ＴＨＥ ＬＡＳＴ ＷＯＬＦ

【延長戦】

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今から二十二年前、小鳥遊周は大学院で行動経済学を学ぶ、ごく普通の大学院生だった。

そんな小鳥遊周が親しくしていたドイツ人教授アルフレートから教えてもらったのが、後に『汝は人狼なりや？』に名前を変えることになる、『マフィアゲーム』という遊びだった。

小鳥遊周はこのゲームを知って興味を持ち、ゼミの友人たちとさっそく遊ぶようになった。

会話と推理のゲームは仲間内でも好評で、講義の空き時間を使って遊んでいるうちにどんどん参加者が増え、ついにはサークルを立ち上げた。

遊んでいくうちに自分なりに改良を加えてルールを整え、霊媒師や占い師といった役職をつくり、小鳥遊周はそのゲームに『汝は人狼なりや？』と名づけてスマートフォン用アプリケーションを開発した。

サークルの名前は『ＢＩＧ ＢＡＤ ＷＯＬＦ』。

これが、やがて日本を代表する企業に成長することなど、当時は誰も予想だにしていなかった。

ＢＩＧ ＢＡＤ ＷＯＬＦの幹事長は小鳥遊周だったが、副幹事長には黒田澪くろだ・みおという女性がつき、会計には吉田正義が着任することになった。

どちらも小鳥遊周とはゼミ仲間であり、仲よし三人組と呼ばれており、毎日のように一緒に酒を飲みに行く親友だった。

さて、前にも書いてきたように、小鳥遊周が開発して特許を取った『汝は人狼なりや？』のアプリケーションは驚異的な売れ行きを誇った。

サークルのイベント企画『ジンロリアン合宿』――無人島や山荘でひたすら『汝は人狼なりや？』を遊び、勝敗を競うもの――も申し込みが殺到していた。

インターネットゲーム、対面ゲーム双方で楽しめる『汝は人狼なりや？』は国内を席巻し、勢いはとどまるところを知らず、テレビや雑誌、ユーチューブの企画でも何度も取り上げられた。

ＢＩＧ ＢＡＤ ＷＯＬＦは、もはや日本一有名なサークルとなっており、会費だけでも莫大な金額が集まるようになっていた。

ＢＩＧ ＢＡＤ ＷＯＬＦを法人化しようと言い出したのは、吉田正義だった。

サークルを立ち上げてから三年、『汝は人狼なりや？』のイベントや合宿はテレビで放映されるようになり、続々と有名人が参加するようになっていた。

いくつもの大企業がスポンサーにつき、会場や設備も豪華になり、人員も増加していた。

小鳥遊周たちも大学院を卒業しており、活動規模の大きさとしてもサークルの域を超えていたため、迷いながらも周は吉田正義の言を容れてＢＩＧ ＢＡＤ ＷＯＬＦを法人化。

ＢＩＧ ＢＡＤ ＷＯＬＦは株式会社となり、小鳥遊周は代表取締役社長に就任する。

彼が二十七歳のときのことだった。

その年の秋、小鳥遊周は黒田澪と結婚し、小鳥遊澪は正式にＢＢＷを退職。経営から一切の手を引く。

翌年には第一子が生まれ、歩と名づけられる。そう、俺のことだ。

一歩ずつでいい、自分の足で歩いていける人間であれと、二人が希望と祈りを込めてつけてくれた名前。

その由来を知ったのは、二人がこの世からいなくなった後だった。