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「まるでお姫様だな」
皮肉な笑みを浮かべて、ヴァンは聖を意地悪く揶揄った。
(何が言いたいんだよ)
「この男を四六時中そばにはべらせ、いつも大切に守られているというわけか。
自分の手を汚す必要もなく、何の心配も危険もなく、綺麗に無傷のまま……ガラスケースに収められた華のように」
その言葉は真実の一角を無慈悲なまでに的確に突いていただけに、聖のプライドを痛烈に傷つけた。
ヴァンはあえて聖の神経を逆撫でする言葉を選んで投げかけているとしか思えなかった。
(……うるさい)
「よかったじゃないか。こいつがいれば安心して学校生活を送ることができる。せいぜい可愛らしく媚びを売って効率よく使ってやればいい。こいつだってきっと喜ぶさ」
(黙れ……!)
「だが、笑えるほどに滑稽なピエロだな、この男は。自分が利用されているとも知らずに、騎士気どりで姫君に忠誠を尽くしているつもりになっている。たいした自己犠牲の精神だ。そこまでして自分の価値を確認したいのか。
それとも、そんな自分に酔っているのか」
「黙れ!!!!!!」
思わず張り上げた大声に、柔道場にいた全員が驚いて聖を振り返った。
どよめきが群衆を伝わってゆく。
「何だ楠木。いきなり黙れとは何事だ」
「あ……」
ヴァンは視界の端で口の端を歪めて笑っている。
聖は精錬された怒りが体内からほとばしり、青白い火花のように散るのを感じた。
体育教師は剣呑な目つきで聖を見つめている。
他の生徒たちも、奇妙なものを見る目で、かたずを呑んで聖の言動を見守っている。
聖は取り繕おうと口を開きかけたが、その前にすっと由宇が手を上げた。
「すいません、先生。俺がしゃべってたんです。気が散るからやめろって楠木に注意されたんですけど、それでも聞かずにしゃべってたもんで」
「何だ、そうか」
と、教師はあっさりと納得した。
「楠木、熱心なのは結構だが、いきなりキレるのはよくないな。それから笹倉、お前はもっと真面目に授業を聞くように」
「へーい、すんません」
由宇がおどけたように言って、生徒たちが少し笑う。それから授業は元どおりに進行を始めた。
聖は両手を合わせると頭を下げ、小声で謝った。
「ごめん」
「いいってことよ」
と、ひらひらと手を振って由宇は請けあう。だが、それ以上の詮索はしてこなかった。
聖は絶妙のフォローに救われたことよりも、由宇の態度のほうが気にかかった。
もう追及を諦めたのだろうか。
そう思うと、途端に見放されたような寂しい気分になるのだから、我ながら勝手な話だ。
(分かってるんだ。由宇が俺に、罪悪感を感じてるんだってことは)
由宇がことさらに自分を構い、大げさなほど心配してくれるのは、あのときの怪我が原因だ。
聖がバスケ部を辞めるきっかけとなった、あの怪我が。
(でも、それだって由宇のせいじゃない。あいつが後ろめたさを背負う必要なんて、少しもないんだ)
聖は体育座りをしたまま由宇の背中を見つめる。
こんなにも近くにいるのに、どうしてだろう、彼が遠く遠く離れた場所にいるような気がした。
皮肉な笑みを浮かべて、ヴァンは聖を意地悪く揶揄った。
(何が言いたいんだよ)
「この男を四六時中そばにはべらせ、いつも大切に守られているというわけか。
自分の手を汚す必要もなく、何の心配も危険もなく、綺麗に無傷のまま……ガラスケースに収められた華のように」
その言葉は真実の一角を無慈悲なまでに的確に突いていただけに、聖のプライドを痛烈に傷つけた。
ヴァンはあえて聖の神経を逆撫でする言葉を選んで投げかけているとしか思えなかった。
(……うるさい)
「よかったじゃないか。こいつがいれば安心して学校生活を送ることができる。せいぜい可愛らしく媚びを売って効率よく使ってやればいい。こいつだってきっと喜ぶさ」
(黙れ……!)
「だが、笑えるほどに滑稽なピエロだな、この男は。自分が利用されているとも知らずに、騎士気どりで姫君に忠誠を尽くしているつもりになっている。たいした自己犠牲の精神だ。そこまでして自分の価値を確認したいのか。
それとも、そんな自分に酔っているのか」
「黙れ!!!!!!」
思わず張り上げた大声に、柔道場にいた全員が驚いて聖を振り返った。
どよめきが群衆を伝わってゆく。
「何だ楠木。いきなり黙れとは何事だ」
「あ……」
ヴァンは視界の端で口の端を歪めて笑っている。
聖は精錬された怒りが体内からほとばしり、青白い火花のように散るのを感じた。
体育教師は剣呑な目つきで聖を見つめている。
他の生徒たちも、奇妙なものを見る目で、かたずを呑んで聖の言動を見守っている。
聖は取り繕おうと口を開きかけたが、その前にすっと由宇が手を上げた。
「すいません、先生。俺がしゃべってたんです。気が散るからやめろって楠木に注意されたんですけど、それでも聞かずにしゃべってたもんで」
「何だ、そうか」
と、教師はあっさりと納得した。
「楠木、熱心なのは結構だが、いきなりキレるのはよくないな。それから笹倉、お前はもっと真面目に授業を聞くように」
「へーい、すんません」
由宇がおどけたように言って、生徒たちが少し笑う。それから授業は元どおりに進行を始めた。
聖は両手を合わせると頭を下げ、小声で謝った。
「ごめん」
「いいってことよ」
と、ひらひらと手を振って由宇は請けあう。だが、それ以上の詮索はしてこなかった。
聖は絶妙のフォローに救われたことよりも、由宇の態度のほうが気にかかった。
もう追及を諦めたのだろうか。
そう思うと、途端に見放されたような寂しい気分になるのだから、我ながら勝手な話だ。
(分かってるんだ。由宇が俺に、罪悪感を感じてるんだってことは)
由宇がことさらに自分を構い、大げさなほど心配してくれるのは、あのときの怪我が原因だ。
聖がバスケ部を辞めるきっかけとなった、あの怪我が。
(でも、それだって由宇のせいじゃない。あいつが後ろめたさを背負う必要なんて、少しもないんだ)
聖は体育座りをしたまま由宇の背中を見つめる。
こんなにも近くにいるのに、どうしてだろう、彼が遠く遠く離れた場所にいるような気がした。
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