守護霊は吸血鬼❤

凪子

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理由も根拠もない、しかし切実な思いが暴走する風船のようにどんどん膨らんでゆく。

このままでは、なんだか取り返しのつかないことが起こりそうな予感がしてならなかった。

(迷ってるんだ)

ヴァンの苛烈な剣戟に、遥も結界を張ったり、光の弾のようなものを発して対抗している。

聖は嫌な胸騒ぎを覚えたまま、薄緑に輝く結界の淡い光を浴びていた。

たおやかな様子は憂いを帯びてなお美しく、風にそよぐ一輪の白い花のようだった。

(除霊ってつまり、ヴァンを殺すってことだもんな)

今更どうして、こんなうじうじとした悩みが生じてくるというのだろう。

ヴァンが現れてからこっち、さんざんな目に遭ってきたというのに。

聖は首を振って感情を殺し、心に封をして見ないふりをしようとしたが、その試みは徒労に終わった。

自分の足を見つめ、病院にいる由宇のことを思う。

血と引き換えとはいえ、ヴァンは自分を守ってくれた。

あのとき、聖が最も必要とする形で救いを与えてくれたのだ。

それを、こんなふうに殺してしまっていいものなのだろうか?

冷たく横たわり、物言わぬむくろとなったヴァンの姿を想像すると、鋭い針を突き刺したように胸がうずいた。

聖はかたくなに首を振る。

(あり得ない。あり得ないよ。あいつが、可哀想になるなんて)

ヴァンがいなくなれば、平和な日常が戻ってくることは間違いない。それを何よりも望んでいたはずなのに。

つば迫り合いを繰り返すうちに、次第に遥は部屋の隅まで追い詰められていく。

技の練達度は同じでも、力勝負になるとヴァンのほうが有利のようだった。

防戦一方の遥は、ヴァンの気を散らす作戦に出たのか、青白く光る剣を受け止めながらこう言った。

「愚かなのは君のほうだよ、ヴァン・F・アルカード。あの祠で大人しく眠りについていれば、もう一度殺されるような羽目にはならなかったろうに」

遥の声と表情には、憐憫と小さな侮蔑の色が宿っていた。

ヴァンは顔を歪める。

「力の差がまだ分かっていないらしいな。死ぬのはお前だ。俺は聖の血を得て完全に復活する。聖さえいれば、他の人間に用はない」

「待てよ、ヴァン!復活ってどういうことだ?もう一度殺されるって」

説明を求めた聖のほうを振り向き、ヴァンは嫣然と笑った。

「お前は何も知らなくていい。そこで俺がこいつを殺すのを見ていればいいんだ」

「ふざけるな!いつもいつも意味の分からないことばっかり言いやがって!それに月代さんは除霊師なんだぞ。殺すなんて、そんなことできるわけないだろ!」

ヴァンの不敵な表情が、やや不機嫌そうなものに変わる。まるでネズミを狩る楽しみを邪魔された猫のように。
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