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「そうか……やはり君が祠の封印を解いてしまったんだね」
遥は抑揚のない口調で言った。
聖はびくりと反応する。
「あの……すいません。俺、あそこに祠があるのは知ってたけど、何かが封印されているなんて知らなくて……あのときも、気がついたら足がそっちに向かっていたんです」
半ば泣きそうになりながら必死で訴える聖の肩をたたき、遥は慰めるように言った。
「大丈夫だよ。君のせいじゃない。あの日は、たまたま祠の封印が最も弱まる夜だったんだ。吸血鬼は、月の満ち欠けによって力が増減するんだよ」
目を白黒させている聖に、遥はさらに意味深い言葉を重ねる。
「君はあの男の力に引き寄せられて、祠までやってきてしまったんだ。血の契約を結んだ相手には、そういうことができるんだね」
「あの、遥さん。その血の契約というのは何ですか?ヴァンも言っていました。二百年前から約束していたことだとか。
それにさっき、あなたは『はじめまして』と言ったのに、『再会』とも言った。どちらが本当で、どちらが嘘なんですか?」
矢継ぎ早に繰り広げられる質問に、遥は両手を広げて鷹揚に笑う。
「まあまあ。そう急き込まなくても大丈夫だよ。混乱している気持ちはよく分かるけどね」
と言って、遥は緑茶を飲み干し、しばしの間、何かを思い出すような遠い目をする。
それから視線を聖に転じ、真摯な面持ちで切り出した。
「君は当事者の一人だし、これからのためにも知っておく必要があるだろう。僕でよければ、話してあげるよ。あの吸血鬼と、月代の家と、そして君の先祖にまつわる因縁の物語を」
不意をつかれて、聖は思わず「え」と声をあげた。
人差し指で自分を指して、
「俺の?」
遥はにこっと笑って、
「そう、君の。先祖というより、生まれ変わりと言ったほうが正しいかもしれないな。ともかく二百年前、僕らの先祖とあの男は邂逅を果たしている。あの吸血鬼が愛し、喉から手が出るほど欲した、凄まじい力を秘めた血をもつ存在……それが君の先祖にあたる女性、楠木栞だ」
そう言って、遥は自分の言葉が聖にもたらした影響と効果を注意深く観察する。
聖はそんなことにも気づかず、思いきり動揺した。嵐に惑い揺さぶられる小舟のように。
「俺の祖先が、あいつを?じゃあ、あいつは本当に二百年前から生きているんですか?」
話半分に聞いていたことを改めて裏づけられて、聖は驚愕した。
「生きていた、と言うべきだろうね。あいつは一度、僕の祖先である月代彼方の手によって、あの祠に封印されたから」
不明瞭だった話がだんだん見えてくる。聖は重ねて問いかけた。
「遥さんの先祖の方は除霊師だったんですか?」
「そのときは霊媒師と名乗っていたそうだよ。まあ名称はどうあれ、人ならざる物を調伏することで生計を立てていたわけだね。
吸血鬼は人外の存在だが、人の目に映らないわけじゃない。見た目は人間とそう変わらないから、人の世界に紛れ込んだ彼らは、まさにやりたい放題だった。
あのヴァンという男も、西洋から良い血を求めて極東へ渡ってきた吸血鬼の一人だった。
そんな連中から人を守るために、僕の祖先は修行をして得た力をもって戦っていたんだ」
二百年前。元号で言うと江戸時代か。
自分や遥の先祖も、生きていたというヴァンも、全く想像がつかなかった。
遥は抑揚のない口調で言った。
聖はびくりと反応する。
「あの……すいません。俺、あそこに祠があるのは知ってたけど、何かが封印されているなんて知らなくて……あのときも、気がついたら足がそっちに向かっていたんです」
半ば泣きそうになりながら必死で訴える聖の肩をたたき、遥は慰めるように言った。
「大丈夫だよ。君のせいじゃない。あの日は、たまたま祠の封印が最も弱まる夜だったんだ。吸血鬼は、月の満ち欠けによって力が増減するんだよ」
目を白黒させている聖に、遥はさらに意味深い言葉を重ねる。
「君はあの男の力に引き寄せられて、祠までやってきてしまったんだ。血の契約を結んだ相手には、そういうことができるんだね」
「あの、遥さん。その血の契約というのは何ですか?ヴァンも言っていました。二百年前から約束していたことだとか。
それにさっき、あなたは『はじめまして』と言ったのに、『再会』とも言った。どちらが本当で、どちらが嘘なんですか?」
矢継ぎ早に繰り広げられる質問に、遥は両手を広げて鷹揚に笑う。
「まあまあ。そう急き込まなくても大丈夫だよ。混乱している気持ちはよく分かるけどね」
と言って、遥は緑茶を飲み干し、しばしの間、何かを思い出すような遠い目をする。
それから視線を聖に転じ、真摯な面持ちで切り出した。
「君は当事者の一人だし、これからのためにも知っておく必要があるだろう。僕でよければ、話してあげるよ。あの吸血鬼と、月代の家と、そして君の先祖にまつわる因縁の物語を」
不意をつかれて、聖は思わず「え」と声をあげた。
人差し指で自分を指して、
「俺の?」
遥はにこっと笑って、
「そう、君の。先祖というより、生まれ変わりと言ったほうが正しいかもしれないな。ともかく二百年前、僕らの先祖とあの男は邂逅を果たしている。あの吸血鬼が愛し、喉から手が出るほど欲した、凄まじい力を秘めた血をもつ存在……それが君の先祖にあたる女性、楠木栞だ」
そう言って、遥は自分の言葉が聖にもたらした影響と効果を注意深く観察する。
聖はそんなことにも気づかず、思いきり動揺した。嵐に惑い揺さぶられる小舟のように。
「俺の祖先が、あいつを?じゃあ、あいつは本当に二百年前から生きているんですか?」
話半分に聞いていたことを改めて裏づけられて、聖は驚愕した。
「生きていた、と言うべきだろうね。あいつは一度、僕の祖先である月代彼方の手によって、あの祠に封印されたから」
不明瞭だった話がだんだん見えてくる。聖は重ねて問いかけた。
「遥さんの先祖の方は除霊師だったんですか?」
「そのときは霊媒師と名乗っていたそうだよ。まあ名称はどうあれ、人ならざる物を調伏することで生計を立てていたわけだね。
吸血鬼は人外の存在だが、人の目に映らないわけじゃない。見た目は人間とそう変わらないから、人の世界に紛れ込んだ彼らは、まさにやりたい放題だった。
あのヴァンという男も、西洋から良い血を求めて極東へ渡ってきた吸血鬼の一人だった。
そんな連中から人を守るために、僕の祖先は修行をして得た力をもって戦っていたんだ」
二百年前。元号で言うと江戸時代か。
自分や遥の先祖も、生きていたというヴァンも、全く想像がつかなかった。
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