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春の宵
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「京介さん。ひどいんですよ、松田さんが」
「京ちゃん俺、腹減ったー。何か食わせて」
同時に詰め寄られて、「はいはい」と京介は宥めるように言い、厨房に立って手早く料理を始める。
リエゾンが閉店になると、三人はいつもここで夕食をとるのが習慣だった。
今日のメニューはジャンバラヤで、鶏肉のうまみとトマトの甘味、それに香辛料が絶妙のハーモニーを奏でていて絶品だった。
「いやー、本当京ちゃんは料理上手だな。嫁に欲しいわ」
「誰が嫁だ」
軽く松田の頭をはたきつつも、京介はにこにこしている。
「いや、でもマジな話、先月も結構な赤字だったろ?そろそろ客単価上げていかないとまずいんじゃねえの?」
桜は松田を見るが、松田は無表情な目で続ける。
「ケーキだけ置くんじゃなく、ほかの店みたいにランチタイムで客呼び込まなきゃ、いつまで経っても赤字のままだぞ。せっかくオフィスエリアに店構えてんのに、喫茶だけじゃ売り上げにも限界があるだろ」
息がしづらくなってきて、桜は胸を押さえた。
確かに、松田の言うことは正しい。
リエゾンは桜のつくったケーキが主たるメニューで、ほかにはパフェやホットケーキといったデザート類と、せいぜいサンドイッチぐらいで、昼食用の軽食がない。
これはオーナーである京介の意向によるものだが、桜はそのことに負い目を感じていた。
「うちは純喫茶だから、これでいいんだよ」
やはりと言うべきか、いつもどおりのんびりと京介は言った。
――私のケーキがもっと売れれば……。
そうすれば、こんなふうに松田に言われることもない。
売り上げの低迷に悩まなくてもいいし、何より京介の役にも立てる。
だが、リエゾンの近辺も含めて、カフェや喫茶店やパティスリーは掃いて捨てるほど存在する。
ネットでのお取り寄せも簡単になった時代、客の選択肢は広がり続け、生き残りをかけた熾烈な競争は増すばかりだ。
「京ちゃん俺、腹減ったー。何か食わせて」
同時に詰め寄られて、「はいはい」と京介は宥めるように言い、厨房に立って手早く料理を始める。
リエゾンが閉店になると、三人はいつもここで夕食をとるのが習慣だった。
今日のメニューはジャンバラヤで、鶏肉のうまみとトマトの甘味、それに香辛料が絶妙のハーモニーを奏でていて絶品だった。
「いやー、本当京ちゃんは料理上手だな。嫁に欲しいわ」
「誰が嫁だ」
軽く松田の頭をはたきつつも、京介はにこにこしている。
「いや、でもマジな話、先月も結構な赤字だったろ?そろそろ客単価上げていかないとまずいんじゃねえの?」
桜は松田を見るが、松田は無表情な目で続ける。
「ケーキだけ置くんじゃなく、ほかの店みたいにランチタイムで客呼び込まなきゃ、いつまで経っても赤字のままだぞ。せっかくオフィスエリアに店構えてんのに、喫茶だけじゃ売り上げにも限界があるだろ」
息がしづらくなってきて、桜は胸を押さえた。
確かに、松田の言うことは正しい。
リエゾンは桜のつくったケーキが主たるメニューで、ほかにはパフェやホットケーキといったデザート類と、せいぜいサンドイッチぐらいで、昼食用の軽食がない。
これはオーナーである京介の意向によるものだが、桜はそのことに負い目を感じていた。
「うちは純喫茶だから、これでいいんだよ」
やはりと言うべきか、いつもどおりのんびりと京介は言った。
――私のケーキがもっと売れれば……。
そうすれば、こんなふうに松田に言われることもない。
売り上げの低迷に悩まなくてもいいし、何より京介の役にも立てる。
だが、リエゾンの近辺も含めて、カフェや喫茶店やパティスリーは掃いて捨てるほど存在する。
ネットでのお取り寄せも簡単になった時代、客の選択肢は広がり続け、生き残りをかけた熾烈な競争は増すばかりだ。
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