THE LAST WOLF

凪子

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【延長戦】

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「あ、あ、歩君」

背を向けたまま古川さんは言った。

すうっと息を吸い込むと、

「君は僕たちの希望だ」

全くどもらずに言った。

巳継君が俺の手をとって握手し、

「そうそう、そのとおり!生き延びて、俺たちのこと後世に伝えてよ」

「自分が面倒くさいからって、歩に押しつける気でしょ」

真知子さんが笑って巳継君を小突く。

「でも私も、どう考えても歩が適任だと思う。……ごめんね」

俺の頭を引っ張って額と額をくっつけ、真知子さんは祈るように目を閉じた。

「リスクは分散すべきです。負傷しているメンバーを除外すれば、戦闘能力が最も高いのはのんさんかあなたです。どちらかが行くべきだと思います」

この状況でもなお冷静さを失わない雪妃を、俺は尊敬の眼差しで見つめる。

「……何ですか?」

怪訝な顔をされて、俺は「いや」と苦笑した。

「ありがとう、雪妃」

雪妃の目がかすかに潤んだ気がしたが、すぐにそっぽを向かれたので定かではなかった。

「あ・ゆ・む・ちゃーん!」

体当たりするように抱きつかれ、思いっきり胸を押しつけられる。

「何だよ、のん」

俺が邪険に振りほどこうとすると、目を閉じて上を向き、ふざけたように、

「お別れのチューは?」

「するか、馬鹿」

軽く頭をたたくと、「いてっ」と頭を押さえてのんは笑った。

思えば、こいつの誘いでSacred Ravarに所属してから四年。

長かったようで短かったなと、しみじみ思う。

同い年ということもあって、のんとは最も一緒に過ごす時間が長かった。

俺の一生の中で、あれほど濃密な時間はないだろうと思われるような、特別な時間だった。

一緒に切磋琢磨し、訓練に励み、時には激しく罵り合って大喧嘩し、真剣に話し合い、ともに泣き笑い怒り悲しみ、全ての感情を分かち合った。

弱気な朝も眠れない夜も、一緒だから乗り越えることができた。

血のつながった兄妹より強い絆が俺たちにはあった。

「……行きたくない」

俺は呟いた。

「駄目。行かないと」

と言って、ほっぺたを両手で挟んで持ち上げられる。

のんはにこっと笑った。

「分かってるでしょ?歩しかいないもん」

「嫌だ」

俺は駄々っ子のように頭を振った。我ながら情けなかった。
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