THE LAST WOLF

凪子

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【延長戦】

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そんなことも知らない小鳥遊周は、妻である澪と相談する。

「そろそろBBWを畳もうかと思うんだけど、どうだろう」

澪は眠っている赤ん坊の頭を撫でながら、ゆっくりと言った。

「そうね。私も正直言って、ここまで大きくなるとは思ってなかったから、ずっと不安だったの。でも、頑張ってるあなたや吉田君に悪いと思って、なかなか言い出せなかった」

二人の意見は一致し、翌日、周は吉田正義にBBWの解散を打診する。

これが二人の間に、決定的な亀裂を生むことになった。

吉田正義は当然のことながら、断固として反対した。

せっかくここまで会社が大きくなったのに、ちょっと批判されたぐらいで臆病風に吹かれて会社を畳むなど言語道断。

BBWは顧客に笑顔と生きる楽しさを提供し、余剰利益は社会福祉のために寄付もしている立派な会社だ。

『汝は人狼なりや?』についても、このゲームが原因で人間関係を損なうことなどあり得ない。

もしあったとしても、それはゲームをする人間の問題であって、ゲームのせいではない。

包丁や火と同じく正しい使い方をすれば利となるものを、間違った使い方をする者がいるというだけでむやみやたらと禁止するのは筋違いだ。

それにBBWがなくなったところで、ここまで人口に膾炙したゲームが消滅するはずがない。

また別の同業他社が出てきて、利権を根こそぎもっていかれるだけだ。

何となくの不安で簡単に終わらせることができるほど、我々創始者の責任は軽くない。

そのような言い分だった。

猛反対を食らった小鳥遊周は、吉田正義の言い分にも一理あると受け入れ、当初は会社を畳むことを断念した。

だが、吉田が自分に秘密で政治家とたびたび会合を設けていることを知り、疑問を抱いて調査する。

そして、それが人狼法制定に向けた準備だと知って、今度こそ完全に吉田と決裂することになる。

ここで起こった大きな争いは、週刊誌を初めとする各種マスコミでも大々的に報じられた。

翌年、人狼法が制定され、小鳥遊周は取締役会決議で代表取締役を解任される。

自分でつくった会社を、仲間の手によってクビにされたのである。

周は完全に、吉田正義が間違った道に進んでいることに気づいていた。

だが、気づくのが遅すぎた。

もはや手の打ちようがなく、人狼法は制定されてしまった。

桜庭建設の全面的な協力で、東京沖合に人工島が急ピッチで建設される。

四月に着工し、その年の十二月には完成するという驚異的な速さだった。

翌年の二月、第一回バニシングナイトが開催される。

最初の参加者十二名は、いずれも吉田正義と敵対する勢力の者ばかりだった。

その中にいたのが、俺の父さん。

もちろん、バニシングナイトに応募するはずもない。

最初からこのゲームは、吉田正義が仕組んだものだった。

自分の都合の悪い人間を、ゲームの形を借りて疑い合わせ、殺させるために。
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