってしまったらしい。
「俺、あいつのことを逃がしてしまったんですよね。あいつは今、どこにいるんでしょう」
遥は目元をかすかに険しくして、
「さあね。今は身を隠して力を回復するのに専念しているのかもしれないな。だけど消えたわけではない以上、必ず君のもとに現れるだろう。君の血こそが、彼を復活させるための鍵なのだから」
聖は拳を握り締めた。
(だけど……だけど俺は)
「僕は許せない。聖君の優しさにつけ込むあいつが。今度は必ず、この手で息の根を止めてみせる」
聖は憂いを帯びた顔でうつむいた。
そこに浮かぶ不安定な影を見つめ、遥はすうっと目を細めた。
両手を包み込むように握りしめられ、真っすぐに見つめられて聖はうろたえる。
「ねえ、聖君。君は解放されたい?それとも、ずっとこのまま、奴に思うがままにされることを望んでいるのかな?」
「……それは」
「ん?」
優しく言って覗き込まれる。
誘導されていると感じながらも、聖は屈するほかはなかった。
「解放されたいです。けど、」
「なら僕を信じて任せて欲しい。君にとっても、きっと悪いようにはならないはずだよ」
(……本当にそうなんだろうか)
聖は心の中で呟く。
遥は優しく聡明で、言っていることも常識があって的を得ている。
ずっと不安に思っていた謎の答えを、親身になって答えてくれた。
感謝しているし、憧れにも似た気持ちを抱いている。
(だけど)
そんなこととは別の次元で、胸の奥のざわつきが鳴り止まなかった。
ヴァンの水晶のように冷たく美しい面影が、強烈な印象が、奇抜な行動が、怒涛のように頭の中をよぎっていく。
振り払っても振り払っても、どうしても消えてくれそうになかった。
いつの間にかとっぷりと暮れた宵闇を見つめ、聖はそっと長い睫毛を伏せた。
(あいつが消える……それで俺は、解放されるんだろうか)
優しい遥の言葉は、なぜか聖の心の深奥を抉った。
(血。そうか……そうだよな)
ヴァンは特別な力をもった聖の血が欲しいのだ。自分そのものを欲しているわけではない。
(なんか変だ。何でそんなこと考えてるんだろう、俺は)
遥はそんな聖を冷静に眺めると、穏やかだがはっきりと釘を刺した。
「あいつの目的は、君の血から力を得て完全な復活を遂げることだ。今は祠から漏れ出した霊体の一部が実体化しているにすぎないけれど、復活すれば奴はその凶悪な力でまた見境なく人を襲うだろう」
「人を……」
そうなれば、自分以外にも苦しむ人が生まれる。
力の一部でさえこんなに苦労するのだ、復活を遂げたヴァンを相手にすれば、遥でさえ太刀打ちできなくなるかもしれなかった。
どうやら自分は、考えなしにとんでもない魔物を野に放ってしまったらしい。
「俺、あいつのことを逃がしてしまったんですよね。あいつは今、どこにいるんでしょう」
遥は目元をかすかに険しくして、
「さあね。今は身を隠して力を回復するのに専念しているのかもしれないな。だけど消えたわけではない以上、必ず君のもとに現れるだろう。君の血こそが、彼を復活させるための鍵なのだから」
聖は拳を握り締めた。
(だけど……だけど俺は)
「僕は許せない。聖君の優しさにつけ込むあいつが。今度は必ず、この手で息の根を止めてみせる」
聖は憂いを帯びた顔でうつむいた。
そこに浮かぶ不安定な影を見つめ、遥はすうっと目を細めた。
両手を包み込むように握りしめられ、真っすぐに見つめられて聖はうろたえる。
「ねえ、聖君。君は解放されたい?それとも、ずっとこのまま、奴に思うがままにされることを望んでいるのかな?」
「……それは」
「ん?」
優しく言って覗き込まれる。
誘導されていると感じながらも、聖は屈するほかはなかった。
「解放されたいです。けど、」
「なら僕を信じて任せて欲しい。君にとっても、きっと悪いようにはならないはずだよ」
(……本当にそうなんだろうか)
聖は心の中で呟く。
遥は優しく聡明で、言っていることも常識があって的を得ている。
ずっと不安に思っていた謎の答えを、親身になって答えてくれた。
感謝しているし、憧れにも似た気持ちを抱いている。
(だけど)
そんなこととは別の次元で、胸の奥のざわつきが鳴り止まなかった。
ヴァンの水晶のように冷たく美しい面影が、強烈な印象が、奇抜な行動が、怒涛のように頭の中をよぎっていく。
振り払っても振り払っても、どうしても消えてくれそうになかった。
いつの間にかとっぷりと暮れた宵闇を見つめ、聖はそっと長い睫毛を伏せた。
(あいつが消える……それで俺は、解放されるんだろうか)
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