103 / 121
【延長戦】
101
しおりを挟む
そんなことも知らない小鳥遊周は、妻である澪と相談する。
「そろそろBBWを畳もうかと思うんだけど、どうだろう」
澪は眠っている赤ん坊の頭を撫でながら、ゆっくりと言った。
「そうね。私も正直言って、ここまで大きくなるとは思ってなかったから、ずっと不安だったの。でも、頑張ってるあなたや吉田君に悪いと思って、なかなか言い出せなかった」
二人の意見は一致し、翌日、周は吉田正義にBBWの解散を打診する。
これが二人の間に、決定的な亀裂を生むことになった。
吉田正義は当然のことながら、断固として反対した。
せっかくここまで会社が大きくなったのに、ちょっと批判されたぐらいで臆病風に吹かれて会社を畳むなど言語道断。
BBWは顧客に笑顔と生きる楽しさを提供し、余剰利益は社会福祉のために寄付もしている立派な会社だ。
『汝は人狼なりや?』についても、このゲームが原因で人間関係を損なうことなどあり得ない。
もしあったとしても、それはゲームをする人間の問題であって、ゲームのせいではない。
包丁や火と同じく正しい使い方をすれば利となるものを、間違った使い方をする者がいるというだけでむやみやたらと禁止するのは筋違いだ。
それにBBWがなくなったところで、ここまで人口に膾炙したゲームが消滅するはずがない。
また別の同業他社が出てきて、利権を根こそぎもっていかれるだけだ。
何となくの不安で簡単に終わらせることができるほど、我々創始者の責任は軽くない。
そのような言い分だった。
猛反対を食らった小鳥遊周は、吉田正義の言い分にも一理あると受け入れ、当初は会社を畳むことを断念した。
だが、吉田が自分に秘密で政治家とたびたび会合を設けていることを知り、疑問を抱いて調査する。
そして、それが人狼法制定に向けた準備だと知って、今度こそ完全に吉田と決裂することになる。
ここで起こった大きな争いは、週刊誌を初めとする各種マスコミでも大々的に報じられた。
翌年、人狼法が制定され、小鳥遊周は取締役会決議で代表取締役を解任される。
自分でつくった会社を、仲間の手によってクビにされたのである。
周は完全に、吉田正義が間違った道に進んでいることに気づいていた。
だが、気づくのが遅すぎた。
もはや手の打ちようがなく、人狼法は制定されてしまった。
桜庭建設の全面的な協力で、東京沖合に人工島が急ピッチで建設される。
四月に着工し、その年の十二月には完成するという驚異的な速さだった。
翌年の二月、第一回バニシングナイトが開催される。
最初の参加者十二名は、いずれも吉田正義と敵対する勢力の者ばかりだった。
その中にいたのが、俺の父さん。
もちろん、バニシングナイトに応募するはずもない。
最初からこのゲームは、吉田正義が仕組んだものだった。
自分の都合の悪い人間を、ゲームの形を借りて疑い合わせ、殺させるために。
「そろそろBBWを畳もうかと思うんだけど、どうだろう」
澪は眠っている赤ん坊の頭を撫でながら、ゆっくりと言った。
「そうね。私も正直言って、ここまで大きくなるとは思ってなかったから、ずっと不安だったの。でも、頑張ってるあなたや吉田君に悪いと思って、なかなか言い出せなかった」
二人の意見は一致し、翌日、周は吉田正義にBBWの解散を打診する。
これが二人の間に、決定的な亀裂を生むことになった。
吉田正義は当然のことながら、断固として反対した。
せっかくここまで会社が大きくなったのに、ちょっと批判されたぐらいで臆病風に吹かれて会社を畳むなど言語道断。
BBWは顧客に笑顔と生きる楽しさを提供し、余剰利益は社会福祉のために寄付もしている立派な会社だ。
『汝は人狼なりや?』についても、このゲームが原因で人間関係を損なうことなどあり得ない。
もしあったとしても、それはゲームをする人間の問題であって、ゲームのせいではない。
包丁や火と同じく正しい使い方をすれば利となるものを、間違った使い方をする者がいるというだけでむやみやたらと禁止するのは筋違いだ。
それにBBWがなくなったところで、ここまで人口に膾炙したゲームが消滅するはずがない。
また別の同業他社が出てきて、利権を根こそぎもっていかれるだけだ。
何となくの不安で簡単に終わらせることができるほど、我々創始者の責任は軽くない。
そのような言い分だった。
猛反対を食らった小鳥遊周は、吉田正義の言い分にも一理あると受け入れ、当初は会社を畳むことを断念した。
だが、吉田が自分に秘密で政治家とたびたび会合を設けていることを知り、疑問を抱いて調査する。
そして、それが人狼法制定に向けた準備だと知って、今度こそ完全に吉田と決裂することになる。
ここで起こった大きな争いは、週刊誌を初めとする各種マスコミでも大々的に報じられた。
翌年、人狼法が制定され、小鳥遊周は取締役会決議で代表取締役を解任される。
自分でつくった会社を、仲間の手によってクビにされたのである。
周は完全に、吉田正義が間違った道に進んでいることに気づいていた。
だが、気づくのが遅すぎた。
もはや手の打ちようがなく、人狼法は制定されてしまった。
桜庭建設の全面的な協力で、東京沖合に人工島が急ピッチで建設される。
四月に着工し、その年の十二月には完成するという驚異的な速さだった。
翌年の二月、第一回バニシングナイトが開催される。
最初の参加者十二名は、いずれも吉田正義と敵対する勢力の者ばかりだった。
その中にいたのが、俺の父さん。
もちろん、バニシングナイトに応募するはずもない。
最初からこのゲームは、吉田正義が仕組んだものだった。
自分の都合の悪い人間を、ゲームの形を借りて疑い合わせ、殺させるために。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

私と継母の極めて平凡な日常
当麻月菜
ライト文芸
ある日突然、父が再婚した。そして再婚後、たった三ヶ月で失踪した。
残されたのは私、橋坂由依(高校二年生)と、継母の琴子さん(32歳のキャリアウーマン)の二人。
「ああ、この人も出て行くんだろうな。私にどれだけ自分が不幸かをぶちまけて」
そう思って覚悟もしたけれど、彼女は出て行かなかった。
そうして始まった継母と私の二人だけの日々は、とても淡々としていながら酷く穏やかで、極めて平凡なものでした。
※他のサイトにも重複投稿しています。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる