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春の宵

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強張った肩に手を置かれ、桜ははっとした。

「いいんだよ」

もう一度、温かい色をした声が言った。

「ここは桜の店だから。桜がつくるケーキやお菓子を食べに来てくれれば、それでいい」

「京ちゃんさあ……」

呆れ顔で松田は何か言いかけたが、桜の泣き出しそうな表情を見て言葉に詰まる。

しばらく固まった後、桜を指さして、

「この貧乳がつくるケーキの、どこがそんないいわけ?」

指さされて、桜はテーブルを叩いて立ち上がった。

「貧乳は今関係ないでしょ!」

「こらこら、桜。食事中に席立たない」

「やーい、怒られてやんのー」

小学生レベルのからかい文句に、桜の頬がピンクに染まる。

京介は得体のしれない微笑を浮かべ、

「健」

「ん?」

呼ばれた松田が顔を上げる。

「お前も食べてみれば分かるよ」

静かな、それでいて有無を言わさぬ迫力に満ちた瞳に気圧されて、健はややたじろいだ。

だが、すぐにもとの調子を取り戻し、

「俺、甘いもん嫌いだもーん」

と言うと、冷蔵庫から持ってきた辛口の赤ワインを開けた。
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