107 / 121
【延長戦】
105
しおりを挟む
「周の息子だろう。君は誤解している。私を撃つ前に、せめて話を聞いてくれ」
「撃て、歩」
冷酷な表情で戸上さんは言った。
「こいつの話に耳を貸すな」
護衛についた男二人は、隙あらばこちらの武器を奪おうと腰を低くして身構えている。
ここでいたずらに時間を浪費するわけにはいかない。俺たちにはまだ、やらなければならないことがあるのだ。
俺は吉田正義の額に銃口を向けた。
「このクソみたいなゲームを始めたのはあんただろ?自分だけ安全な場所にいて、高見の見物なんて許さない」
「違うんだ、歩君」
俺が一発撃つと、弾は吉田の右足をかすったようだった。
「うぐああっ」と悲鳴を上げて、吉田は痛みにのたうち回る。
それを見た護衛の二人が玉砕覚悟で突っ込んできたので、戸上さんが二人を狙撃した。
パン、パンという音とともに、簡単に二つの死体ができ上がる。
生者と死者との間にある境界線なんて、薄く脆いものにすぎない。
入江には静寂が訪れ、立っている者は三人だけとなった。
「バニシングナイトはもうやめる。これまでゲームに負けてお亡くなりになった方には、我が社から弔慰金を支払わせてもらう。もちろん君のお父さんもだ。それでいいだろう?」
激痛に歯を食いしばりながら、血走った目を見開き、吉田は必死で話し続ける。
人間、命乞いのためならどんなことでもできるというのは本当だった。
「そんなことをしても死者は蘇らない」
俺は自分の声色が変わっているのを感じた。
戸上さんが俺を見ている。その目は強く何かを訴えかけていた。
早く殺せという意味か、それとも別の意味なのか、そのときの俺には分からなかった。
でも、どうしても止められなかった。
「あんたはこの国に災厄をばらまいた。このゲームのせいで国民に根づいた強い不信感は、いたるところで事件となって噴出している。疑惑、混乱、疑心暗鬼――全てあんたが引き起こしたものだ」
「『汝は人狼なりや?』を開発したのは君のお父さんだ。君はお父さんの創り出したものを否定するのか」
「父さんは途中で危険性に気づいた。だからゲームを終わらせようとした。その父さんを殺してまで、私利私欲のためにゲームを続けたのはあんただろう」
「私は殺してない」
ぎらぎらと光る瞳で吉田は訴えた。
足の痛みは恐怖と興奮にかき消されているのか、手を地面について立ち上がろうとさえしている。
「撃て、歩」
冷酷な表情で戸上さんは言った。
「こいつの話に耳を貸すな」
護衛についた男二人は、隙あらばこちらの武器を奪おうと腰を低くして身構えている。
ここでいたずらに時間を浪費するわけにはいかない。俺たちにはまだ、やらなければならないことがあるのだ。
俺は吉田正義の額に銃口を向けた。
「このクソみたいなゲームを始めたのはあんただろ?自分だけ安全な場所にいて、高見の見物なんて許さない」
「違うんだ、歩君」
俺が一発撃つと、弾は吉田の右足をかすったようだった。
「うぐああっ」と悲鳴を上げて、吉田は痛みにのたうち回る。
それを見た護衛の二人が玉砕覚悟で突っ込んできたので、戸上さんが二人を狙撃した。
パン、パンという音とともに、簡単に二つの死体ができ上がる。
生者と死者との間にある境界線なんて、薄く脆いものにすぎない。
入江には静寂が訪れ、立っている者は三人だけとなった。
「バニシングナイトはもうやめる。これまでゲームに負けてお亡くなりになった方には、我が社から弔慰金を支払わせてもらう。もちろん君のお父さんもだ。それでいいだろう?」
激痛に歯を食いしばりながら、血走った目を見開き、吉田は必死で話し続ける。
人間、命乞いのためならどんなことでもできるというのは本当だった。
「そんなことをしても死者は蘇らない」
俺は自分の声色が変わっているのを感じた。
戸上さんが俺を見ている。その目は強く何かを訴えかけていた。
早く殺せという意味か、それとも別の意味なのか、そのときの俺には分からなかった。
でも、どうしても止められなかった。
「あんたはこの国に災厄をばらまいた。このゲームのせいで国民に根づいた強い不信感は、いたるところで事件となって噴出している。疑惑、混乱、疑心暗鬼――全てあんたが引き起こしたものだ」
「『汝は人狼なりや?』を開発したのは君のお父さんだ。君はお父さんの創り出したものを否定するのか」
「父さんは途中で危険性に気づいた。だからゲームを終わらせようとした。その父さんを殺してまで、私利私欲のためにゲームを続けたのはあんただろう」
「私は殺してない」
ぎらぎらと光る瞳で吉田は訴えた。
足の痛みは恐怖と興奮にかき消されているのか、手を地面について立ち上がろうとさえしている。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

私と継母の極めて平凡な日常
当麻月菜
ライト文芸
ある日突然、父が再婚した。そして再婚後、たった三ヶ月で失踪した。
残されたのは私、橋坂由依(高校二年生)と、継母の琴子さん(32歳のキャリアウーマン)の二人。
「ああ、この人も出て行くんだろうな。私にどれだけ自分が不幸かをぶちまけて」
そう思って覚悟もしたけれど、彼女は出て行かなかった。
そうして始まった継母と私の二人だけの日々は、とても淡々としていながら酷く穏やかで、極めて平凡なものでした。
※他のサイトにも重複投稿しています。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる