守護霊は吸血鬼❤

27

「……ほう。俺の気配を感じ取ることができるとはな。この男、どうやらただ者ではないらしい」


ヴァンが興味深げに由宇を観察している。

聖はぞっとした。

（まさか由宇の血も吸おうっていうんじゃないだろうな？！）

「見くびるな。自ら下賎の輩のつまらぬ血を吸うほど堕ちちゃいない。人間という生き物の血は、ほとんどが不味くてしょうがないからな」

（そうなのか？）

「言っただろう？お前は特別なんだ」

ヴァンの手が肩に回されて、耳元でささやかれる。

聖はその手を邪険に振り払い、由宇に言った。

「誰もいるわけないだろ？朝から変なこと言うなよ」

「だけどお前」

「ほら、早く行った行った。遅刻するぞ？」

「あ、おい！」
　
顔中の筋肉を総動員して引きつった笑みを浮かべると、聖は玄関先から由宇を追い出し、ばたんとドアを閉めた。

「はあ……」

ずるずるとその場に崩れ落ち、玄関にしゃがみ込む。

変てこ極まりない二方向の会話に、どっと疲れが押し寄せてきた。

額にじわりと汗が浮かび、玉を結ぶ。

ヴァンが高い背をかがめて覗き込み、からかうように言った。

「随分とお節介な奴だな。あいつはお前の何なんだ？」

「うるさい……いちいち話しかけてくるな……」

息も絶え絶えに、だが精一杯睨みつけて聖はヴァンを拒絶する。

そんな抵抗すら愉快らしく、ヴァンは口元を緩ませて優雅に微笑した。

何か痛烈な一撃を放ってやろうと思うのだが、先ほどから本気で目の前がぐらぐらする。

怒るだけの気力は残されていそうもなかった。

（それにしても由宇の奴、何で家まで来たんだろう）

由宇の家から聖の家まではそれほど近くないし、学校に行くルートとも逸れている。

第一、由宇は朝練で、いつも始業時間よりかなり早くついているはずなのだ。

不可解な訪問に今さらながら首を傾げつつ、聖は制服のワイシャツに袖を通し、ズボンを履きかえて身支度を整えた。

残念ながら食欲はない。

いつもは弁当を作って、その残りを朝食として食べていくのだが、そんなことをしている余裕はかけらもなかった。

昨日までの自分の行動が奇跡に思えるほど、状況は考えうる限り最悪だった。

もしも世の中に、残酷な吸血鬼に付きまとわれるという以上の災難があるのなら教えてもらいたいくらいだ。

そんなことを考えていると、我が物顔でソファーに座っていたヴァンが口を開いた。

「細っこい身体だな。そんな風だから少し血を吸われただけで倒れるんだ。もう少し食って肉をつけるんだな」

まるで聖に非があるような言い草である。

自分の体格を気にしていたこともあり、聖は思わずカッとなって言い返した。

「お前には関係ないだろ！？俺の血が特別だかなんだか知らないけど、血なら昨日さんざん吸ったんだ。さっさとどっか行けよ！」

「口の利き方には気をつけたほうがいいぞ？今は血が足りないらしいから特別に許してやるが、今度は先ほどのように手加減ができなくなるかも知れないからな」

穏やかだが威圧感のある物言いに、聖はぐっと言葉に詰まる。

ヴァンは聖の反応に満足したらしく、目を細めて笑った。