THE LAST WOLF

凪子

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【延長戦】

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みんなはひどい。

どうして俺に、こんなむごい選択をさせるんだ。

ここでみんなと一緒に死ねたら、そのほうが楽なのに。

この道を行けば、死ぬときは一人、生き残ったとしても一人きりだ。

怖い。一人になりたくない。

温かい唇が頬に触れて、俺ははっとした。

「もう一度、真珠ちゃんに会うんでしょ?」

のんは静かに言った。

俺が頷くと、にっこりして、

「だったら前に進まなきゃ。自分のために。私たちのために。ね?」

まるで十も年上の女の人から言われているような気がした。

いつものふざけ合った悪友の顔とは、別人の顔をしている。

それとも、これが本来の彼女の姿なのか。

「……そうだよな。ごめん。やっぱり俺、行くよ」

そう言って顔を上げると、

「よし」

満足そうにのんは笑い、ほっぺたを軽くたたく。

「歩、大好きよ」

抱きしめた腕が背中を優しくさする。行っておいでというように。

「俺もだよ」

と言って抱きしめ返し、俺は古川さんに頷いた。

彼の操作で、壁に脱出口が開き始める。

この城をつくった人間は、よほどからくりが好きらしい。

おかげで俺は、こんな脱出行を演じる羽目になったってわけだ。

思わず皮肉な笑みを浮かべていると、大きな爆発音が響いた。

「そろそろやばいかもねー」

巳継君が銃を構え、こちらを厳しい目で促している。

管制室の扉は防弾性の超合金で、そこにたどりつくまでには古川さんの操作でいくつも防壁や防火扉が立ちはだかっているのだけれど、業を煮やした相手はなりふり構わず突破しにかかってきたようだ。

「早く行け」

戸上さんは俺を突き飛ばし、自分は銃を構えて部屋の入り口あたりを睨んでいる。

脱出口に入ると、ゲートはすぐに閉まり始めた。

狭まっていく視界の中で、不安と恐怖に襲われる。

でも――まるで今から遊びに出かけるような、みんなの楽しそうな顔を見ていたら、胸に温かい火が灯った。

「みんな、ありがとう。行ってきます!」

両手を口の横に当て、大声で俺は叫んだ。

振り向いたのは、一番近くにいた戸上さんだった。

「歩。絶対諦めるな。最後の最後まで絶対に」

そのときの彼の表情を、俺は生涯忘れることはないだろう。

「約束だぞ」

















【延長戦・終わり】
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