THE LAST WOLF

凪子

文字の大きさ
上 下
93 / 121
【延長戦】

91

しおりを挟む
『お待たせいたしました』

ゲームマスターの声が言い、俺は伏せていた顔を上げた。

『これから第十六回バニシングナイト表彰式を行います。株式会社BIG BAD WOLF代表取締役社長、吉田正義の入場です』

トランペットを主調にした明るい音楽が流れ、盛大な拍手が起こり、上手から颯爽と登場した男はにこやかに手を振りながら玉座についた。

まるで本物の国王のように。

吉田正義よしだ・まさよし

BBWの創設者の一人であり、現社長。

恰幅のいい体つきと四角い顔に、くっきりとした意志の強そうな眉をしている。

年齢は四十代半ばだが、若々しく魅力的だ。

高い知性と人を惹きつける話術は、経営においても、テレビ出演などでも存分に発揮されている。

政財界にも有力なコネクションを数多く持つ、この業界のボスと言ってもいい。

直接会うのは初めてだった。でも俺は、こいつをよく知っていた。知りすぎていた。

じっと凝視している俺に気づいたのか、吉田正義は俺を見おろし、目が合った。

その瞬間、形のよい唇に酷薄な笑みが刻まれるのを、俺は見逃さなかった。

「皆さん、おめでとう。実におめでとう」

まだ祝福の音楽は流れ続けている。

吉田は玉座に座ったまま、にこにこと言った。

「バニシングナイトも、今回で十六回目を迎えた。今まで多くの方たちがこのゲームに参加し、極限的な状況の中で素晴らしいドラマを繰り広げてくれた。勝利のために最後の最後まで考え抜くこと、決して諦めないこと。知恵と勇気の大切さと、命を賭けた戦いの美しさを、君たちは私に教えてくれた。心より感謝する」

部屋の隅から、しずしずと慎ましやかにジュラルミンケースの積まれたカートが押されてくる。

恐らく中には八人分の賞金、総計四十億が入っているはずだ。

「これは、勝利を手にした君たちへ私が贈る、せめてもの手向けだ。遠慮なく受け取ってほしい」

違和感が鼻先をかすめた。

それに気づいたのは、俺と野村さんがほぼ同時だったように思う。

俺たち二人が目を見交わした瞬間、

「おめでとう。そして死ね」

「伏せろ!!」

野村さんの声に素早く反応し、俺は床に転がるようにして身をかがめた。

ババババババババッと激しい音がし、やや遅れてガラスの砕ける透明な音が続いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

七色の心臓

九頭坂本
ライト文芸
完結済み。約十万文字の作品です。 あらすじは後々書くかもしれません。

私と継母の極めて平凡な日常

当麻月菜
ライト文芸
ある日突然、父が再婚した。そして再婚後、たった三ヶ月で失踪した。 残されたのは私、橋坂由依(高校二年生)と、継母の琴子さん(32歳のキャリアウーマン)の二人。 「ああ、この人も出て行くんだろうな。私にどれだけ自分が不幸かをぶちまけて」 そう思って覚悟もしたけれど、彼女は出て行かなかった。 そうして始まった継母と私の二人だけの日々は、とても淡々としていながら酷く穏やかで、極めて平凡なものでした。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...