リエゾン~川辺のカフェで、ほっこりしていきませんか~

凪子

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春の宵

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「……まあ今の学力だと、どっちみち受からないから浪人することになるんだろうけど。そこまでして獣医になりたいかって聞かれると、自分でも断言できないのが情けなくてさ。文転して商学部か経済学部出て、一流企業に入れって父親が言うのも、理屈として分からなくはないんだ」

成功しやすい道、幸せになる可能性が高い道。

どれが最善か定かではないけれど、選べるならそんな道を選んでほしい。

そう思う親心に気づけるだけの思慮深さを、斉は持っている。

「本当に賢いんだね。それに親御さん思いだし」

「いや、単に卑怯なだけだよ。分かってるんだ。親の言うとおりにしておけば、うまくいかなかったとき親のせいにできるだろ」

そんなことに保険かけたって意味ないのにな、と小さく呟いた唇が震えている。

桜が声をかけようとすると、

「あんたは何でパティシエになったの」

問いかけられて、桜は微笑んだ。

苦い記憶が一気に脳内に押し寄せるかと思ったが、意外にも言葉はすんなりと口をついて出た。

「他にできることが何もなかったから」

へえ、と特に感慨もなさそうに斉は相づちを打った。

「福田君みたいに賢くて、無限の可能性があって、いろんな道の中からパティシエを選んだわけじゃない。
小さい頃から本当に何をやっても駄目で、唯一まともにできる取り柄がお菓子作りだったの。お菓子を作ってるときだけは幸せだったし、自分はここにいていいんだって思えた。もちろん食べるのも大好きだけど、食べてくれた人の笑顔を見るのはもっと好きだった。だからもう、それ以外に道はなかったの」

――ただひたすら、好きなことを突きつめたかった。

――夢のためなら、どんな辛いことにも耐えられると、あの頃は本気でそう信じていた。

桜はカフェオレを飲み干すと、

「月並みな言い方しかできないけど、やっぱり、いっぱい迷っていっぱい悩んで、自分で答えを出すしかないんじゃないかな。それが間違いだったとしても、自分で決めたら少なくとも後悔はないと思う。あなたなら、どんな道を選んでもきっと輝けるよ」

黙って聞いていた斉が、立ち上がりながら言った。

「名前」

「え?」

「あんたの名前は?」

桜が名乗ると、斉は頷き、そのまま歩き去っていった。

その後姿を見送りながら、桜は彼の将来の幸せを祈った。

頼まれてもいないのに勝手に、そしてひたむきに。









































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